冗談抜きでラグビーW杯中に「ビール不足」が起こる、確かな理由 | FRIDAYデジタル

冗談抜きでラグビーW杯中に「ビール不足」が起こる、確かな理由

歴史的に見てもラグビー関係者の「ビール好き」はケタ違い

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
ラグビー試合時のビールの消費量はサッカーの6倍ともいわれる/写真 アフロ
ラグビー試合時のビールの消費量はサッカーの6倍ともいわれる/写真 アフロ

W杯の大会組織委員会が注意喚起

ラグビーワールドカップ(RWC)の大会期間中は、ビールが飛ぶように売れます。大げさでなく、街中のビールが無くなる可能性があります。品切れになればビジネスチャンスを逃がすばかりか、SNSなどで拡散され地域の評判を落とすことになりかねないので、しっかりと準備してください――。

ラグビーをよく知らない人なら、「何の冗談か」と感じる言葉かもしれない。ところがこれ、RWC2019大会組織委員会の担当者が試合開催都市の飲食店経営者や宿泊関係者らを対象に行った説明会で、繰り返し強調された大真面目な注意の呼びかけなのだ。

ラグビーは、「パブ(パブリック・ハウスの略)」と呼ばれる地元の酒場でお酒を酌み交わす文化が根づくイギリス発祥のスポーツだ。そのため、ラグビーの試合となればビールを片手に観戦するのが、世界共通のスタイル。試合開始の数時間前からパブで飲み始め、スタジアムでも豪快に喉に流し込み、試合が終わればまたパブに繰り出して延々とグラスを傾ける。

RWC大会組織委員会によれば、2015年イングランド大会では、同じ会場で行われたサッカーの試合に比べて平均で6倍以上のビールが消費され、スタジアムとファンゾーンだけで190万リットルが飲み尽くされたという。

以下は、過去のRWCで起こった、嘘のような本当の事例だ。

・2003年オーストラリア大会では、アイルランドとオーストラリアのファンが集結した都市アデレードでビールが品切れになり、周辺地域に緊急支援を要請した。

・2007年フランス大会では、南アフリカとフィジーの試合があった都市マルセイユでビールが無くなり、ビジネスの好機を逃した。

・2015年イングランド大会では、試合がある週末の2日間で、通常のひと月分のビールを準備したパブがあった。

ラグビーは他のスポーツに比べ、選手たちの消耗が激しいため、試合と試合の間隔を長くとらなければならない。必然的に大会期間は長期になり(参考:RWC2019=44日、2020東京五輪=17日)、ファンも長く滞在することになる。その間、ファンたちはテレビ中継を見られるスポーツバーやパブに通い、お酒を飲みながら他会場の試合も観戦する。そのため、トータルで想像を絶する量のビールが消費されるだろう。「街からビールが無くなる」は、決してオーバーな表現ではないのだ。

なお、参考までにRWC日本大会の開催都市をまとめておく。これらの都市付近にお住まいの方はビールの売り切れに注意されたし。

■開催会場(都市)
札幌ドーム(北海道札幌市)、釜石鵜住居復興スタジアム(岩手県釜石市)、熊谷ラグビー場(埼玉県熊谷市)、東京スタジアム(東京都調布市)、横浜国際総合競技場(神奈川県横浜市)、小笠山総合運動公園エコパスタジアム(静岡県袋井市)、豊田スタジアム(愛知県豊田市)、東大阪市花園ラグビー場(大阪府東大阪市)、神戸市御崎公園球技場(兵庫県神戸市)、東平尾公園博多の森球技場(福岡県福岡市)、熊本県民総合運動公園陸上競技場(熊本県熊本市)、大分スポーツ公園総合競技場(大分県大分市)

『バッファロー!』って何? ラグビー選手独特の飲み会ルール

ラグビーでは、戦いが終われば敵味方のサイドが無くなるという考え方から、試合終了を「ノーサイド」という言葉で表現し、試合後は勝敗に関係なくお互いを称え合う文化が、どの国でも深く浸透している。その象徴のひとつが『アフターマッチファンクション』だ。

アフターマッチファンクションとは、試合を戦った選手やチーム関係者が集まり、軽食やドリンクを交えながら歓談する場のこと。直前まで、激しくぶつかり合い、時にはケンカになるほどエキサイトしていたとしても、試合後には仲良く酒を酌み交わすのだ。最近は消耗した選手たちのコンディションを考慮し省略されるケースも少なくないものの、本来試合とアフターマッチファンクションはセットで行うものであり、欠かせない習慣といえる。

海外ではホストであるホームチームが対戦相手をもてなすのが通例であり、クラブハウスに立派なバーカウンターを備えたパーティールームを持つクラブも珍しくない。

OBや地元のサポーターも参加するアフターマッチファンクションもあり、その売り上げの一部がクラブの運営費に充てられたりするほか、当日の試合でMVPに選出されたプレーヤーには特別なグラスが渡され、その日は無料で好きなだけビールを飲むことができる、といった面白いしきたりを持つクラブもある。

こうした背景があるため、ラグビー選手はとにかくビールをよく飲む。ラグビーをやっていたというだけで初対面なのに意気投合し、ジョッキを片手にラグビー談義に花を咲かせる――というのも、よくあるエピソードだ。

日本の現役ラグビー選手で酒豪として知られるのは、 日本代表歴代最多の98キャップを誇る鉄人、大野均選手。 優勝カップにシャンパンを1本注いで飲み干した、 昼過ぎから選手仲間と飲み始めて気がついたら24時間以上経っていた…など、お酒にまつわる伝説にはことかかない。 選手に厳しく節制を求めるエディー・ ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチですら、「キンちゃん(大野選手の愛称)は酒がガソリン」 と代表チームでただひとり特別待遇を認めたほどだ。

そんなラグビー選手の間には、お酒を飲む際の「独自のルール」がある。たとえば、「右手でグラスを持ってはいけない」というもの。これは世界共通のルールで、いつでも握手できるように右手を空けておかなければならず、グラスを持って手が冷えたり濡れたりするのは失礼にあたる、という理由からできたものだ。

もし右手でグラスを持つと、すかさず周囲から『バッファロー!』の声がかかり、持っていた人は直ちにグラスの中身を飲み干さなければならない。ちなみに『バッファロー』の由来は、グラスを持った右手が「バッファローの蹄のように冷たいから」だとか。

もうひとつ「テーブルの端にグラスを置いてはいけない」というルールもある。これは、グラスを倒して飲み物が誰かにかかることがないように、という理由から。基準となるのは手の親指の長さで、テーブルの端から親指を伸ばし、指先がグラスに触れたらこれも『バッファロー』。

さらに基本的なルールとして「人を指差すのは失礼」というものもあり、右手でグラスを持つ人を見つけて、つい『バッファロー!』と指差してしまうと、その人も『バッファロー』になってしまう。

いずれのルールも、飲み会を「社交の場」として捉えているからこそ守るべき紳士的なルール。紳士のスポーツといわれるラグビーならではのマナーなのだ。

ラグビーワールドカップ日本大会では、海外から多くの観戦客がやってくる。抜群の相性を誇る「ラグビー」と「ビール」で、みなさんもぜひ多くの方々と交流を深めてはいかがだろうか。ただし、飲み過ぎにはくれぐれもご注意を。

  • 直江光信

    1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)

Photo Gallery2

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事