「ノーサイド・ゲーム」アストロズの運営費14億円は本当か?

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2015年W杯で快進撃を見せた日本代表が帰国した直後のトップリーグ開幕戦・パナソニック―サントリー。チケットは前売り完売だったが、協会の読みの甘さで観衆は半分も埋まらない失態を犯した

社会人ラグビーの現状を題材にしたTBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」が15日に最終回を迎える。ラグビーW杯日本開催にあわせる形で「構想3年」という丁寧な作りに反響は大きかった。ドラマでは、大手自動車メーカー『トキワ自動車』のラグビーチーム「アストロズ」が「年間14億円」の運営費を全額会社から受けている設定。この資金がなければ、いくらいい成績を収めようが来季、部は存在しないという企業スポーツチームの十字架もはっきりと描かれた。

「運営費の数字はその通りです」。

こう話すのは、自身もラグビートップリーグの強豪、サントリーサンゴリアスのゼネラルマネジャー(GM)、トップリーグCOOや日本協会理事を歴任した稲垣純一氏だ。その内訳について、こう明かす。

「その多くが人件費です。ほかに遠征費や合宿費も入ってきます。私がGMをしていたチームは45人中、35人が社員選手やスタッフで、そこにプロ契約選手が加わった。社員選手やスタッフに対して払っていたお金、つまり会社が払う給与の総額が大体3億円だったと思います。もし、プロ契約選手だけであれば、運営費の総額は11億円ぐらいにおさまっていたと記憶しています」

日本の社会人ラグビーはトップリーグの名のもと、全国16チームでNO・1争う。チームを支えるのはサントリーを筆頭にトヨタ自動車やパナソニックなど。日本の冠たる一流企業が「親会社」として運営費を捻出して、ラグビー部の支援をしている。毎年14億円もの資金で支援する理由は明快だ。

「企業のCSR(社会貢献)活動によるものです。その金額は毎年少しずつ増えていく流れにはありますが、しかし景気が悪ければ真っ先に削られるもの。それもあのドラマの通りです」。

人気スポーツのプロ野球の場合はどうなのだろうか。たとえば巨人軍の運営費の詳細はわからないが、売り上げは年間250億円のラインで推移している。

「その柱は満員となるホームゲームでの入場料収入です。その金額は1試合2億円あまりで、サッカー日本代表戦1試合で集まる入場料収入とほぼ同じです。ホームゲームが年間70試合もあり、入場料収入だけで140億円。さらにここ数年、頭打ちだったTV放映権も今年3月に動画配信サービス大手『DAZN』と年間20億円といわれる契約を結びました」(スポーツ紙巨人担当記者)毎年、数十億円の補強をすることは、痛くもかゆくもないのだ。

サッカーの場合はどうだろうか。

「J1リーグでは、J2に降格しない成績をあげるために年間30億円近い運営費が必要。J2もJ3リーグに降格しないために、毎年15億円近い運営費は捻出しないと苦しい経営になります」(スポーツ紙サッカー担当記者)。

Jリーグでは巨人軍より先行する形で、動画配信サービス大手「DAZN」と10年間、2100億円という大型契約を結んだ。

「J1リーグで優勝すれば3年間で22億円以上の優勝賞金などが入り、それとは別にリーグから毎年受け取れる配分金はJ1で3.5億、J2でも1.5億になる。J3でさえ3000万円が配分され、一気にリーグが潤いました」(スポーツ紙Jリーグ担当記者)。

バスケット人気をさらに加速させた八村塁

Jリーグの手法にならう形でバスケットも2016年秋からBリーグとして生まれ変わった。トップパートナーとしてソフトバンク株式会社と年間30億円を複数年にわたって支援される大型契約を結んだ。JリーグとBリーグ発足の陣頭指揮をとった川淵三郎・初代Jリーグチェアマンは「Bリーグはソフトバンクの孫正義さんの支援がなかったら、リーグの成功はなかった」と話す。

バスケットは日本代表がW杯と東京五輪出場も果たし、八村塁というスターも誕生。その人気もうなぎのぼりだ。3季目のBリーグで営業収入が10億円を超えたクラブが初年度の2から昨季は6に増えた。6月にB1初の1億円プレーヤー(富樫勇樹)を誕生させた千葉がB1優等生クラブのひとつ。会社として7季連続黒字を記録して昨年度は14億2704万円の売り上げを記録し、B1クラブでトップだ。千葉の公表資料によると、主な売上構成比率はスポンサー企業収入が46.5%、チケット販売が24%、グッズ販売は10.6%で、「選手にかかる人件費や体育館使用料などの運営費は7億円台といわれています」(スポーツ紙Bリーグ担当記者)。

千葉・島田慎二社長は「1億円プレーヤーを出せたことは、選手の活躍に見合った報酬をしっかり払える基礎体力を持てたということです」と胸をはっていた。B1の1試合平均観客動員は3078人で、昨年比106%と目覚ましい数字に見えないが、現場の選手スタッフは1チーム20人ぐらいの規模のため、入場料収入以外の収入を獲得できれば、1億円プレーヤーも出せるのだ。

サッカーやバスケットに続き、ラグビーもプロ化にむけて本腰をいれる。その中心にいるのが7月から日本ラグビー協会副会長に就任した清宮克幸氏だ。前出の稲垣氏も「何かを変えないといけないという中で出てきた方法論のひとつだと思います。清宮氏がプロ化に本気で舵をきるなら、応援するのは当然です」と力を込めた。

2020年1月に開幕するラグビートップリーグ16チームがすべてプロ化し、ホームスタジアムを持ち、運営費を現状より規模を大きくした20億円に設定した場合、どうなるか。稲垣氏とともに考えてみた。

「5億円のスポンサーを集められたとして、残り15億円をホームスタジアムで行う8試合の入場料収入で賄おうとすれば、1試合で2億円稼ぐことが必要。平均5000円のチケットとしても1試合4万人のお客さんを集めないといけない計算です」

プロ化への舵を切った清宮克幸副会長(左)。低迷する組織を必ず変えてきた強烈なリーダーシップが期待されている

これまで企業頼みで運営されてきたトップリーグの平均入場者数は5000~7000人。現状の仕組みのままでは、お客さんの数を増やし、さらにラグビー界全体の発展ものぞめないことからプロ化による改革を打ち出したが、実現には2つの壁があるという。まず第一の壁はリーグがビッグスポンサーなどの支援により大きな資金をもつことだ。

「JリーグとBリーグの成功の陰には運営組織が動かせる資金があった。そのことによって、お金が不足しているところに『出しますよ』と手を差し伸べることができ、これがプロ化への引き金になった。反対にその波にのれなかったバレーボール(Vリーグ)は結果的に今も所属しているチーム頼みになっています」(稲垣氏)

もうひとつの壁は「ラグビーが専用で使えるスタジアム」の確保だ。清宮氏はラグビーW杯で使用する12都市を本拠地にする構想を打ち出したが、現実は簡単にはいかなそうだ。稲垣氏が指摘する。

「ラグビーを優先的に使えるところは今のところ、大阪・花園ラグビー場、埼玉・熊谷ラグビー場、釜石・鵜住居復興スタジアムなど6カ所ほどしかない。Jクラブが持っているスタジアムを使わせてもらうことは簡単ではありません」

優先使用権を持っているJクラブのスタジアムには、契約書の中に「ベストコンディションで渡すこと」という趣旨の文言がある。ラグビーはFWのパワープレーが多く、スクラムやモールなどで芝がめくれるケースが多く、めくれた箇所が回復するまで時間を要することから、Jクラブも簡単には貸せないのだ。

2つの壁を乗り越えるために、まず何が必要なのか。稲垣氏が明かす。

「リーグを運営する人材のプロ化です。現場ばかりではない、チケットやマーケティング、広報PRもプロに徹しないかぎり、ラグビーのプロ化も成功しません。これもドラマで描かれていました」

最後は、ラグビー界の改革のために具体的に動き出した清宮副会長のもと一枚岩の“スクラム”を組めるか。ドラマは終わりを迎えても、日本ラグビー協会の『ノーサイド・ゲーム』はまだ、始まったばかりだ。

  • 写真アフロ、時事通信

Photo Gallary3

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