田村正和が本誌に”引退宣言”「僕はもう十分にやったよ」
ダンディな男を演じさせたら日本一 。いまでもこんなに格好いいのにナゼ?
ポケットに手を突っ込み、周囲の人々と談笑する男性(下写真)。何気ない瞬間なのに、ドラマのワンシーンのようだ。
本誌が原宿(渋谷区)の老舗中華料理店で俳優・田村正和(74)の姿をキャッチしたのは、4月中旬のことだった。
田村といえば、『パパはニュースキャスター』(TBS系)や『古畑任三郎』(フジテレビ系)など、数々のドラマで主役を張ってきた名優。ダンディな男を演じさせたら日本一の彼がいま、人生の岐路に立たされているというのだ。
「実は、田村さんはごく一部の人にだけ芸能界引退を告げているんです。直接的なキッカケとなったのは、今年2月放送の『眠狂四郎 The Final』(フジテレビ系)。視聴率もまったく振るわず、納得のいく演技もできなかった。これ以上俳優を続けるのは美学に反する、という気持ちのようです」(テレビ局関係者)
実際、この日の食事会も、身近なスタッフが彼の功績を労(ねぎら)うものだったという。
日本を代表する俳優としては、あまりにあっけない終わり方。はたして、本人の心境はいかばかりか。本誌は会食の数日後、都内の自宅から日課の早朝ウォーキングに出かける田村を直撃した。
――田村さん、先日の原宿での会食についてお聞きしたいのですが。
「……うん、なに?」
――あの会食は、引退を決意された田村さんを労ってのものだったとのことで。
「いや……僕が主演した『ニューヨーク恋物語』(’88年、フジテレビ系)ってドラマがあったでしょ。いまでもそのスタッフと、年に一度食事会をしてるの」
――では引退を決意されたというのは?
「うん……自分の中で、辞めてもいいかなと思ったんだよ。僕のことを気にかけてくれているスタッフがいてね。その人たちに今年の年賀状で『のんびりしたい。無職の日々が楽しみだ』って書いたの」
――田村さんの活躍を見られなくなるのは、ファンにとって寂しいニュースかと。
「自分としては、もう十分にやったなと。『眠狂四郎』は、20代で初めて出演して、40代、50代とやってきた。でも、2月の『The Final』では、完成前の試写を見て『これじゃダメだな』と痛感したんだ。オンエアを見る気にさえならなかった。自分にしかわからない、『これはもうアカンな』という感覚……」
――それが引退という気持ちに繋(つな)がった。
「そう。長い時間かけて感じてきたことが、あの作品でハッキリした。でも、(引退を)大っぴらに言うのは趣味じゃないから。まあ、宣言してもいいんだけどね」
――もう田村さんの姿は見られなくなる。
「残念だけど、再放送を見てください。良い作品も、悪い作品もあるけど……」
およそ60年もの長きにわたり、俳優としての生き方を貫いた田村。多くを語らず、潔(いさぎよ)く――。なんとも彼らしい”男の引き際”となった。
撮影:足立百合、等々力純生