首都圏クラッシュ 台風15号の猛威の前に日本社会は弱すぎた
最大瞬間風速60m、93万戸が停電、成田空港で1万人が足止め。被害状況をフォトルポ
神奈川県 南本牧ふ頭

70名以上の死傷者が出たうえに、首都圏のライフラインが麻痺状態に――。台風15号は、日本社会の脆さを露呈させた。
9月9日の朝3時前、台風15号が東京湾に侵入した。暴風を受けて発生した高波は横浜港を襲い、南本牧ふ頭敷地内に置かれた自動車が流されて散乱するなどの被害があった(上写真)。
災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏はこう語る。
「台風15号は、コンパクトでありながら勢力が強く、コース上のエリアには大きな被害が出ました。暴風や豪雨対策は過去のデータが基になりますが、いまはその想定を超えた台風が発生しています。竜巻で電柱に被害が及んだのは茨城で数年前にありましたが、台風で倒れたのは初めて見ました。関東には脆弱なエリアが広範囲にあることも今回あらためて分かりました」
小型ながらも最大瞬間風速は約60m。台風15号が与えた被害は凄まじかった。同日朝5時頃に、台風15号は千葉市付近に上陸。千葉市を含む約20地点で観測史上1位を記録したその暴風は、首都圏の電柱や木々を次々となぎ倒し、700軒以上の家屋や建造物を損壊させた。
千葉県市原市では、ゴルフ練習場のネットが風にあおられ、高さ10m以上のポールごと倒壊した。ネットとポールは隣接する住宅地に覆いかぶさるように倒れこみ、十数軒の家屋が損傷した。
(3枚目写真)
東京都心も大きな被害を受けた。目黒区立中央体育館では、工事現場の足場が崩れ落ちた。
(4枚目写真)
同体育館は東京五輪でテコンドーの公式練習会場として使用が決定し、改修工事中だった。
台風15号は激しい雨ももたらした。静岡県の天城山では1時間雨量が109㎜で観測史上1位を記録。首都圏でも70㎜を超える地域が続出した。東京都江戸川区の元土木部長で、リバーフロント研究所技術参与の土屋信行氏は言う。
「日本は多くの防災訓練が地震災害に対して行われており、それゆえに台風への対策が盲点となっているのではないでしょうか。シミュレーションができていない企業がほとんどだと思います。水害は人命被害とともに、経済的打撃が甚大なものになることを忘れてはいけません」
ここ数年の傾向として、大型台風は9月、10月に集中している。夏が終わっても、まだまだ油断してはいけない。
空港に閉じ込められた
9月9日夜7時過ぎの成田空港は、大半の発着便が欠航したうえ、空港と都心部を結ぶ電車やバスなどの交通機関がすべてストップ。空港はまさに「陸の孤島」となった。そのため海外からの観光客を含む1万人以上がロビーなどで夜を明かした。
「ロビーに入ると、利用客が所せましと寝袋に入って横になっていたので驚きました。段ボールで囲いを作る人、折りたたみ傘で眩しさを防ぐ人など、みんな少しでも快適に過ごそうと工夫していましたね」(9日夜に空港に到着した男性)
また、三鷹駅や津田沼駅など自宅からの利用者が多い駅では、9日朝に入場規制がかかり、駅の外に長蛇の列ができた。
交通機関以外のインフラも甚大な被害を受けた。暴風により送電線の鉄塔が倒壊するなどし、9日午前には首都圏内で93万戸が停電。停電の影響で千葉県では9万戸近くで断水もおきた。
「何日も前から台風15号の進路は予想されていたのですから、企業は事前に出社時間の変更を決めておくなど、特に交通麻痺に対する準備はしておくべきでした。しかし、1947年以来、関東地方は台風による大規模の災害を経験していません。それが理由で、台風に備えた現実的な対策が取られていなかったのでしょう」(東京都江戸川区の元土木部長・土屋信行氏)
台風15号は多くの教訓を残した。
神奈川県 南本牧はま道路

千葉県 市原ゴルフガーデン

東京都 目黒区立中央体育館

東京都 三鷹駅前

千葉県 木更津市

千葉県 空港通り

千葉県 成田空港内

『FRIDAY』2019年9月27日号より
撮影:濱﨑慎治、足立百合、小松寛之、結束武郎写真:朝日新聞社、アフロ