MGCもう一つの熱い戦い「シューズ革命」の舞台裏

ナイキの独走にアシックス、アディダス、ミズノが「待った」をかけられるか?

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ナイキの厚底シューズは3月に行われた東京マラソンでトップ5を占拠。日本記録保持者の大迫傑も履いている

9月15日、東京で、マラソングランドチャンピオンシップが開催された。東京オリンピックのマラソン代表選考を目的とした大会で、男子は中村匠吾が優勝、服部勇馬が2位、女子は前田穂南が優勝、鈴木亜由子が2位となり、東京五輪のマラソン出場を決めた。

熾烈な代表争いが繰り広げられたが、その舞台裏では日々進化するシューズにも注目が集まった。各スポーツブランドが生み出す最新技術と、マラソンランナーを支えるシューズ事情についてお届けする。

「厚底」が起こした新潮流

マラソンといえばアシックスというイメージが強いかもしれない。森下広一、有森裕子、高橋尚子、野口みずきと、オリンピックでメダルを獲得した日本人選手は全員がアシックスを履いていたからだ。しかし、ここ数年は状況がまったく異なる。近年、躍進を遂げているのがナイキだ。その原動力は、「厚底」と呼ばれるシューズである。

従来のレースシューズは「薄くて軽い」が常識だった。一方でナイキが登場させた新シューズは、ソールの最も厚い部分は約4cmあるが、重量は約198gと軽い。そのなかにはバネのような役割を果たすカーボンファイバー製プレートが、柔らかいフォーム(クッション材)に挟まれている。

何が凄いのかというと、カーボンファイバー製プレートの形状が復元するパワーと、反発性の高いフォームを推進力に生かすことで、ラクに速く走れるようになったのだ。さらに脚へのダメージが少なくなったため、マラソン終盤のペースダウンも小さくなった。

これは”魔法の靴”なのかもしれない。’16年リオ五輪のマラソンで、ナイキの契約選手たちが後に発売される『ズーム ヴェイパーフライ 4%』のプロトタイプで走り、男女合わせて6つのメダルを独占。’17年以降は、世界のメジャーレースで猛威を振るっている。今年3月の東京マラソンでは上位5位までがナイキの厚底シューズを履いていた。

そのなかでもリオ五輪で金メダルに輝いたエリウド・キプチョゲ(ケニア)の走りは神がかっている。’17年5月に行われた『BREAKING2』という非公認レースで42・195kmを2時間0分25秒で走破。翌年9月のベルリンマラソンでは世界記録を1分18秒も短縮する2時間1分39秒という信じられないタイムを打ち立てた。

マラソン世界記録を演出したナイキの厚底シューズは日本人選手のタイムも大幅に短縮した。’18年2月の東京で設楽が16年ぶりに日本記録を塗り替える2時間6分11秒。同年10月のシカゴでは、大迫が設楽の記録を21秒更新する2時間5分50秒をマークしている。

ふたりとも厚底シューズへの信頼は厚く、「いいシューズを選び、効率よく練習すれば結果はついてくる」と設楽が言えば、大迫も「僕のマラソンは『ズーム ヴェイパーフライ 4%』とともにあります。このシューズに支えられて一緒にきたという感じがある」と話すほどだ。

ナイキに対抗できるのは

メーカーと契約するトップ選手は「別注シューズ」を履いていることが多いが、大迫や設楽が着用していた『ズーム ヴェイパーフライ 4%』はサイズ、カラーを含めて市販されているモデルとまったく同じ。ふたりの活躍もあり日本人選手の厚底率は急上昇している。

たとえば箱根駅伝の出場選手では、アシックスとミズノが圧倒的なシェアを誇ってきた。しかし、厚底シューズが投入されると、’18年大会でナイキがトップに立ち、その後もシェアを伸ばしている。マラソンではミズノの顔といえる存在だった佐藤悠基が自らの意思でナイキの厚底を履いたことが業界の話題になった。佐藤は現在、特定のメーカーと契約を結ぶことなく、シューズを選ぶというスタイルを取っている。

そして男子のMGCファイナリストはナイキ使用者がダントツに多い。大迫と設楽、2時間7分台を持つ服部勇馬と藤本拓(ともにトヨタ自動車)らもそうで、出場31名中半数ほどがナイキだ。ちなみに藤本はアディダスからナイキにチェンジして、MGCが初マラソンとなる。ミズノは村澤明伸(日清食品グループ)と木滑(きなめ)良(MHPS)、アディダスは宮脇千博(トヨタ自動車)と大塚祥平(九電工)らが履いているものの、ともに”主力”をナイキに奪われたかたちだ。

ニューバランスはシューズ職人として有名な三村仁司がアディダスから移籍したこともあり、彼が別注シューズを手掛けていた選手がNBに履き替えている。「山の神」と呼ばれた今井正人(トヨタ自動車九州)と神野大地(セルソース)がその例だ。ナイキの厚底に対抗するかのような薄底タイプで、三村の職人としての意地がシューズにも表れている。

ナイキに対抗できるとしたらアシックスだろう。MGC出場者では7~8名が着用する見込みで、なかでも『TENKA』シリーズを履く’18年アジア大会王者・井上への期待が大きい。またMGCには参戦しないが、人気選手の川内優輝もアシックスとアドバイザリースタッフ契約を結んでいる。ナイキの一強時代に風穴を開けることができるか。

迎え撃つかたちとなるシューズ革命の覇者・ナイキはマーケティングでも攻めている。従来よりもフォームを増やして、ソールを厚くした『ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%』を含むズームシリーズの新色発売日をMGC当日の9月15日にぶつけてきたのだ。レースに出場する選手たちは新色の「ピンクブラスト」を履く予定で、東京五輪をかけた”頂上対決”を絶好のPRの場と考えている。

過去のオリンピック男子マラソン日本代表選手でナイキを履いていたのは、’00年シドニー五輪の川嶋伸次のみ。ナイキにとっては過去にないビッグチャンスだ。アシックス、ミズノ、アディダス、ニューバランスの反撃はあるのか。MGCで勝負をかけるランナーたちの足元に注目すれば、もうひとつのドラマが見えてくる。

世界を席巻するナイキの「厚底」

7月に発売された『ズームⅩ ヴェイパーフライ ネクスト%』は3万円近い高価格ながら大人気だ
エリウド・キプチョゲ(左)、モハメド・ファラー(右)ら世界のスターもナイキの厚底を愛用している

他のメーカーは対抗できるのか

アディダス

男子マラソンの世界記録を長年保持してきたアディダスだが近年は低迷気味。MGCでも着用するのは宮脇千博ら少数だけ
『FRIDAY』2019年9月27日号より
  • 取材・文酒井政人 写真アフロ(大迫、キプチョゲ&ファラー、宮脇)

Photo Gallary4

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