大腸全摘、なのに笑える!?『腸よ鼻よ』作者の「ギャグへの想い」
今、最も注目のエッセイ漫画『腸よ鼻よ』。
本作は、1万人に1人の難病・潰瘍性大腸炎を19歳で発症し、23歳で大腸を全摘出、これまで10回の手術を経験してきた漫画家・島袋全優(しまぶくろ・ぜんゆう)さんによる、自身の闘病生活をつづった4コマ漫画だ。

これだけ聞くと、「なんだか内容が重そう」と身構える読者もいるかもしれない。しかし本作は、闘病をとことん面白おかしく描いた作品。濃すぎるキャラクターたち、はさみこまれる名作漫画のパロディ、毎話紹介される「腸に優しい食材」情報、そして、作者本人にして本作のヒロイン・島袋全優(美少女)のキレッキレのツッコミなど、全方位から読者の腹筋を崩壊させにかかってくる異色のギャグエッセイなのだ。
漫画配信サイト「GANMA!」で連載中の本作は、その突き抜けた面白さがSNS上で話題となっただけでなく、今年の8月には「次にくるマンガ大賞2019」Web部門3位に輝いた。ニコニコ動画で生放送された授賞式では、インパクトあるメイクで登壇した作者の姿に、会場は大盛り上がりとなった。

単行本1巻も9月13日に発売され、まさに今ノリにノっている漫画『腸と鼻よ』。作者・島袋全優さんに、連載にいたるまでの経緯を聞いてみた。
「デビュー作の連載が終了した頃に、地元(沖縄)の病院から専門医がいなくなってしまったんです。病状が悪化して激痛が襲うので、ほとんどの生活をうつ伏せで過ごしてました。個人でちょこちょこ仕事はしていたものの、ほぼ無職の状態が1年半ほど続いて。貯金もなくなりかけ、モルヒネも効かなくなったので、三重県の病院で専門的な治療を受ける事になりました。
徐々に回復してきた時、編集Kさん(※『腸よ鼻よ』作中にも登場)に『闘病ギャグエッセイを描かないか』と声をかけてもらったのが連載のきっかけです。元々、自分の病気についてはいつか描きたいと思っていたので、秒で『やります!』と答えました」
ここまでを語り、「情報量が多くてすみません」と付け加える島袋さん。連載開始までの道のりからすでに壮絶である。その後、打ち合わせや会議を経ていよいよ連載が始まったのだが、3回目にして休載することになったという。
「2話まで描いた時に、体調をもうドン引きするくらい壊してしまい、緊急手術することになって連載3回目で休載しました。どんな病状だったのかは、いつか描ければいいかなと」
「次にくるマンガ大賞」受賞式でも、「休載の理由が9割緊急入院」と担当編集がフリップで紹介し、会場と動画コメント欄をざわつかせた本作。確かに連載ページを見ると、「休載のおしらせ」がぽつぽつと並び、各話あとがきには「入院しながら描いていました」という記述もたびたび見受けられる。
作中でも、医師や看護師に怒られつつ病院で漫画を描く姿が出てくるので、「きっと今もあんな風にして描いているんだろうな」と思わず想像してしまう。本作は闘病生活を描くとともに、島袋さんが経験してきた“漫画家としての日常”も描いているのだ。本人はこう語る。
「描くうえで気を付けているのは、テンポとノリとテンションです。あとは、『闘病だけど第三者が読んで笑える内容』になるよう、ネームの時点で編集さんと打ち合わせします。主観だけだと、どうしても病気に対する辛さとかが出すぎちゃうので、そういった重さを読者に伝えないようにしています。笑って読んでもらいたいんです」

デビュー作『蛙のおっさん』もギャグ4コマ漫画だった島袋さんだが、昔からギャグ漫画家を目指していたのだろうか?
「ギャグ漫画は小さい頃からめちゃめちゃ好きです。どんな雑誌でも、まず最初にギャグ漫画を読むくらいです。四コマ漫画に関しては、中学生のころから描いてたので親しみ深いというのもあります。
ただ、最初から『ギャグ漫画家になろう!』と目指していたわけではなく、学生時代には妖怪バトル漫画やホラー漫画など、色々な漫画を描いていました。専門学校の講師や、編集さんに見せた時、一番ウケが良かったのがギャグ漫画です。邪道かもしれないですが、漫画家デビューできるならどんなものでも描きたい、という気持ちは強かったです」
そのギャグセンスが開花し、漫画家としてデビューした島袋さん。これまでは創作が中心だったが、本作はエッセイ漫画ということで、気を配っている部分もあるという。
「自分に起こった事を漫画にしているので、色々と気を使っていることは多いです。特に登場人物には悩まされます。実在している人物ですし、あんまりハチャメチャに描いたら怒られそうなので、許可をもらった人だけハチャメチャにしてます。
あとは、実際に起こったことをどのくらい忠実に描くかという加減が難しいです。事細かく描いてたらダラダラしてしまうので、『ココは漫画にする必要はないな』と思った事は削っています」

作中でも、「(自らの闘病生活を)いつかネタに使うかもしれないし」と漫画家魂を感じさせる発言をしていた島袋さん。有言実行しただけでなく、「次にくるマンガ大賞」3位を受賞するほどの注目作となったわけだが、受賞した際の気持ちを最後に聞いてみた。
「本当に嬉しかったです。たくさん応援して下さる方たちには感謝しております。漫画描いててよかった~って思いました。正直に言うと、大きな実感はまだなくて、とりあえず今は、漫画を描き続けてそれを読んでもらえればいいなと思っています」
絶賛連載中の『腸よ鼻よ』だが、いよいよ大腸の全摘出手術に挑むという、ひとつの山場をむかえている。今後も、島袋さんは「読んで笑ってもらいたい」という気持ちをそのペンに乗せ、ハチャメチャな闘病記を読者に届けてくれるだろう。
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取材・文:大門磨央
石川県出身。雑誌やWEBを中心に漫画、アニメ、映画などのコラムを執筆中