日本ハム・近藤健介 前人未到の打率5割を叩き出す!
異次元の高打率の秘訣を明かした
「もちろんヒットを打つにこしたことはない。ただボクの長所は、その気になれば狙って四球を選べることです」
日本ハムの3番打者・近藤健介(24)が、自信たっぷりに話す。
昨季は腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアで後半を棒に振り、規定打席に達しなかったものの打率4割1分3厘。100打席を超えて、4割以上を記録した選手は近藤がプロ野球史上初めてだ。今季も開幕から打ちまくり、両リーグトップの4割8分5厘(4月9日現在、成績は以下同)。異次元の打率5割達成を狙える状況にある。
際立つのは選球眼の良さだ。4月5日の楽天戦では、5打席24球のうちバットを振ったのは適時打を放った一度だけ。残りの球はすべて見送り、4つの四球で出塁した。プロ野球記録の158(’74年に巨人の王貞治が達成)を超えるハイペースで、四球を選んでいるのだ。
「ボールと判断したら決して振りません。打てる球だけに手を出すようにしている。5回打席に立って1安打でも、他4回が四球なら打率10割ですからね」
近藤が野球を始めたのは、小学4年生の時だ。地元(千葉県千葉市)の中学校で野球部の顧問をしていた父親の勧めで、軟式野球チームに入団。中学(東京都葛飾区の修徳学園)では、1番打者として全国大会にも出場した。
「中学生の時から、プロに行こうと思っていました。進学先に選んだのは、神奈川県の横浜高です。関東圏内で、一番プロ野球選手を輩出していますから。ただ推薦で入学できるほど、ボクには実績がなかった。そこで横浜高の練習に自主的に参加し、コーチの小倉(清一郎)さんに直談判し頭を下げたんです。『どうかボクを入学させてください』と」
横浜高では強肩強打の捕手として、高校通算35本塁打を記録。3年時にはアジア野球選手権日本代表にも選ばれ、’11年にドラフト4位で日ハムに入団する。
毎日20分の動体視力トレ
だが――。入団からしばらくしても、成績が安定しない。前年が良くても翌年がダメ。イラ立ちは募るばかりだった。
「ア――ッ!」
「クソッ!」
凡打が続くと、近藤の悔しそうな絶叫がベンチに響いた。
「結果に一喜一憂し、精神的なムラが大きかったんです。イメージ通りの打球を飛ばせないと大声で叫び、凡退すればヘルメットを投げつけるなど道具にあたっていた。チーム内では中田翔さんと一、二を争う切れやすいキャラでした。ボクのせいでベンチの雰囲気が悪くなりましたが、感情を制御できない。自分自身を冷静に見る余裕がなかったんです」
悩んだ近藤が球団のトレーナーに相談し、’16年末から始めたのが臨床心理士・松島雅美氏の推奨する「メンタルビジョントレーニング」だ。毎日20分間、動体視力を鍛え、視野を広げる練習を続けた。
「ボクは打席で集中し過ぎて、視野が狭くなっていました。松島先生のアドバイスで『泳いでもいいや』ぐらいのラクな気分で打席に立つと、逆に視野が広くなったんです。他にも、さまざまなトレーニングもしました。乱数表のように無数の文字が書かれた1枚の紙の中から一定時間内に『あいうえお』を見つけたり、壁に当てたゴムボールに書かれた言葉を跳ね返った瞬間に判別するなどです。毎日の結果は松島先生に報告し、次はどんなトレーニングをすればいいのかレクチャーを受けています。もともとボクは、両目1.5と視力がいい。効果は劇的でした。ボール球を強引に打ちにいくことがなくなった。球を見極められるので体勢を崩されることもなく、自分が捉えられるボールだけを打てるようになったんです。打席でも精神的に余裕ができ、結果に一喜一憂しなくなりました」
メジャーで大活躍する大谷翔平も、近藤のたぐいまれな打撃を絶賛している。
「よく遠征先で焼き肉や寿司を食べながら、バッティングについて長い時間2人で話し合っていました。大谷の活躍は、試合前にロッカーのテレビで見ていますよ。初本塁打を打った直後には、LINEで『みんなで見てたぞ。引き続き頑張って』とメッセージを送りました。しばらくして大谷からは『ありがとうございます』と返信がありました。ボクも負けてはいられません。今季は首位打者のタイトルをとりたい。期待される数字に少しでも近づけるようにしたいです」
近藤が驚異の選球眼で、前人未到の打率5割を叩き出す。
撮影:小松寛之