日本代表の開幕戦、ロシア代表主将は「地図に載らなかった」町出身

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18日、記者会見にのぞんだロシア代表のヴァシリー・アルテミエフ主将(撮影:斉藤健仁)

 

いよいよ9月20日(金)から、日本で、そしてアジアで初めてとなるラグビーワールドカップ(W杯)が始まる。ラグビーのW杯はサッカーのW杯、夏季オリンピックに並ぶ「世界三大スポーツ」の一つと称される国際的なスポーツイベントだ。

開幕戦はもちろん、開催国である日本代表(世界ランキング10位)が登場し、その対戦相手はロシア代表(同20位)。実はロシア代表は、今大会はヨーロッパ予選で3位と出場できないはずだったが、スペイン代表とルーマニア代表の選手の資格問題が調査され、その結果両者が失格となり、ロシア代表が繰り上がる形で2011年以来2度目の大舞台への出場となった。

ロシア代表は国のシンボルでもある熊のエンブレムをつけ、愛称もそのまま「ベアーズ」だ。日本代表にとっては格下であり、絶対に勝たないといけない相手だ。しかし、昨年11月の対戦時は33-27で勝利したが、前半はリードを許すなど、決して油断できる相手ではない。

その注目選手はキャプテンのFB(フルバック)ヴァシリー・アルテミエフとCTB(センター)のウラジミール・オストロウシュコの2人だ。

口ひげをたくわけ、まるでフレディー・マーキュリーのようなイケメン選手のアルテミエフは、ロシアのシリコンバレーと言われるモスクワ北西部のゼレノグラードの出身である。この町は、冷戦中はレーダーなどソ連の重要な技術開発が国家事業として秘密裏に行なわれており、そのため当時は地図に載らない町だった。ただ、同時にゼレノグラードはモスクワの中では、特に少年ラグビーの盛んな場所でもあった。

中学を卒業する頃、両親はヴァシリー少年に海外で学ばせることを望んだが、彼は一つ希望を出したという。それは「ラグビーがプレーできる学校に行きたい」。色々な学校を探した結果、両親はアルテミエフを、ギャリー・リングローズ、アンドリュー・コンウェイらアイルランド代表を輩出するダブリンの名門校ブラッククロックカレッジに留学させた。

単身ロシアからアイルランドに渡った、シャイなアルテミエフ少年。しかし、この地で元アイルランド代表のWTB/FBルーク・フィッツジェラルドに出会い、クリスマスにはフィッツジェラルドの母が2人に同じプレゼントを用意するなど、まるで兄弟のような無二の親友のような関係になっていく。

学校のラグビークラブとはいえ、多くの少年がプレーしており、観客だけでなくしばしばプロのスカウトも見学に来るほどのレベルの高さだった。アルテミエフ少年は、こうした環境でラグビーにさらに打ち込むようになる。卒業後はユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで法律を学びながら競技を続けて、2008年に帰国した。

するとすぐにロシアの7人制ラグビー代表に選出され、2011年、15人制ラグビーのロシア代表が初めてラグビーワールドカップに出場した時のメンバーにも選ばれた。そして奇しくもロシア代表はアイルランド代表と同じ予選プールに入った。スコアは12-62と大敗するものの、アルテミエフはFBとして先発で出場、後半にはトライを挙げた。ロシアは結局1勝もできず4連敗で大会を終えたが、アルテミエフはすべての試合に先発出場した。

アルテミエフはその後、2シーズンほどイングランドのプロクラブでプレーした後、32歳になる現在までロシアのクラスニ・ヤールでプレーしている。モスクワから約4,100キロ離れたシベリアのクラブでプレーする理由を「ロシアのラグビーの裾野を広げて、ロシアのラグビーを発展させるのが夢だから」と屈託なく語る。

32歳になったアルテミエフは現在ロシア代表として88キャップを誇り、今大会こそ母国に初勝利をと強い意志で大会に臨んでいる。

ウラジミール・オストロウシュコは7人制代表の国際大会で100トライを記録する決定力を持つ(アフロ)

ロシア代表を牽引するもう一人は、やはり同じく2011年ワールドカップに出場したCTB/WTBウラジミール・オストロウシュコだ。

北コーカサスのクラスノダール出身で、若い頃からロシアのラグビーを支えてきた選手のひとりだ。2011年ワールドカップは予選プール4戦すべてに出場し、イタリア代表戦とオーストラリア代表戦でもトライを挙げた。そして、オストロウシュコは「セブンズマシーン」との愛称もあるほど、7人制ラグビー(セブンズ)のスターとしても有名だ。

2007年からセブンズロシア代表の中心選手として、ワールドシリーズにも数多く出場し、現在まで100トライ以上を挙げている。力強い走りで相手ディフェンスを突破していく姿は、動画でもよく取り上げられ、2016−17シーズンの国際大会では大活躍し、当時のイングランド代表キャプテンに「まさにモンスター。タックルもできない。彼があと6人いたらロシアはセブンズ王者になる」と言わしめたほどだった。

ながらく15人制ラグビーのロシア代表からはしばらく遠ざかっていたが、昨年、2019年ワールドカップの出場が決まり、「セブンズのフィジカルとメンタルの強さ、自分の経験を若い選手たちにシェアできたら」と、4年ぶりに15人制ラグビーの代表に復帰した。

日本代表とは2013年11月、昨年11月の対戦でも前半にトライを挙げチームを勢いづけている。日本代表にとっても警戒すべき存在のひとりだ。

真面目な性格で、常にラグビーに専念してきたオストロウシュコもすでに32歳のベテランとなり、リーダー的存在でもある。ロシア代表のワールドカップ悲願の初勝利には、彼のトライが不可欠だ。

2011年ワールドカップを経験し、世界の舞台もよく知っており、前回大会は出場できなかった悔しさもよく覚えているベテラン2人が、ロシア代表のバックスの中心である。世界ランキング的には日本代表よりも格下だが、オストロウシュコが「世界を驚かせてロシアのラグビーを見せたい」と意気込むように、「ベアーズ」は、開幕戦の日本代表戦にすべてを賭ける。

  • 取材・文斉藤健仁

    1975年生まれ。ラグビー、サッカーを中心に、雑誌やWEBで取材、執筆するスポーツライター。「DAZN」のラグビー中継の解説も務める。W杯は2019年大会まで5大会連続現地で取材。エディ・ジョーンズ監督率いた前回の日本代表戦は全57試合を取材した。近著に『ラグビー語辞典』(誠文堂新光社)、『ラグビー観戦入門』(海竜社)がある。自身も高校時代、タックルが得意なFBとしてプレー

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