高齢ドライバーの交通事故はこうやって防ぐ
65歳以上のドライバーは全国で1818万人 でもこうすれば大丈夫!
いまや免許取得者の5人に一人以上が65歳以上だ。
今回、本誌はさまざまな事故現場から、その原因と特徴を検証。
どうすれば高齢者による事故を防げるのか、対策を紹介する。
「あっ、危ない!」
後部座席に座っていた30代のA氏が、そう感じた直後、タクシーは「ドーン!」という激しい衝突音とともに歩道に乗り上げ横転した。歩道を歩いていた男性がタクシーに吹っ飛ばされ、頭を強打し重傷。現場には男性の生々しい血のりがベットリと残った。タクシーの運転手は、65歳を過ぎた高齢者だった(1枚目写真)――。
乗客のA氏が振り返る。
「タクシーに乗ったのは3月26日の夜10時頃です。事故が起きたのは、(東京都杉並区の)JR西荻窪駅を過ぎたあたりでした。運転手さんは土地勘がないのか、カーナビを操作し始めた。かなり歩道に寄っていたので『大丈夫かな』と思っていたんですが……。ひかれた人は頭から血を流し救急車ですぐに搬送されましたが、私はタクシーの窓に首をぶつけただけで済みました。運転席に取り残されたドライバーが救助されたのは、事故から30分ほどしてからだそうです」
死亡者の56%以上が高齢者
高齢者ドライバーの事故が後を絶たない(表参照)。’17年の65歳以上の免許保有者は約1818万人。10年前の倍で、実に5人に一人以上のドライバーが高齢者なのだ。同年の交通事故死亡数は4431人。そのうち56.6%の2506人が高齢者だった。警察庁は高齢者へ免許証を自主的に返納するよう求めているが、実行するのは毎年30万人程度にとどまっている。
今年2月には東京地検特捜部長などを歴任した、弁護士の石川達紘(たつひろ)氏(78)の運転するレクサスが東京都港区白金で金物店に突っ込み、歩道を歩いていた37歳の男性が死亡する事故が起きた(4枚目写真)。金物店の店主の話だ。
「2月18日の朝、私と家族は家の2階で寝ていました。すると『ドスーン!』というもの凄い衝撃音と激しい揺れで目を覚ましたんです。慌てて1階に下りると、車がシャッターを破って店内に突っ込んでいました。運転手の男性は意識がありましたが、被害者はボンネットとシャッターに挟まれて押し潰されていました」
警察の取り調べに対し石川氏は、「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」と話しているという。多くの高齢者の交通事故現場を検証した、名城大学理工学部教授の中野倫明(ともあき)氏が解説する。
「高齢者が起こす事故の原因として、三つの要素が考えられます。まず、視覚の衰え。二つ目は、歩行者や対向車など複数のモノに対する認知判断の衰え。三つ目が、意識の問題です。長い運転歴で大きな事故を起こしたことのない高齢者の場合、若い頃と同じように運転できるという過信が事故につながっています」
日本人の高齢化にともない、今後65歳以上のドライバーはますます増える。事故を減らすには、どうすれば良いのだろうか。『交通事故鑑定ラプター』所長の中島博史氏が語る。
「高齢者の方は走り慣れた道や自宅の駐車場でも、車体をぶつけそうになるなどヒヤッとした経験があれば自主的に病院で検査を受けましょう。認知能力が落ちている証拠です。ご本人が拒否する場合は、ご家族が『念のために』とやんわりと通院を勧めることが大切。高齢者の事故現場の多くは交差点や高速道路の合流地点のような、複数のモノに注意を払わなければいけない場所で、認知能力が低いと非常に危険だからです」
だが公共の交通機関の少ない地域では、高齢者は自家用車に頼らざるをえないだろう。対応策はあるのだろうか。
「最近では数万円ほどの費用で、アクセルを強く踏み込むと自動的に停車したり、人や壁に近づくと警告音が鳴るなどの安全システムを車に追備できます。セーフティネットは急激に進歩している。こうした機能を積極的に活用すれば事故は確実に減り、高齢者も安全に運転することが可能になるんです」(中島氏)
国土交通省は各自動車メーカーに高齢者用自動運転車の開発、実用化を早急に進めるよう求めている。
撮影:濱﨑慎治
写真:共同通信社、時事通信社、読売新聞/アフロ