南ア戦から4年 あの「奇跡」を大学の寮で観戦した男達が見る夢

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ナンバーエイトでスタメン出場した姫野和樹

ラグビーワールドカップ日本大会が9月20日、東京スタジアムで開幕。ロシア代表に30―10で勝った日本代表の登録メンバーだった姫野和樹、坂手淳史、松田力也は、帝京大学の現役学生としてあの試合を見つめていた。

「もう、うるさいねん!」

「いやいや。試合、凄いで」

「……起こしてくれて、ありがとう」

2015年9月20日未明。百草園にある帝京大のラグビー部寮は普段より騒がしくなっていた。当時このチームの主将だった坂手は、現地時間19日にあったイングランド大会の日本代表対南アフリカ代表戦を同部屋だった尾崎晟也、竹山晃暉とテレビで観ていた。

翌日はチームの練習があるため「前半だけ」と言い合っていたが、画面の向こうでは日本代表が過去優勝2回の強豪チームの足元へ刺さり続け、12―10とリードして前半を折り返す。

坂手が予定を変えるのは自然な流れで、下の階の部屋から苦情を言いに来た松田も液晶画面を見たら騒音に納得。理不尽な上下関係とは無縁な帝京大のラグビー部の寮は、少なくない電灯をつけたまま夜を明かすこととなった。試合は34―32で日本代表が勝利。史上最大の番狂わせと言われたこの80分は、日本中にラグビーブームの渦を巻き起こした。

試合後も興奮して寝られなかった坂手が翌朝に食堂へ行くと、岩出雅之監督は「昨日の試合、皆で観よう!」と録画機のスイッチを入れていた。当時で就任29年目のベテラン指導者だ。教え子の潜在的な気分を察するには十分な時間を過ごしていた。

「勝った瞬間は鳥肌が立ちましたし、感動しましたね。あそこで日本のラグビーが、僕たち選手の意識も変わったと思います。僕自身、あの試合を生で観て、『あそこまでラグビーで人を感動させられるのか。僕もそうしたい』と感じました」

当時から日本代表の練習生にもなっていた坂手がこう振り返る瞬間を、少し複雑な気持ちで過ごしていたのが姫野だった。学生時代は長らく故障に悩まされた姫野もまた、2013年夏、日本代表の強化合宿に呼ばれたことがあった。

自分も怪我さえなければ、もしかしたらこの場に立てたかもしれない……。少なくとも、この場に立つための競争には参加できたかもしれない……。自分の国の代表チームが歴史的な白星を挙げたことを喜びながら、内なる悔しさも認めるしかなかった。

試合後、ロシアの選手と言葉を交わす坂手

日本代表の選手として大舞台を迎えるにあたり、こう決意を固めた。

「この時から、やはり僕は日本代表になりたいんだという目標がクリアになった。(日本大会の舞台に)立つイメージはできていたというか、それが叶って嬉しいです」

光線と夜空に包まれた緑の芝に『君が代』が流れた時、ナンバーエイトで先発の姫野は感極まってほほを濡らした。試合が始まるや、相手ボールのキックオフからのこぼれ球を後逸。ピンチを迎えてしまった。

「緊張したというより、気持ちが上がり過ぎたというか…。その分、ファーストプレーで視野が狭くなったと思います」

もっとも、次に同じ場面に出くわしたら確実にキャッチし、すぐに鋭いランを仕掛ける。それ以外の場面でも持ち前の突破力を披露し、4トライ以上獲得によるボーナスポイントを含め、勝ち点5を記録。途中出場した坂手と松田とともに、安堵してグラウンドを去った。

「自分が前に出ることによってチームが勢いづくだろうと思っていましたし、かなりイメージして、思い切って、やりました。最初のノックオン(落球)で切り替わったので、どんどん自分の持ち味が出せるようになりました」

28日には世界ランク1位のアイルランド代表戦を控える。所属のトヨタ自動車で1年目から主将を務める姫野は、平易かつ前向きな宣言を残すのだった。

「次に向けてというより、自分たちが準備してきたことを100パーセントの力を出すための準備が大事。アイルランド代表戦への戦術をまた落とし込んで、100パーセントの力をぶつけたいです。チーム全体がワールドカップを知れたし、次の試合からは最初からいけるんじゃないかなと」

日本代表としてワールドカップに出るという目標を叶えた、いつかの百草園の住人。今度は日本代表としてワールドカップで8強入りするという使命を果たしたい。

後半28分、松島の3つめのトライの後、コンバージョンを蹴る松田
  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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