自衛隊がいまニッポン版海兵隊を創設する意味は
フォトルポ ニッポンの海兵隊
撮影/菊池雅之(フォトジャーナリスト)
6両の車が、洋上から白波を立てながら近づいてくる。水陸両用車「AAV7」だ。
キュラキュラキュラ……。
甲高いキャタピラ音を立て、上陸したAAV7が勢いよく浜辺を進む。しばらくして停車すると、車両後部がゆっくりと開いた。なかから飛び出してきたのは、銃などでフル装備した陸上自衛隊の隊員たちだ――。
陸上自衛隊は3月27日から、全国に置かれた5つの方面隊の指揮を一元化するなど大改編に乗り出した。目玉となるのが、洋上から敵の拠点を急襲するため「殴り込み部隊」と呼ばれる海兵隊の創設だ。2月の日米共同軍事訓練(米カリフォルニア州)で公開された、「水陸機動団」である。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が語る。
「’02年に660人ほどの『西部方面普通科連隊』というミニ海兵隊が、長崎県佐世保に作られました。この連隊を大きくし、2100人ほどの『団』に刷新したのが水陸機動団です。将来的には3000人規模の部隊にし、沖縄にも配備予定。日本が持っていなかった水陸両用車も、米国から50台以上購入することになっています」
日米共同訓練では、上陸した自衛隊員がコンテナ型の建物が並ぶ仮想市街地に進攻した。敵役を務める米海兵隊員との模擬戦闘の末、街を制圧。特科部隊が120㎜迫撃砲を撃ち込む、実戦さながらの訓練も行われた。演習を取材した、軍事情勢に詳しいフォトジャーナリストの菊池雅之氏が話す。
「装備を身につけたまま泳ぐ着装泳など、自衛隊は水陸両用戦の基本を米海兵隊から学びました。中でも『統合火力誘導訓練』は重要です。まず火力誘導班が、敵に気づかれないように上陸。敵の居場所を正確に味方へ伝え、誘導爆弾の投下や艦砲射撃を行います。敵のいる島に上陸するためには不可欠な戦術で、米海兵隊内には専門の組織があるんです」
菊池氏は水陸機動団が創設された意味を、次のように解説する。
「自衛隊を9条に明記するという自民党が進める憲法論議は本格化していませんが、当の自衛隊はどんどん進化しています。近代戦においては、戦車同士の戦闘は想定されていません。現実問題として中国などの脅威にさらされているのは、九州や沖縄の島嶼(とうしょ)部です。水陸機動団は、その防衛のために作られたスペシャリスト部隊です。それだけでなく、自衛隊は核攻撃やサイバーテロに備えるため、巡航ミサイルや高性能の監視システムを導入する”宇宙空間防衛隊”の創設も検討しています」
国会での憲法論議は遅々として進まないが、自衛隊の装備は国民の知らぬ間に大きな変貌をとげているのだ。