コインチェック「580億円流出」という完全犯罪
ホワイトハッカーもお手上げ 「ダークウェブという魔界に溶けてなくなった
「NEM財団を含め、ホワイトハッカーによる犯人追跡は、過度に期待されていた部分があると思います。盗まれたNEMが様々な人間に販売され始めた時点で、犯人の追跡はほぼ不可能でした」(ホワイトハッカーのCheena氏)
仮想通貨取引所のコインチェック社による、およそ580億円分のNEM流出騒動から2ヵ月。史上最悪の盗難事件を引き起こした犯人は、未だその影すら見せていない。
そんななか、「ホワイトハッカー」と呼ばれる技術者たちが、盗まれたNEMに「印をつけ」、犯人を追跡。まるで映画のような「ハッカーvs.ハッカー」のアツいバトル模様は、テレビ番組でも特集が組まれるなど、彼らには事件の解決への期待がかけられていた。だが――。
「3月20日、犯人追跡の主体となっていたNEMの推進団体である『NEM財団』が、突如追跡の中止を発表しました。財団は『盗んだNEMをハッカーが換金するのを効果的に妨げた』とコメントを出しましたが、犯人の追跡情報についての言及はないまま。つまり、これ以上犯人の追跡をしても進展が得られない、と判断したということでしょう」(情報セキュリティ専門家の加藤正樹氏)
さらに22日、犯人が盗んだNEMの販売に使用されていたサイトからNEMの在庫がなくなり、販売が終了している。
「盗まれたNEMは完売したと見られています。ホワイトハッカーたちによる追跡は、ほぼ無意味だったということです」(ITコンサルティング会社・エルプラス代表の杉浦隆幸氏)
盗んだ通貨の資金洗浄に用いられたのは、「ネット上の魔界」であるダークウェブ。通常の海外の取引所ではなく、この特殊なサイト上にある「非合法取引所」が使用されたことが、犯人の特定をさらに難しくしたという。
「ダークウェブはドメインが『.onion』になっているサイトのことで、閲覧するには多少のネットの知識が必要です。そこではまさに『闇』のマーケットが開かれており、パスポートやクレジットカードの番号、麻薬などが売買されていただけではなく、殺人依頼の取引まで行われています。サイトを開く時点で複数の海外サーバーを経由するため、身元を隠した状態で取引することができるので、このような『闇』の取引の温床になっている。犯人はこのサイト上で、盗んだNEMを15%引きで販売し、ビットコインやライトコインなどに交換して、資金洗浄を完了させた。これにより、盗まれたNEMへのマーキングは意味がなくなってしまったのです」(前出・杉浦氏)
現状では、警視庁による異例の100人体制の捜査をもってしても、未だ犯人のシッポすら掴むことはできていない。前出・Cheena氏が話す。
「我々ホワイトハッカーにできるのは、盗まれた仮想通貨にマーキングし、その流出ルートを追跡することまで。ダークウェブなどを使用し、痕跡のない状態でその通貨を売られてしまえば、犯人の動向を追うことはできない」
さらに、仮に犯人が見つかっても、「電子計算機使用詐欺に該当する可能性はあるが、仮想通貨についてどこまで法律が適用されるかわからない」(ITに関する法律に詳しい増島雅和弁護士)という。
仮想通貨バブルに盛り上がっていた人々を嘲笑うかのように成し遂げられた、驚異の完全犯罪。「580億円事件」を引き起こした犯人は、ホワイトハッカーなど眼中になく、大金の使い道に頭を悩ませているのかもしれない。
写真:小松寛之(コインチェック本社) 杉浦氏提供(ダークウェブ) ロイター/アフロ