千葉に完全停電を免れた町があった! 電気も「地産地消」の時代? | FRIDAYデジタル

千葉に完全停電を免れた町があった! 電気も「地産地消」の時代?

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千葉県内で長期間続いていた停電がようやく解消しつつある。大規模停電のさなか、千葉県睦沢町の道の駅では天然ガスを利用した電気を使い、浴場やスマホ充電用の施設を住民に開放したという。もはや、大手電力会社だけに頼ってはいられない。電気は地産地消する時代なのではないだろうか。これからの電力のあり方について京都大学特任教授の安田陽氏に話を聞いた。 

台風15号による千葉県内の大規模停電は、県中南部を中心に一時90万戸を超えた
台風15号による千葉県内の大規模停電は、県中南部を中心に一時90万戸を超えた

睦沢町の例は稀有なケース

台風15号の影響で千葉県が広域にわたって停電で苦しんでいるなか、電力供給が途絶えなかった地域がある。千葉県睦沢町だ。地中に眠る天然ガスを利用して、電気の地産地消システムを作り、この9月から稼働を始めた。その矢先の台風だった。東京電力の送電線に頼らない自営線を地下に引き、停電6時間後には町営住宅や道の駅に電気の供給を再開。道の駅の温浴施設や携帯電話の充電設備を付近の住民に開放した。

このような事例を見ると、これからの電気は地産地消に向かうべきではないかと思ってしまう。しかし、安田陽氏は、こう警告する。

「睦沢町のケースは、今回の大規模停電に際して早速素晴らしい有効性を発揮しましたが、なぜこのケースがうまくいったのか本質的な理解を深めないと、イメージや形だけ借りて真似しようとしてもうまくいかないと思います。停電時にも電気が供給できたのは、地産の天然ガスがあったからだけではありません。イメージだけで安易に『地産地消』という美辞麗句に飛びつかないほうがよいと思います」(安田陽氏 以下同)

近所にメガソーラーなどの施設があっても、地元には電力を供給できない

千葉県内には多くのメガソーラーの発電施設があるようだが、そこから電力を供給することはできなかったのだろうか?

「地産の天然ガスだけでなく、その地域にどんなに大規模なメガソーラーやバイオマス発電所があったとしても、そのまま周辺地域に電力を供給することはできません。地域で自前の送配電線を建設したとしても同じことです。多くの人が、自前の設備があれば『電力会社に頼らなくてすむ』という幻想を抱いているようですが、市町村などの狭い地域の閉じたエリアで電気を発電してそれを配るには電力の需給をコントロールするインテリジェントな制御システムが必要なのです。 

睦沢町のプロジェクトが今回成功したのは、地域にローカルな制御システムがあったからです。地産の天然ガスは全国でも珍しくこればかりが表面的に着目されますが、実は重要なのは縁の下の力持ち的な制御システムで、これが国の促進事業の一環として設置されていたのです」

電気は基本的に貯めておくことができない。電力を供給するときには、需要と供給のバランスを見ながら細かく調整しなければならない。そのためには、制御システムが必要だ。今回メガソーラーを活用できなかったのは、このシステムがなかったからだとか。

「大規模停電が起こるたびに、蓄電池が必要だと唱える人がいますが、蓄電池は以前より安くなったとはいえ、高額です。それに、何十年に一度の大災害のためだけに蓄電池を配備したとしても、いざ必要になったときは、劣化して確実に作動するかどうかわからない。逆に、今回の睦沢町のプロジェクトのように、蓄電池がなくてもある程度の規模の地域発電所と制御システムがあれば災害時に役立つシステムを作ることも可能です。蓄電池自体は悪いわけではないですが、優先順位の問題として、なぜ、多くの人が真っ先に蓄電池ばかり考えるのか不思議です」

写真は、NYマンハッタンのミッドタウン中心街で、今年7月に起きた変電所の不具合による大規模停電の様子。5時間にわたり地下鉄もストップし、街は帰宅難民であふれた。停電の原因は自然災害だけではない
写真は、NYマンハッタンのミッドタウン中心街で、今年7月に起きた変電所の不具合による大規模停電の様子。5時間にわたり地下鉄もストップし、街は帰宅難民であふれた。停電の原因は自然災害だけではない

地域で電力網を作るマイクログリッドが理想の形?

では、理想的な電力の地産地消とは、どのようなものだろうか。

「現在、日本でも“マイクログリッド”の研究開発が盛んに行われています。マイクログリッドとは、自治体などのエリア内に太陽パネルや風力発電所などの地域分散型電源を持ち、地域内に配電するという小規模なエネルギーのネットワークです。平時は既存の電力会社(一般送配電事業者)の電力システムと接続して、外部と電力のやりとりをし、非常時には単独で運用できる。

『地産地消』とは鎖国や流通遮断をすることではなく、大規模な蓄電池を導入して肥大化した『備蓄倉庫』を作ることでもありません。ふだんは外部と“輸出入”を行っているという点が重要です。万一の災害時に威力を発揮するのは、インテリジェントな頭脳としての制御システムなのです」 

制御システムを適切に設計しそれを運用させるためには、それを監視し、定期的に点検する人材も必要になる。睦沢町のようなシステムを全国に展開したり、より大規模なものに発展しようとすれば、単にこのようなシステムを導入するだけでなく、地域での人材育成も大切だと安田氏は言う。 

「今回の睦沢町のマイクログリッドは道の駅とその周辺の住宅地という比較的狭い地域のマイクログリッドでしたが、さらに市町村レベルの大きな規模にしようとすれば、地域にコントロールセンターを置き、制御システムの保守や監視をする技術者も常駐させなければなりません。高度な技術者の雇用や教育・訓練も必要になります。自治体や地元企業などが出資し、地域新電力や自治体新電力の会社を興し、地域でマイクログリッドを運営すれば、新たな雇用も生まれるでしょう。

また、マイクログリッドは『大手電力会社に頼りたくない』という鎖国の考え方ではありません。既存の送配電網がある町に自前の送配電網を無理につくるのは二重投資で無駄にコストがかかります。既存の送配電網とは対立ではなく相互協調や住み分けの関係にあります。大手電力会社にも地方の設備投資や保守の負担が軽くなるというメリットも出てくるかもしれません」

地域内で余った電力はよそに売り、足りなかったらよそから買う。不足した電力を買う購入先は、大手電力会社とは限らない。2016年に電気の小売りが自由化され、電力は自由に売買できることになった。

「これまでは固定電力買取制度(FIT)が適用されていましたが、今後はFITの見直しの議論も進み、再生可能エネルギーも電力市場で売り買いされるようになります。電力市場では、株価のように時々刻々と電力価格が変化します。風がたくさん吹く時間帯や日中の晴れた時間帯は市場価格も安くなる。逆に夏の暑いときや冬の寒いときなど電力がたくさん必要とされるときには高くなる。

欧米では電力を売買する人はパワートレーダーと言われますが、マイクログリッドを運営する地域電力会社や新電力会社もいずれ活発に電力取引をする時代がやってきます。東京など大都市圏だけでなく、地域にすぐれたパワートレーダーがいれば、安い電力を地域に供給したり、地域の電気を外に高く売ったりすることもできます。 

ヨーロッパなどでは、すでに電力市場が20年以上前から整備されていて、人材も育成している。日本には本格的にパワートレーダーを多数抱える新電力はまだ数えるほど。今回の災害をきっかけに新電力や地域電力のあり方を見直し、地域で高い技能を持った人材の育成や雇用が進めばいいと思います」

電気がない生活を想定しておくことも必要

安田氏は、電力以外の問題も指摘する。

「今までは電気があるのは当たり前と考えられていましたが、これからの災害多発時代では、停電は一定確率で起こることがあるということも考えて、各自は身の安全を守るためにどのような行動をとるべきかを想定しておいたほうがいいでしょう。

たとえば、スマホの充電であればマイクログリッドのような巨額の設備に頼らずとも、手回し発電機やポータブルの太陽電池のような商品が既に売られています。逆に、在宅療養で医療機器のために電源を必要とする方がいる場合は、日頃より医療関係者とご相談して、万一の際の代替電源や避難計画を準備しておいたほうがよいでしょう」 

停電になっても、家が無事なら避難所に行こうと思わない人も多い。けれど、1週間停電が続いたら、避難所に行くことも考えたほうがいいという。

「千葉で大規模停電が起こったとき、全国から電源車が駆け付けましたが、今後は県レベルや市町村単位で連絡を取り合って、電源車をどの避難所に優先的に配備するかを検討すべきです。各市町村の行政には、万一停電が長引いた場合に備え、どの地域の人たちがどこの避難所に行くべきかをあらかじめ取り決めて、誘導勧告を行うことが望まれます。 

日本の避難所はプライバシーも保てず、他の先進国の避難所や仮設住宅に比べれば基本的人権が十分配慮されていません。地震や水害の時と違い家自体に損傷がなければ、自宅にとどまりたいと思うのも当然かもしれません。しかし、長期停電の場合、家自体が健全であったとしても、じわじわと健康が蝕まれ、お年寄りや小さい子どもさんなど弱い方から健康を害していきます。そうなる前に早めに避難所に避難する決断をするほうがよいですし、自治体もそのような避難体制を用意すべきでしょう。 

2016年9月1日、イタリア中部のアマトリーチェの町を襲った地震の被災者に用意されたテントキャンプ。一家にひと張提供され、プライバシーが保てる
2016年9月1日、イタリア中部のアマトリーチェの町を襲った地震の被災者に用意されたテントキャンプ。一家にひと張提供され、プライバシーが保てる

今後は、いざというときも健康を損ねない最低限の快適さが保てるような避難所のあり方や設備を見直す必要もあるのではないでしょうか。プライバシーへの配慮以外にも、災害時に避難所になる公民館や体育館の断熱性能を上げたり、熱供給をガスやお湯など電気以外の形態を検討するなど課題は多いと思います」 

台風や地震などによる停電が頻繁にニュースになっている昨今、万一の長期間の停電を防ぐためにはどうしたらいいか、停電になったときどうするべきなのか、地域社会レベルで常日頃から考えていく必要がありそうだ。

安田陽  京都大学大学院経済学研究科 再生可能エルギー経済学講座 特任教授。専門分野は風力発電の耐雷設計および系統連系問題。技術的問題だけでなく、経済や政策を含めた学際的なアプローチによる問題解決を目指している。著書に『世界の再生可能エネルギーと電力システム 電力システム編』『再生可能エネルギーのメンテナンスとリスクマネジメント』ほか。

  • 取材・文中川いづみ写真アフロ

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