ラグビーW杯 歴史の扉を開いた山中亮平が友人に弱音を吐いた夜 | FRIDAYデジタル

ラグビーW杯 歴史の扉を開いた山中亮平が友人に弱音を吐いた夜

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スコットランド戦後、笑みがこぼれる山中亮平(左)と姫野和樹(撮影:茂木あきら/JMPA)
スコットランド戦後、笑みがこぼれる山中亮平(左)と姫野和樹(撮影:茂木あきら/JMPA)

ラグビーワールドカップ(W杯)で史上初の決勝トーナメント進出を決めた日本代表は20日、南アフリカ代表戦に挑む。20日は2016年に他界した元日本代表監督で神戸製鋼GMだった平尾誠二さん(享年53)の命日。16日に都内で練習後、取材に応じたFB山中亮平は恩師の命日に行われる因縁の決戦について特別な思いを口にした。

「すごい日に試合がある。思い切りぶつかって全力で楽しんでやれればいいと思う。平尾さんがいなかったら、僕はここにいなかったと思う」

初のベスト8進出がかかった13日のスコットランド代表戦で後半10分にトゥポウにかわって入ったFB山中はトライには絡めなかったが、ボールを持てば積極的に突破を図り、背後に蹴られたボールに対して素早く戻り、キックで陣地を戻す献身的な動きで勝利に貢献。後半途中からスコットランドの猛攻を受け、防戦が続いたまま7点リードで迎えた残り5秒。横浜の日産スタジアムのスタンドからこだました「5,4,3,2,1」という絶叫の中、左足でボールを蹴りだしたのは山中。歴史の扉をこじ開けた当事者となった。

山中は東海大仰星、早大で司令塔として全国制覇に導いた。大学4年時に日本代表候補に選ばれ、2011年W杯に選ばれる可能性もあったが、その年にドーピング違反となり、2年間の資格停止処分を受けた。一度、神戸製鋼ラグビー部の退部を余儀なくされながら、山中が再びラグビーができるよう、尽力してくれたのが平尾さん。その恩に「勝利」という結果で報いたい気持ちは強い。そんな山中と早稲田大学時代に一緒にプレーした同級生の選手はこう明かす。

「今回のW杯を迎えるまで、日本代表に定着していたわけではなく、追加招集が多かった。普通だったら気持ちが切れますけど、山中は切れませんでしたね。学生の頃は、体があんなに大きいのに空中戦が強いわけではなかったし、見た目ほどハートも強いわけではなかった。あの2年で強くなったんだと思います。もし大学の時に、そのまま日本代表になっていたら、今頃、もうやめていたかもしれません」

同級生が明かした「あの2年間」の間に結婚し、子供にも恵まれた。山中は多くを語らないが、家族の存在によってラグビーができない期間、先の見えない不安を和らげ、支えになった。そのことを痛感するからこそ、友人に子供が生まれたらお祝いの品を贈るほど、周りへの気配りができるようになった。

それでも、謹慎期間が明けてラグビーを本格的に再開すると、その潜在能力の高さゆえ、怒られることも多かった。2015年W杯を迎えるまでの日本代表合宿では、当時のエディ・ジョーンズ監督(現・イングランド代表監督)は山中の奮起を期待して「ヤマナカ、ダッシュ!」と大声を張り上げ、走らせた。その模様はTVでも放映された。W杯を終えて神戸製鋼に戻っても、BKリーダーを任された山中は、自分のミスでなくてもよく叱られた。いくら家族が癒しの存在であっても、当時、一緒に食事をした友人にはこう漏らしていた。

「なんで、俺だけ言われるんだろう。俺に言うことで、周り(の選手)に聞かせているんだろうし、そのこともわかるよ。でも褒められたいねん。どうせなら、褒めて伸ばしてほしい」

エディ・ジョーンズに加え、神戸製鋼のウェイン・スミス総監督も、世界一の元ニュージーランド代表アシスタントコーチ。ほかにも南アフリカ代表の指導経験のあるコーチのもとで山中はプレーした。世界トップ級の指導者が一目見たらわかるほど、山中の能力は高い。叱られ役に指名されたのは、その期待の大きさの裏返しだった。

それでも山中は昨年、層の厚い神戸製鋼の中で、本職のSOやCTBに食い込めず、FBへの転向を余儀なくされた。「このW杯に出ることに賭けていた」という思いから、今までやったことのないポジションでも腐ることなくどん欲に取り組み、レギュラーを獲得。トップリーグ優勝に貢献した。

8月下旬、W杯のメンバーに選出後、山中は所属の神戸製鋼で行われた記者会見で、こんな趣旨のことを明かしている。

「もしポジションがCTBのままだったら、選ばれたかどうかはわかりません。(FBへの転向で)たくさん勉強したし、原点に戻った感じがして、転機になりました。W杯では(自分の目標としては)ひとつでも試合に多く出て、しっかり結果を出して、4年前よりも(チームとして)いい結果を狙いたい」

「褒められたい」と願い続けた山中はスコットランド戦の夜から、お世話になった家族や友人から多数の称賛と祝福を受けただろう。しかし、そこで満足はできない。生前、目をかけてもらい、やはり直接褒めてもらいたかった平尾誠二さんの命日に勝っていい報告をする。心の中でそう決めている山中にとって、まだ大きな仕事は残っている。

躍動感ある走りを見せた山中亮平(撮影:佐貫直哉/JMPA)
躍動感ある走りを見せた山中亮平(撮影:佐貫直哉/JMPA)

 

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