最新免疫療法ルポ 数秒の治療でステージⅣの腎臓がんが消えた! | FRIDAYデジタル

最新免疫療法ルポ 数秒の治療でステージⅣの腎臓がんが消えた!

副作用がなくリンパ球を活性化させるネオアチンゲン療法。画期的医療ドキュメント

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最新の免疫治療を行っている福岡がん総合クリニック・森崎隆院長(左)の診療を受ける野村真一さん(右・仮名)
最新の免疫治療を行っている福岡がん総合クリニック・森崎隆院長(左)の診療を受ける野村真一さん(右・仮名)

「2年前に『腎臓がんのステージⅣ』と医師から告げられた時は、もう人生おしまいやと思いました。でも、いろいろな幸運が重なって、最先端の免疫治療を受けることができたんです。すると、これまで受けてきた治療ではなす術(すべ)がなかった3ヵ所の肺転移が、5ヵ月後には画像からほぼ消えていたんです。それは今も変化ありません。いやあ、ありがたいですよ。会社を経営しているので一時は仕事を畳むことも考えましたから」

そう語る野村真一さん(仮名・72)は、「ネオアンチゲン療法」という最新のオーダーメイドがんワクチンの治療を受けた一人だ。これは、がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長の中村祐輔医師(66)が研究するゲノム・遺伝子解析の技術が利用されている免疫療法。

講談社から発売中の著書『がん消滅』の中でも紹介されている。中村医師はこの方法を次のように語る。

「がん患者のがん組織の中には『がん細胞を攻撃する』という性質を持つ特殊なリンパ球が存在しています。ただし、それは人によって異なり、がん細胞が患者さん自身のリンパ球から敵とみなされる特徴(ネオアンチゲン)を持っているかが鍵。がん細胞の遺伝子変異を調べること(ゲノム解析)によって、その特徴を推測することが可能になってきました。ネオアンチゲン療法は、このゲノム解析をもとに患者さん自身のがん細胞の特徴をつかんでワクチンを作る免疫療法なのです」

米国ではすでに約50種類の臨床試験が登録され、現在進行形で検証が行われている。日本では、中村医師の指導で治験準備を進めているが、自由診療であればすでに治療が受けられる。いずれも免疫療法の臨床研究に30年以上取り組んできた実績を持つクリニックで、施設内に細胞の培養施設を備え、投与後の免疫反応の測定と効果判定までしっかり行う専門機関だ。冒頭で喜びを語った野村さんは、福岡でこの治療を受けている。再び彼の体験談に話を戻そう。

「最初に自覚症状が出たのは3~4年前。背中から右腰にかけての鈍痛と、右足ふくらはぎの浮腫(むくみ)が続きました。そのうち、何を食べても味がしなくなって、食欲が落ち始めたんです。はじめは疲れかなと思っていましたが、だんだん食べることが苦痛になり、足の浮腫も靴が履けないくらい甲までパンパンに腫れ上がるようになった。これは身体に何か異変が起きているに違いないと、近所の病院へ駆け込んだんです」

肺の3ヵ所に転移

さまざまな検査を受けた結果、野村さんの右の腎臓には5×7㎝の大きな腫瘍があり、すぐ側の大きな静脈にもがんが潜り込んでいた。そればかりか、左右の肺にも3ヵ所の転移が見つかったのだ。

「すぐに泌尿器科がある総合病院を紹介され、そこで腎臓がんのステージⅣと宣告されました。私も同席した家族も動揺して、頭が真っ白。でも、家に帰ってステージⅣとはどういう状態なのか、どんな治療法があるのかを徹底的に調べたんです。それで他臓器に転移した状態と理解した。『でも骨までは及んでいない。まだ治る可能性がある』。家族にそう励まされて治療に入ったんです」(野村さん)

腎臓がんのステージⅣの標準治療は、まずクスリ(分子標的薬)を使ってがんを小さくし、腎臓の病巣の切除を目指すことになる。野村さんは、内服薬の分子標的薬で8ヵ月治療を続けたところ、がんはやや縮小した。だが、強い副作用が出て、これ以上の継続が困難になったという。

「トイレに行ったら血尿が出たんですよ。便器がみるみる真っ赤になって驚きました。日によっては、褐色がかったゼリー状の塊が血尿に混じって出てくることもあったんです。さらに心臓の入口に近い肺動脈に血栓(血の塊)ができてしまっていた。私は高血圧や狭心症などの持病があり、これ以上薬剤での治療は難しいと手術に踏み切られることになりました」

手術は7月(’18年)の予定だったが、野村さんには心臓の持病がある。手術中に万一の事態が起きた場合に備えて心臓発作の治療装置を病院側が準備しなければならず、手術日が1ヵ月後に変更された。通常なら一刻も早くがんを取ってほしいと願うところだが、結果的には手術日が後ろにずれたことが、野村さんに幸運を呼び込むことになった。

狭心症の主治医から「もし手術が難しい場合は、最新の免疫療法を行っている専門機関がある」と、福岡がん総合クリニック(院長・森崎隆医師・61)を紹介されたのだ。ここは冒頭で触れたクリニックの一つ。ちょうど8月から同施設でネオアンチゲン療法が始まる絶好のタイミング。加えて、この治療法を知ったのが手術前だったこともラッキーだった。

「ネオアンチゲン療法を行うには、患者さん自身のフレッシュながん細胞が不可欠なのです。必要ながん細胞は小指の爪先程度(5㎜程度)あれば十分なのですが、手術の前に患者さんがこの方法を知っていること、さらに手術先の医療機関の協力がないと準備ができません。こちらで用意する専用の容器に、手術で切除したがんの切片を執刀医に入れてもらい、それを受け取ったご家族に当院まで届けてもらう必要があるのです」(森崎医師)

通常、手術で切除した臓器は、ホルマリン液に浸けて標本化される。その標本からがん細胞のDNAは採取できるが、ネオアンチゲンの推測に必要なRNAはホルマリン液に浸けることで壊れてしまうことが多いのだ。この治療を受けたくても新鮮ながん細胞の入手がハードルとなり、治療を断念する人も少なくない。

1回の治療は数秒、3回でがんは縮小

野村さんは翌8月、1万㏄もの大量の輸血を受けながら、12時間半に及ぶ大手術で腎臓がんを無事に摘出。切除切片(がん細胞)も調達できた。

「お腹の中の状態は実際に手術をしてみないとわからないと言われていたのですが、がんや薬の影響で肥大した腎臓の周囲への転移は見られず、肝臓にがんが飛んでいなかったことも幸いだったと主治医から聞きました」(野村さん)

術後の経過も順調で、3週間ほどで退院。だが、肺に転移した3ヵ所のがんは残ったままだ。11月になる頃、肺の転移巣が大きくなり、再治療が必要に。しかし、がんが複数個あり、心臓に近い場所も含まれることから放射線治療は難しい。抗がん剤治療も持病との兼ね合いで危ない。このまま標準治療を続けるのは厳しいと判断されたという。

「そこで森崎先生に相談し、ネオアンチゲン療法の準備を進めることにしたんです。凍結保存していたがん組織はゲノム解析に出して頂き、私はがんワクチンを作るために必要な成分採血という特殊な採血を受けました」(野村さん)

ゲノム解析の結果、野村さんはがん細胞の目印(ネオアンチゲン)が見つかり、ワクチンが完成したのが今年1月。森崎医師は、野村さんの足の付け根のリンパ節の位置をエコーで確認しながら2ヵ所のリンパ節内にワクチンを注射し、治療は一瞬で終了した。野村さんは言う。

「治療は数秒でした。同じ方法で2週間おきに3回受けると、CT画像で明らかに肺転移がどれも小さくなっていたんです。さらに3回受けた後は、CT画像からほぼがんが消えていました。森崎先生から、これは目に見えていないがんも退治できている証拠だと伺って、家族に笑顔が戻りました。うまいこと効いてくれて、治療中にこれといった副作用もなかったので仕事も続けられたんです」

気になる治療費は、すべて保険適用外。初診で約2万円、ゲノム解析と成分採血、ワクチンに使用する細胞の培養を行い、6回投与を1クールとし、トータルでおよそ200万円。成分採血やワクチン投与は患者の状態に応じて追加される。

野村さんはその後、さらにワクチンが3回投与され、8月に撮影したCT画像でも小康状態のままだった。森崎医師は説明する。

「野村さんはがんの目印(ネオアンチゲン)が見つかり、強い反応を示すリンパ球が増えていたため、治療がうまく進んでいることが予想できました。分子標的薬や抗がん剤、放射線も使えず、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤とも組み合わせていないので、これはネオアンチゲン療法だけの効果です。副作用がなく、がんを攻撃するリンパ球が活性化しているので治療効果が長く持続することも、この免疫療法の大きな利点です。今後はワクチンの投与間隔を徐々に空けて様子を診ていく予定です」

森崎医師によると、野村さんの他にも治療効果が出ている人が十数名出てきている。ステージⅣでもあきらめる必要はない。「がんで死なない時代」へと確実に向かっているのだ。

中村祐輔医師の最新刊『がん消滅』(講談社+α新書)には、ゲノム解析や免疫療法、AI医療などについて最新のレポートが記されている
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①横になった患者に森崎医師はエコーをあて、鼠径部のリンパ節や神経の位置を慎重に確認する(写真は別の患者)
①横になった患者に森崎医師はエコーをあて、鼠径部のリンパ節や神経の位置を慎重に確認する(写真は別の患者)
②患者の鼠径部リンパ節にワクチンを注射。2回に分けて投与するが、麻酔によって痛みはほとんど感じない(同前)
②患者の鼠径部リンパ節にワクチンを注射。2回に分けて投与するが、麻酔によって痛みはほとんど感じない(同前)

取材・構成:青木直美(医療ジャーナリスト)

『FRIDAY』2019年10月11日号より

  • 撮影浜村菜月

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