東大卒の元局アナが体験 中高年ブラック派遣「奴隷労働現場」

中高年の派遣労働者が増えている。彼らは息子、娘のような若い正社員からコキ使われ賃金もピンハネされる。元アナウンサーのブラック労働現場ルポだ。

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人材派遣会社からの紹介でさまざまな仕事を経験した元アナウンサーの中沢彰吾氏。労働現場では多くの嫌がらせを受けた。賃金のピンハネなども日常茶飯事だという

「おかしいのはオマエだよ! バカなの?」

神奈川県内の巨大ショッピングモール2階の売り場に、現場責任者の怒鳴り声が響く。表情を凍りつかせる買い物客たち。責任者の30代の社員は、なおも派遣労働者・中沢彰吾氏(63)に怒声を浴びせた。

「もう来るなよ。テメェみたいなジジイ、いらねぇから!!」

東京大学を卒業した中沢氏は、かつてアナウンサーとして毎日放送(大阪府)で働いていた。身内の介護などで脱サラ後、フリーとして活動を始めたが生活に困窮。派遣会社に登録し、さまざまな現場で仕事をすることになった。以下は中沢氏が実際に体験した、中高年派遣労働者の“ブラック過ぎる現場”だ――。

現場1:賃金2000円以上天引かれ「派遣のクズが!」

冒頭のショッピングモールで行われていたのは、当たりクジを引くと買い物の料金を全額返還するという「ガラポン抽選会」。朝9時に始まり、午後になると200人以上の行列ができた。中沢氏ら7人のスタッフは大わらわ。当たりクジがなくなったので、抽選会は閉店時間前の午後3時で強引に打ち切られた。

「閉店時間前に終わるなんて聞いていないゾ!」

客からクレームが出ても社員は見て見ぬフリ。対応するのは派遣労働者だ。シワ寄せは賃金にも及ぶ。前出の責任者がこう通告したのだ。

「抽選会終わったから仕事も終わり。勤務時間は4時半までね」

契約では、仕事は夕方6時15分まで。時給は1000円だったので、責任者の言うとおりだと2000円ほど損をする。中沢氏が「おかしいですよ」と抗議すると……。

「うるせぇな。オマエ、生意気。何様だと思ってんだ。派遣のクズが!」

派遣会社は契約通りの賃金を払うと電話で約束したが、実際に振り込まれた金額は2000円以上少なかった。

現場2:駅から徒歩30分の事務所で娘のような若い女性から罵声

「聞こえねぇよ! 声は大きく!!」

中沢氏が名前を名乗ると、娘のような若い女性事務員が怒鳴った。中沢氏が人材派遣会社から「女性が多く楽しい職場」と紹介された埼玉県内の事務所だ。実際に派遣されてみると「化粧品の検品」と言われていた業務内容は、カレンダーの組み立て。時給900円で、交通費も最寄りの駅から送迎もナシ。30分ほどかけ事務所に着き制服に着替えると、木刀のような棒を振り回す大柄の男性に急き立てられた。

「急げよ! モタモタするんじゃねぇよ!!」

体育館ほどの広さの部屋に、10人ほどの中高年派遣労働者が入れられる。ジリリリリとけたたましくなるベル。作業開始の合図だ。現場監督が叫ぶ。

「ベルトコンベアの前に並んで。開始!」

コンベアの前にはカレンダーの台紙や接合具が並んでいるが、説明を受けていないのでうまく組み立てられない。監督の罵声が飛ぶ。

「手が止まってるぞ! 25秒で1個できなければ欠勤扱いだからな。ヤル気あんのか!? いい年して、どうして人並みのことができないんだ!」

この現場でも賃金を天引きされ、泣き寝入りするしかなかった。中沢氏が語る。

「2000万人近くいる非正規労働者のうち、6割がリストラなどで退職に追い込まれた40代以上の中高年です。派遣労働者の多くは休むことを許されず、息子や娘のような年齢の正社員から虫ケラのように扱われている。パワハラや賃金天引きは日常茶飯事です。一般の人にも、こうした醜悪な実態を知ってもらいたい」

中沢氏は機会があれば、今後も中高年派遣労働現場のヒドさを発信していくつもりだ。

…………………

中沢彰吾(なかざわ・しょうご) ’56年、埼玉県生まれ。東京大学文学部へ進学。’80年にアナウンサーとして毎日放送へ入社するも、母親の介護に専念するため’06年に退職。著書に『あなたもアナウンサーになれる!』(講談社)、『東大卒貧困ワーカー』(新潮社)など。

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