東村アキコインタビュー!「誰もやってない」新作のテーマとは?

『東京タラレバ娘 シーズン2』第1巻いよいよ発売。前作と大きく違う主人公像の秘密とは?

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東村アキコ氏が持っているのは『東京タラレバ娘 シーズン2』の第1巻(右)と米国アイズナー賞のトロフィー。アイズナー賞とは『コミック界のアカデミー賞』とも言われる栄誉ある賞で、今年『東京タラレバ娘』は最優秀アジア作品賞を少女マンガで初受賞の快挙を達成

「ネッフリがいちばんのレジャー。そんな世代の恋愛を描いてみたくなったんです」

もしあのとき彼と結婚してい「たら」、もっときれいになってい「れば」、今ごろ幸せだったはず・・・。そんな後悔と願望が入り混じったアラサー女子の生態を赤裸々に描いて累計500万部の大ヒットとなった『東京タラレバ娘』(以下、前作)。その連載が終了して約2年、待望の新シリーズ『東京タラレバ娘 シーズン2』(以下、今作)の単行本第1巻がついに発売となった。ところが、今回の主人公は前作とは全くキャラが異なる30歳の女子。一体どういうことなのか?作者の東村アキコ氏を直撃した。

主人公は前作とは全然タイプの違うキャラですね。前作の倫子、香、小雪は結婚願望が強かったし、それぞれ脚本家、ネイルサロン経営、父親と居酒屋を切り盛りと生活の基盤となる仕事を持っていました。が、今回の令菜は結婚願望もないし、夢や将来の希望も持っていないフリーターです。

「前作を描き終えてから2年がたって、この令菜みたいな女子がリアルアラサーなんだなと感じるようになって。動画配信サービスの充実が一番大きいと思うんですけど、今の若い子たちってNetflix(ネッフリ)とHulu入れてAbemaTV見てって感じで、より一層家の中で過ごすようになってきてるんですよ。実際わたし自身も、ここ2~3年は飲みにも出なくなったし『家に帰ったらネッフリで何を見ようかな?』っていうような生活に激変しましたね。食べ物でも同じことで、前なら『あの店のケーキがすごい』って聞けば食べに行ってたのに、今はコンビニスイーツのクオリティがすごいことになってるから、それで十分って」

ここ2~3年で時代が大きく変わったと?

「そうそう。アクティブに行動するよりも、なるべく動かずに最大限の楽しみを得る、みたいな。ネッフリがいちばんのレジャーっていう生活。ただね、『何が楽しくて生きてるんだ』って批判する人もいますけど、わたし自身はそれが悪いことだとは思ってないですよ。人類の進化形だなって。そんな、まったく考え方の違う世代の子の恋愛を描いてみたくなったんです。どんなに時代が変わろうとも、恋愛ってすると思うんですよ。そういう子が恋に落ちたらどうなるのか? そもそも恋に落ちれるのか?っていうのがテーマの一つなんです」

なるほど。東村さんが、この令菜のような子がリアルだと感じてるということですね。
ただ、令菜ってまだあんまり「タラレバ」を言ってないですよね?

「そうですね。そこまで激しい恋愛をせずに生きてきたから『タラレバ』がまだないんです。幼いですよね。出会った人の数が少ないっていうか、箱入り娘ではないけど、箱に入ってる感じかな」

作画中の東村氏。描いているのはもちろん今作の主人公、廣田令菜

そこで、令菜の眼を見開かせてくれるのが、バイト先に訪ねてくる小学校時代の友達です。彼女は子供もいる既婚者で、彼女からいろいろ聞き出すことで令菜は「結婚ってこういうことか。いいかも」とリアルに感じ始めます。

「ここでは令菜がしつこく聞き出してるから結婚生活のいいところを話してますけど、実は結婚してる人って、独身者の前ではグチしか言わないんですよ。『子供の世話が大変だ』とか『いいな、独身で。結婚しちゃったから飲みにも行けないよ』とか。でもそれは気を使ってるだけで、謙遜してるんですね。実際は充実した時間もたくさんあるんですよ。周りの既婚者を見てるとわかるんです。既婚者同士で話してると、『すごくかっこいいってわけじゃないし、死ぬほど好きってこともないけど、ホントあのとき結婚しといてよかった』って人、多いですもん。結婚してる人で、独身者をうらやましいって思ってる人、そんなにいないんじゃないかなって思う。わたしも2回結婚して2回失敗しましたけど、やっぱり『1回結婚してみたら?』って言っちゃう。それを押し付けるのも時代錯誤って思われそうだから、結婚ってどういうことか具体的に描いていこうと思って、あの友達を出したんですけどね」

あそこから令菜の意識が大転換しますもんね。

「人としての喜びって、文化的に生きるってことだと思うんですよ。それってどういうことかっていうと行事なんですよ。四季の行事! お正月、お盆とかずっと続いてきたことをやる、もちろんクリスマスとかハロウィンでも何でもいいんですけど、行事はやったほうがいいよって思うんですよ。これは理屈とか宗教じゃなくて。でも、独身だと行事から離れていくのね、どうしても。そうならないためには、結婚するのもアリだよ、と。もし子供が生まれたら絶対やらなきゃいけなくなるし。周りの既婚者も、節分には意地でも豆まくし。そこがテーマ。行事をやろうっていう、古風なテーマなんですけど」

地味だけど幸せがそこに凝縮されてる、と。

「そうそう、そうなんですよ。四季の移ろいを感じられるところ。すごいかっこいい人と結婚できて幸せって、そんなの3年ぐらいで飽きるじゃないですか。そのあとパートナーとして暮らしていく中で、幸せを感じるのって行事をやってる時だと思う。日本人に生まれた醍醐味なんじゃないかと。わたし、歴史漫画(『雪花の虎』小学館刊・ビッグコミックスピリッツ所載)を描いてるので、2年前から茶道を習ってるんですけど、茶道って行事の塊っていうか、もう四季どころじゃないのね。ひと月を2分割するんです。例えば10月の上旬と下旬では、同じ秋なんだけど使う道具も違うし、生ける花も違う。それをやってると『これが生きるってことなんだ』と感じるようになってきたんですよね。『あ、そうか。行事をやろうって,マンガで誰もやってないな』って。それを言おう、と。地に足がついた幸せってこれだなって」

マンガのテーマとしては非常に斬新です。
で、今作でもう一つ気になる点があって、それは令菜がとても自己肯定度合いの低い人物として設定されてますよね。

「それも、今の若い子たちに感じるところなんです。情報の発達によってなのか、芸能人とか女子アナとかとすぐ比べちゃうっていうか。でも、ナルシストにならないと人生楽しくないと思うのね。わたしの周りの楽しそうに生きてる人ってみんな自分が大好きで自分に恋してるし。最近ね、林真理子先生によくお会いするんです。林先生の原作でマンガ描いてるから(『ハイパーミディ 中島ハルコ』集英社刊・ココハナ所載)。林先生は着物とかバッグとか買うときに『わたしの中にいるマリって愛人に買ってあげてるって感覚』だっていうのね。それ、すごくいい言葉だなって思って。茶道にはまってから着物を買わなきゃいけないんですけど、着物ってすっごく高い。わたしは自分のこと大好きですけど、あんまり自分にお金を使おうとかってなくて。でも林先生のその言葉に感銘を受けて『わたしの中のアキコちゃんにプレゼントしよう』って思い始めたら、すごい買い物が楽しくなっちゃって。そうすると『お金使っちゃったし、仕事頑張らなきゃ』って働き甲斐も出てきたし、日々の生活がすごい元気になったんですね。自分をパーフェクトに自己肯定するのが難しくても、そういうイメージを持てば少しずつ変われるかもって思います。だから、『自分の中にアバターを持て』って言いたいですね。なんかこれってセミナー臭いな。自己啓発マンガみたいになってきた(笑)。まあわたしも年を取ってきたからセミナーみたいなことも言っちゃうんでしょうけど」

今作では、前作の3人が登場する構想もお持ちだとか。

「そうですね。でもまだ何も考えてません。わたしの作品って、物語世界がここじゃないところにあって、登場人物が勝手に動いてくれてるんですね。だから、そのうちいい感じで出てきてくれると思いますよ。ただね、前作では女子のケツをたたきまくってたけど、今作ではそんなことはないです。応援する感覚かな。元気になってほしいし、楽しんでほしい。今作では脅すつもりはないですから安心して読んでください(笑)」

東村プロのスタッフたち。使っているのはiPad

『東京タラレバ娘 シーズン2』第1巻を電子書店で購入する

 

  • 撮影松本時代

Photo Gallary4

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