中村亮土が体現した「W杯に特別な魔法は存在しない」ということ

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会見に臨む中村亮土。残念ながら3戦目のトライ予想は聞かれなかった

ラグビーワールドカップ日本大会で開幕2連勝を決めた日本代表にあって、話題の発信源となっていたのが中村亮土だ。

まず開幕2日前に都内で会見すれば「松島が3トライを取ると言っていた」と、隣に座っていた松島幸太朗の内輪話を披露した。

驚くべきは、9月20日のオープニングゲームで松島が実際に3度トライを決めたことだ。東京スタジアムでロシア代表を30-10で破り、翌日のスポーツ紙には「有言実行」の文字を躍らせた。

いまの日本代表は、大会のレギュレーションに沿って1日複数名の選手を共同会見に出席させる。第2戦を前に中村が登場したのは26日。「松島は2トライ取るって。で、マノ(ロマノ レメキ ラヴァ)も2トライを取ると。4トライは確実です」とぶち上げた。

試合のあった28日は言葉通りの結果こそ残せなかったが、2018年欧州王者のアイルランド代表を19-12で撃破。静岡・小笠山総合運動公園エコパスタジアムは歓喜に沸いた。

不動のインサイドセンターとして多彩なパスでスコアをお膳立てしたり、身長178センチ、体重92キロの鍛えた身体で大男にタックルしたりと、八面六臂の活躍ぶりも光る中村。夢舞台で仲間の話題を持ち出せるようになった背景には、本人の負けない魂と地道な積み重ねがあった。

「個人としてはワールドカップに入ってからコンディションの状態もいいですし、やりたいこと、やるべきことが明確になっている。頭の中がクリアなことが、ゲームのなかでのいいプレーに繋がっていると思います」

このような誠実な言葉選びは、初めて代表入りした帝京大学時代にはすでに完成されていた。4年時にはチームの主将として大学選手権5連覇を達成。彼は試合があるたびに記者団に囲まれ多角度からの質問に応じていた。ブレザーの前に両手を揃え、「見られているという意識は常にあります」とも言い添えたものだ。

もともと上級生が雑務を率先しておこってきたクラブではあるが、食事の配膳や片づけを4年生の仕事にしたのは中村の代からだった。「自分たちの成長のプラスになるかを常に考えて、そうならないものはなくしています」と、グラウンド外でのリーダーシップを強調した。

それと同時に、試合中レフリーの判定に異を唱えたことはないかと聞かれれば「文句言う前に仕事やれってことです」と即答。すぐに成果の出ないウェイトトレーニングをさぼらずできる理由については、「試合に出たいならやれという感じです」と断言した。硬質な信念もまた、当時から築いていた。

2015年のワールドカップイングランド大会で、エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチ率いる日本代表は南アフリカ代表などから3勝する。しかし中村は、この輝かしい戦いを関東某所のスポーツバーで見届けるしかなかった。2014年加入のサントリーで公式戦の出番を減らした影響もあり、大会開催年は候補選手ですらなくなっていた。

勝負の土俵にすら立てなかったことへのかすかな不満感は、大会に出る戦士たちの素晴らしい動きを見てかき消すことができた。しかし、雌伏の季節を終わらせることはできなかった。

アイルランドの強力なディフェンス陣に挑む中村

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いる現体制下でも、下部強化機関などでイチからのアピールを求められた。サントリーで当時の沢木敬介監督が「今季、俺が一番怒ったのは亮土」と言った2017年度こそ再ブレイクの兆しを覗かせたが、翌2018年度は同じインサイドセンターのポジションに明治大学卒の梶村祐介が加入。中村はやっと掴んだ定位置を新人に明け渡し、報道陣の注目も若き新星に集まっていた。

それでも当事者は、腐らなかった。

2017年秋に参加した日本代表の欧州遠征では、ゲームにこそ出られなかったが練習で主力組にタフに衝突。相手国の分析にも注力するなど、学生時代に通じる「1パーセントにもならない働きかけ」を全うできていた。

「そこで何となく、(首脳陣に)僕という人間を知ってもらえて」

ルーキーにジャージィを奪われることで悔しさこそ覚えたとしても、自信は失わなかった。

「カジもいいプレーをしていたので。誰と比較するのではなく、自分が出たら自分のプレーができるようにとフォーカスしてやっていました」

2018年秋以降の代表活動では、梶村らとの定位置争いで常に先行。リーチ マイケルキャプテン率いるリーダーズグループの一員にもなり、自然な流れで「ワールドカップ2019 日本大会 日本代表」に名を連ねた。

特別なポジションを勝ち取るのに、特別な魔法は存在しない。そんな普遍を具体化した形のひとつが、中村亮土というアスリートの競技生活だった。

サントリーの会社員でもある中村は、開幕戦の直前に『君が代』が流れた時の心境をこう明かす。

「個人的にはもっとガチガチになるのかな、もっとこみ上げるものがあるのかな、そうなりたいなという思いもあったんですけど、なかなかこう、楽しみが勝ってしまって、緊張があまり来なかったのが正直なところです。ただ、それが僕にとってはいいことで、いつも通りできたのはメンタルの準備もできていた(証拠だ)し、いい状態でワールドカップに入れた。自分の準備は、よかったと思います」

10月4日、愛知・豊田スタジアム。サモア代表との予選プール3戦目を翌日に控え、中村がメディアに対応する。「今回、誰がいくつトライを取ると言っているか」と聞かれ、「もう、皆、(取材で)言われるからと、自分には言ってくれないんです。残念ですけど」と表情を崩す。

チームメイトの得点の代わりに約束できることは、「いつも通り」の自分であることだろう。背番号12のついた赤と白のジャージィは、一見すると落ち着いていて、静かに心を燃やしていて、激しいタックルが得意な28歳に託された。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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