茨城「ポツンと一軒家殺人」は世田谷一家殺人事件と酷似している
林の中の一軒家で起きた惨劇 証拠多数なのに捜査は難航
惨劇から1週間以上が経っても、犯人逮捕の糸口はなかなか見えてこない――。
9月23日午前0時40分頃、茨城県境町の民家で、この家に住む会社員の小林光則さん(48)と妻でパート従業員の美和さん(50)が、2階の寝室で殺害された。2階の子供部屋で寝ていた長男(13)と次女(11)も重軽傷を負っている。
小林さん宅はレタス畑とヘラブナの釣り堀に囲まれた鬱蒼(うっそう)とした林の中にあり、外から見ると、家があるかどうかもわからない。さらに一番近くの民家まで約300mも離れており、周囲に街灯もなく、まさに「ポツンと一軒家」だった。
「事件当時の深夜は月明かりもなく、真っ暗な中で、犯人は鍵のかかっていない1階の窓から侵入し、2階へ直行して犯行に及びました。室内に土足の跡はありませんでしたが、家屋の外には小林さん一家のものではないと思われる足跡や血痕のついたスリッパが発見されました。犯人は土地勘があるか、下見に訪れたことのある人物であることは明らかです。しかも長男がマスクと帽子姿の犯人を目撃しています。小林さん夫婦は上半身をメッタ刺しにされて失血死しており、家の中が物色された跡もなかったため、動機は怨恨の可能性が高い。発生当初はすぐに容疑者が確保されるだろうとみられていました」(全国紙担当記者)
農家が多い、のどかなエリアで起きた凶行。夫妻の交友関係は限られており、怨恨が動機なら容疑者が絞られる。
だが、捜査は極めて難航している。
被害者夫婦を知る近所の住民が語る。
「あの家は美和さんの実家で、一家は10年ほど前に埼玉県から引っ越してきました。私は小林さんが息子さんと仲良くキャッチボールをする姿を何度も見ています。小林さんはこの地区の区長も一生懸命やっていました。小林さん夫婦が誰かに恨まれているなんてことはこの地域で聞いたことがありません」
発生から1週間、のべ500人以上の捜査員が投入され、聞き込みなどが行われたが、小林さん夫婦が恨みを買うようなトラブルは判明していない。
元警視庁刑事で、現在は防犯コンサルタントの吉川祐二氏はこう指摘する。
「今後は現場の鑑識活動と町内やその近辺に設置された防犯カメラの解析が捜査のカギを握ると思います。あと、次女に対して使用された催涙スプレーの入手ルートがわかれば、犯人の情報につながるかもしれない。これからはそんな地道な捜査の積み重ねになるでしょうね。ふとしたはずみで犯人が割れるということもありえますが、現時点では長期化するという見立てのほうが強いと思います」
有力情報がない中で、現地を取材する報道陣が、あの「迷宮入り事件」を連想しているという。
「小林さんは胸を刺され、奥さんは首を刺されたことによる失血死で、長男は両足と腕を切られ、次女は催涙スプレーをかけられています。傷つける手口が相手によって違っていることからも、『世田谷一家殺人事件』と似ているという話は関係者の間で出ています」(吉川氏)
’00年に4人が命を奪われ、いまだ犯人が検挙されていない「世田谷一家殺人事件」。この未解決事件も発生当初、動機は怨恨だと考えられており、マフラーやトレーナーなど、犯人が現場に残した遺留品が数多くあった。また被害者宅は公園用地の中にあったため、近隣の民家はほとんど転居しており、目撃者は皆無に等しかった。
立正大学文学部社会学科教授(犯罪学)の小宮信夫氏が語る。
「確かに今回の事件と世田谷の事件は、どちらも被害者宅が1軒だけ周囲の民家からポツンと離れていることが共通点です。ただし、世田谷の場合は家族全員が殺害されました。残虐性という点では違っている。犯人にとって子どもたちはターゲットではなく、夫婦のどちらかに強い殺意を持っていた。特に奥さんが警察に通報していることから、夫の小林さんの殺害に過度に意識を集中させていたと考えられます。これが今後の捜査のポイントになると思います」
凶悪事件の迷宮入りを二度と許してはならない。
『FRIDAY』2019年10月18日号より
- 撮影:桐島 瞬