すでに手遅れ 東京五輪チケットを中国転売組織が不正に売り抜け
6900枚の転売チケットが無効化された 組織委は不正IDを見抜けるのか
「転売組織は、とっくにチケットを売り終わってるヨ。だから、今回の規制で大損するのはワタシたちじゃなく、転売チケットを買ってしまった一般人デス。今さら取り締まっても意味ないのに、大会組織委員会はマヌケだネ」
日本向けの東京五輪チケットを中国の富裕層に高額転売している中国人・Z氏は、そう言って高笑いする。
9月27日、東京五輪の大会組織委員会は、「五輪チケット購入の際に必要なID約3万件が不正に取得され、チケット約6900枚、およそ1億8000万円分が不正に購入された可能性がある」と発表した。それだけでなく、不正が確認されたチケットは、払い戻しも不可能で無効化されるという。
これは、10月11日号の本誌記事「大会組織委もお手上げ 東京五輪チケットがはやくも中国で転売されている」を受けた動きだ。記事が掲載される前の9月下旬、本誌は具体的な中国のサイト名を数種類挙げ、それらのサイトで転売が行われている事実を認識しているか、組織委員会に質問した。返ってきた答えは、「認識していない」というものだった。
本誌の記事が公開され、組織委員会が不正転売チケットの無効化を発表して以来、中国のサイトでチケット転売件数が激減している。
例えば、9月下旬まで数十件ものチケット転売が行われていたフリマアプリ『閑魚(シェンユウ)』では、10月1日現在、転売が5~6件にまで減少している。ECアプリ『小紅書(シャオホンシュ)』でも、転売チケットはほぼ出品されなくなっている。
だが、冒頭でZ氏が述べているように、中国で転売を行う業者にとって、今回の遅すぎる規制の強化は「痛くも痒(かゆ)くもない」のだという。
「今のところ、ワタシの周りでチケットを無効にされた人はいないヨ。そもそも何をもって不正と見なされるのかも謎ネ。偽名を使っただけで不正と言うなら、不正IDは3万件どころじゃないはず。それに、取り締まられるのは団体で転売してる人だけでしょ? 中国には個人でやってる人も大勢いるから、ムダムダ!」
本当に不正IDを見抜けるのか
先週本誌が報じたように、五輪チケットを知人に譲ることや、その際にチケットに登録された個人情報を変更すること自体は、公式に許可されている。フリマアプリ『閑魚』で転売を行う中国人のA氏はこう語る。
「チケットを転売するとき、まず私は購入希望者に当選IDとパスワードを教えます。購入希望者はそのIDとパスワードでチケット販売サイトにログインしてチケットを自分の名義に変更する。これ自体は許可されていることだし、まったく不正ではない。しかも、その際にお金が発生しているかどうかなんて、組織委員会が見抜けるはずがありません」
そこで本誌はもう一度、組織委員会に転売防止対策の詳細を問い合わせた。しかし、「セキュリティ上ならびに今後の不正防止対策等の理由から」具体的な回答は得られなかった。
9月下旬に本誌の取材を受けるまで、中国の複数のサイトで転売が行われていることすら知らなかった……そんな組織委員会が、不正に購入されたチケットを本当に判別できているのかは怪しい。大会組織委員会の実態に詳しい、ジャーナリストの岩瀬達哉氏はこう語る。
「組織委員会は、チケット販売や招致活動などを外部の民間企業の協力を得て行っているので、転売の詳細を『知らなかった』というのはある程度事実かと思います。ただ、五輪というのは組織委員会や一部のスポンサー企業などのカネ儲けのために行われている側面があるため、膨大なコストのかかる転売対策に組織委員会が本気で取り組むはずがない。しかし、今回の『フライデー』の報道で、転売の事実が明るみに出てしまった。組織委員会としては、『厳正に対処します』というポーズを取るしかないわけです。
五輪には国民の税金も投入されています。だからこそ、不正転売の原因や実態、対策に至るまで、組織委員会は説明責任を果たさなければなりません」
不正防止策が単なる「ポーズ」なら、中国の「転売組織」にさらにつけ込まれるだろう。
『FRIDAY』2019年10月18日号より