天空の老人ホームって何?女性漫画家が『未来の年表』で受けた衝撃
86万部超のベストセラー『未来の年表』がマンガになった(監修・河合雅司/漫画・水上航)
「日本、なんとなくヤバイんだろうな~、と思いつつ目をそらしていたので、〔原作〕を読んだ時は、現実をこれでもかと突き付けられてしまって、悲しかった……」
そう語るのは、水上航(みずかみわたる)さん。漫画雑誌「なかよし」などで活躍してきた中堅の女性マンガ家だ。
彼女が読んで悲しんだ原作、というのは小説ではなく、シリーズ3冊の累計が86万部超のベストセラーとなっている新書『未来の年表』(著・河合雅司)のことだ。
日本の年間出生数が初めて100万人を割り、97万6979人になったのが2016年。翌17年には死亡者数が戦後最多の134万397人に達した。その結果、人口の減少幅は過去最大の39万4322人となった。こうした「少子高齢化」の言葉や数字は、メディアでも様々に報じられて来た。だが、なんとなく聞いてはいるものの、今一つ自分の事として実感が湧かない、というのがホンネだろう。
『未来の年表』には、「少子高齢化」の波が日本をどのように蝕んでゆくのか、様々なシミュレーションが克明に描かれている。例えば――、
202X年:地方銀行がなくなる
⇒親の住む地方に子供世代が住んでいないことが原因で利便性を優先して全国に支店の多い大手銀行やゆうちょ銀行に資金が流入してしまうから。
203X年:火葬場が足りない「大死亡時代」
⇒年間死亡者数が2039年、2040年にピークを迎えて「167万人超」に達するから。
204X年「灯油難民」が凍え死ぬ
⇒ガソリンスタンドが3ヵ所以下の自治体(給油所過疎地)が302市町村(2017年3月末現在)。さらに廃業を考えている給油所が1割、廃業のリスクを抱えている事業者が29%もいるから。
等々……。
「親もいっしょになって読んで、日本ヤバイわ…と囁きあいましたよ」と水上さん。
彼女は、お金が大好きな主人公が借金返済に奮闘する『
そんな水上さんに、ある日『未来の年表』を〔原作〕
「ホントに引き受けられるかどうか」を判断するため、水上さんは書名だけは知っていた『未来の年表』を読んでみた。それが冒頭の感想となったのだ。
読了後のショックが冷めやらぬうちにマンガ化に着手。様々なジャンルの作品で培ってきた経験を活かした、マンガ版ならではの工夫のひとつがナビゲーター役を務めるMIRAI(ミライ)だ。MIRAIは様々な登場人物(≒読者代表)たちを驚愕の未来へとタイムトラベルよろしく誘導して行く。
例えば「天空の老人ホーム」を描く章。タワーマンションを買うべく、意気揚々と不動産会社を訪れた若いカップルにMIRAIが告げる――。
MIRAI:今、日本の出生数は既に100万人を割っています。2065年には55万7千人まで落ち込むと予想されています。未曾有の人口減少に襲われている未来の日本、タワーマンションは、将来、天空の老人ホームになりますが、よろしいでしょうか?
ピンとこないカップルは、MIRAIに連れられて2050年にジャンプするのだ。
そこは、建築当初はきらびやかだったタワーマンション――。ある者は息子夫婦に部屋を相続して田舎に戻っている。上層階のセレブたちは、自分の住居としては使わない。こうして住居の6割が賃貸に出されるような状況になっている。大規模修繕のために管理費の値上げを採決しようとしても、高齢化した入居者は家族の病気や解雇・退職など個別の問題が山積していて、管理費の値上げに耐えられない。上層階の投資家たちは自分が住んでいないので関心が低い。入居者による管理組合の総会を開催しても出席率は極端に悪化してしまい意見もまとまらない。
MIRAI:タワーマンションは入居人数が多い分、投資目的でのみでマンションを購入する外国人投資家も出て来る。一般のマンションより購入する思惑や経済状況・価値観に大きな差が出ることが認識しておいた方がいいでしょう。
似通った年齢層が一気に購入したタワーマンションの場合、住人も一斉に年を取ることになる。管理費を滞納する年金生活の入居者も増え、空き家も増えて行く。こうして、タワーマンション内の世論形成がされないまま、建物・設備はどんどん経年劣化し、資産価値はみるみる落ちて行く可能性がある、とMIRAIは告げるのだ。
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ベストセラー新書を一冊丸ごとの漫画化『マンガでわかる未来の年表』として描き上げた水上さんに改めて感想を尋ねた。
「物件情報を見る目が変わりました。とりあえず、身近なタワマン信仰を崩せてよかったです!(笑)。リアルな数字を知ったことで、
危機を煽るのではでなく、未来の処方箋も示していることでも評価された〔原作〕の新書と同様、〔漫画版〕にも解決策が提示されている。令和元年も、すっかり後半戦。「何となくヤバイよな~」とは思いつつ、日々を過ごしてきた水上さんが受けた”読者代表的な衝撃”をマンガで表現した本書で、新たに心構えをするのもテだろう。