日本は「妊婦に危険な国」 風しんの流行が止まらない! | FRIDAYデジタル

日本は「妊婦に危険な国」 風しんの流行が止まらない! 

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昨夏からの、国内での流行が未だ止まない風しん。

特に40~57歳の男性に抗体を持たない人が多く、無料で検査やワクチン接種ができるクーポンが配布されているが、なかなか認知が進んでいない。

そこで、国立感染症研究所・感染症疫学センター第三室・室長の多屋馨子氏に話を訊くとともに、風疹の流行が問題となった昨年10月に、妊婦に対する影響を知らしめるため緊急無料公開されて話題となった、漫画『コウノドリ』「先天性風しん症候群」の回を再度無料公開する。

先天性風しん症候群は“予防接種で防げる悔しい障害”

多屋氏によると、「風しんでもっとも注意が必要なのは、妊娠20週頃までの妊婦に感染することで起きる先天性風しん症候群(CRS)」だという。

風しんでもっとも注意が必要なのは、妊娠20週頃までの妊婦に感染することで起きる先天性風しん症候群

抗体保有が不十分な妊娠20週頃までの女性が風しんウイルスに感染すると、胎児にも感染し、先天性心疾患や難聴、白内障などの障害を引き起こす。障害の発生率は、妊娠1ヵ月(0〜3週)で50%以上、2ヵ月(4〜7週)で35%、3ヵ月(8〜11週)で18%、4ヵ月(12〜15週)で8%で、特に妊娠初期の感染リスクが高いとの報告がある。

「女性が妊娠に気づく時期は、早くて妊娠5〜6週頃。そのため、お母さん自身が妊娠に気づいてない時期の感染で、生まれた時に障害がわかる場合も。2回の予防接種で防げたのにと悔しい思いをするのが、先天性風しん症候群という病気です」(多屋馨子氏 以下同)

『コウノドリ』の主人公・産婦人科医の鴻鳥も、多屋氏と同じ見解 出典:『コウノドリ』単行本4巻(2014年発行)風疹より

風しんには特効薬がない。

風しんウイルスの感染、そして先天性風しん症候群を防ぐ方法は「予防接種」を受けることだけだ。たった2本の注射で、99%の人が、長期に続く風しんの抗体を持つことができる(女性は妊娠前に2回の予防接種が推奨されている)。つまり、抗体を持たない人が予防接種を受ければ、日本国内の風しんをゼロにすることは十分可能だ。それがなぜ、達成できていないのだろうか? 鍵は、抗体を持たない層の予防接種制度にあった。

東京五輪まで1年を切ったのに流行が抑えられていないのはなぜ?

実は2012〜2013年にも、日本で風しんが流行した。原因は、海外から持ち込まれたウイルスにより、国内で感染した患者が増加したため。2013年の年間患者数は1万4344人にのぼり、2012年10月〜2014年10月の2年で、先天性風しん症候群が45例も報告された。

その後患者数は減少していたが、2018年に2946人と再び増加。2019年は10月2日時点で2210人と流行が継続、これまでに先天性風しん症候群も3例の報告を確認している。日本での風しんの流行を鑑み、アメリカでは現在、妊婦の訪日自粛勧告が出される事態となっている。

今回の流行の問題は、40〜57歳の男性を中心とする「抗体を持たない層」の予防接種率が、前回の流行後もほとんど増えていないことだ。実際、2019年に報告された患者のうち90%が、予防接種歴なしまたは不明だったという。

風しんはインフルエンザよりも感染力が強く、隣に居合わせていると、咳やくしゃみ、会話で飛び散る唾液の飛沫を吸い込むことで感染する。

「風しんは潜伏期間が2〜3週間長いので、症状が出る前にすでに周囲に広めている場合が多いんです。さらに感染しても症状が現れない“不顕性感染”も15〜30%で発生するため、無自覚のままウイルスをばらまいている可能性も。自覚なき感染を防ぐためにも、成人男性の抗体保有率を上げたい」

今年、厚生労働省は風しん予防対策として、1962〜1978年度生まれの男性を対象に、原則無料で風しんの抗体検査と予防接種を受けることができるクーポン券の配布を決定した。これまで自己負担だった検査・接種費用(抗体検査費5000円、ワクチン費1万円)を無料化することで、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年度までに“風しん排除”を達成するのが目的だ。

しかし9月30日の厚生労働省の発表によると、7月までにクーポン券を使用して抗体検査を受けたのは対象者の約8.4%にすぎない。さらに実際に予防接種を受けた人は約1.5%と著しく低い。

あくまで推測だが、接種率が低い理由は2つ。1つは、対象者が働き盛り層であることだ。クーポン券を使って無料で検査・接種を受ける場合、検査で1回、検査結果および接種で1回と、最低でも2回の通院が必要になる。働き盛りの男性には、その手間と時間の捻出が難しいのかもしれない。

2つ目は、風しんや先天性風しん症候群の危険性が“目に見えづらい”ため、予防接種の必要性を実感できず、「働いて疲れているから」「面倒くさい」などの理由が先に立ってしまうからではないだろうか。

現在、日本での流行は東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪など、人口密度が高い都市部に集中している。関西ではやや沈静化しているが、関東圏では依然流行中だ。

出典:『コウノドリ』単行本4巻(2014年発行)風疹より

風しんゼロへの道=みんなで作る抗体のバリアー

風しんゼロに向け、厚生労働省や自治体も、検査や予防接種を受けやすくするさまざまな取り組みを行っている。(詳しくはコチラ)

さらに多屋氏から、耳寄りの情報を入手した。

風しんの予防接種は、インフルエンザの予防接種と同時に受けることが可能(医師が特に必要と認めた場合)だという。その場合、片腕1本ずつ注射することになるが、1回の通院ですむので手間が減る。女性も、ぜひパートナーにインフルエンザだけでなく、風しんの予防接種も受けることを勧めて欲しい。検査や接種をためらっている男性も、大好きなパートナーの言葉で、接種に前向きな気持ちになってもらえると思うからだ。

「1人が予防接種を受けて抗体を保有すれば、隣合わせになった人を守ることができます。隣の人、そのまた隣の人も持っていれば、ウイルスに対するバリアーの範囲が繋がって広くなり、やがて日本全国に広がることでしょう。

これまで抗体を持たない男性たちは、抗体を持っていた女性たちが作っていたバリアーに守られてきたと思うんです。今度は男性たちが、大きなバリアーで女性や子どもたちを守ってくれることを心から願っています」

かつて小児科医として勤務していたという多屋氏は、取材に対してとても熱心に、詳しく風疹の予防について語ってくれた。しかし取材の最後に、風しんよりもさらに重症の感染症が、首都圏で流行しつつあるという発言が飛び出した。

「10月3日に『麻しん発生状況に関する注意喚起』を発表したばかりですが、現在、アジア・アフリカ諸国に加えて、ヨーロッパやニュージーランドなど世界的に麻しんが流行していて、国内でも麻しん患者の報告が増え始めています。

麻しんは『空気感染』するので、風しんよりも感染力が強く、免疫のない人が発症者と同じ部屋や電車・航空機内に居合わせた場合は、感染はほぼ確実。特に妊婦さんが感染すると重症化しやすく、流産・死産・早産率が高まるため、細心の注意が必要です」

麻しん(はしか)は、成人でも、麻しん肺炎や麻しん脳炎など、重篤な合併症を引き起こす危険な病気。しかし、多屋氏はにっこり笑って教えてくれた。

「予防接種に使用しているのは、麻しん風しん混合(MR)ワクチンといって、麻しんと風しん2つの感染症予防になります。1本の注射で、抗体が2つも手に入るチャンスを、多くの人につかんで欲しいですね」

 

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協力:国立感染症研究所

『コウノドリ』第4巻(2014年発行)風疹

  • 取材・文中村美奈子写真アフロ

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