タワーマンション×ママ友 背筋がゾワる物語に女たちがハマるわけ

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「おはようございます」「この間はありがとう!」「今度のお休みどこか行くの?」。そんな何気ない会話の裏に、嫉妬、軽蔑、不安、劣等感など負の感情が渦巻いているとしたら……。

成功者の象徴のようなタワマンで、今、何が起きているのか。その実態に迫るとともに、タワマンを舞台にママ友の人間模様を描いた漫画『おちたらおわり』を「BE・LOVE」にて連載中の、すえのぶけいこ氏に話を訊いた。

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2019年以降に完成予定の超高層マンション=タワーマンションは300棟、114079戸(2019月末現在、不動産経済研究所調べ)。2007年をピークに一度落ち着いたが2019年からさらに増加し、2023年にはピークの倍ほどの戸数になると予想されている。

スポーツジムやパーティールームなど、共有部分の充実したタワーマンションは分譲でも賃貸でも高額で、管理費もバカにならない。それゆえに可処分所得が多い人が住む場所として憧れを抱いている人も多いが、その実態は……。

階級ならぬ、階数でランク付けされるタワーマンションで暮らすママ友同士であれば、その感情はより複雑なものになる。まずはタワマンで起きたエピソードをいくつか紹介しよう。すべて実話である。

湾岸エリアのタワーマンション群 写真:アフロ

「タワマンのパーティールームで行われたパーティーに参加しました。僕が部外者だからか、知らないのは本人たちだけで、参加者同士の不倫や浮気の話が筒抜け。本妻と愛人がママ友で、何も知らない本妻が愛人に子どもを預けるという話もありました。まわりは『夫にバレないように気をつけなよ』なんて茶化しつつ、平然とみんなで仲良くしていて……。その関係性が気持ち悪すぎて、それ以降一度も参加していません」(30代男性)

「休日に夫がドクロのついたTシャツを着ていたんです。そうしたらエレベーターで一緒になったご婦人方がヒソヒソ。『ドクロ柄着ている人なんてこの地域で見たことある?』『やあね、何階の人かしら?』

明らかに私たちのことを言っているんですが、何も反応できずに固まるしかなく…。私たちが降りた階より上の階の人みたいでしたが、休みの日に着るものまで考えないといけないなんて本当に面倒です」(30代女性)

「小学3年生の息子がいます。同じ小学校に通うお友達もマンション内にたくさんいますが、『おまえはあっちの低層階用エレベーターだろ? オレたち高層階用だから。じゃあな!』と、“エレベーターヒエラルキー”があって。

本人はあまり気にしていないようですが、これって親が子どもに言っているからですよね。一応私立なのでそのまま中学に進学する予定でしたが、息子が変に劣等感を抱いてしまう前に別の学校を受験させたほうがいいのかな…と考えてしまいます」(40代女性)

「妻には、家族ぐるみで仲良くしていた、同じマンション内のママ友4人組がいたんです。ところがある日、寝てしまった妻が手に持っていたケータイを置こうとすると、妻と見知らぬ男性がイチャつく写真がLINEで送られてきて。見てはいけないと思いつつLINEを開いてママ友のグループチャットを遡って読むと、全員不倫をしていて、アリバイ工作にお互いが一役買っていることがわかりました。

子どもも含めて仲良くしている相手を疑おうなんて、思いもしないですよね? それを逆手に取られたんです。もちろん私は離婚を切り出しましたが、妻は謝るどころか『他の3人の家庭を壊したらただじゃおかないわよ!』と逆ギレ。親権を取り、マンションも売ってとっとと引っ越しましたが、タワマンもママ友もトラウマになりました」(40代男性)

まさに事実は小説より奇なり。前述の漫画『おちたらおわり』の舞台に、ドラマティックな展開が似合うタワマンが選ばれたのも頷ける。連載中のすえのぶけいこ氏はこう語る。

「タワマンという同じ箱の中で逃げ場がないことが、余計に苦しさを増幅させますよね。地方から出てきて、頼れる親や友だちがいない人も多いですし。

しかも子どもが絡んでくる分、ママ友の人間関係は複雑で、保育園より幼稚園のほうがママ同士の関係が密接。それで幼稚園に子どもを通わせているママたちという設定にしました」(すえのぶけいこ氏 以下同)

少女漫画『ライフ』で、第30回講談社漫画賞少女部門受賞したすえのぶ氏。『ライフ』も学校内でのいじめやスクールカーストなどを題材にしており、閉塞的な環境の中、逆境に立ち向かい、強く成長していくヒロイン像を描くことに定評がある。

『おちたらおわり』というタイトルは、ママ友内のカーストとマンションの階数、どちらもおちたらおわりというダブルミーニングだ。

「タイトルは相当悩みました。いろいろと考えていくうちに、担当編集さんと哲学的な話になっちゃったりして(笑)。タイトルだけで怖いと言ってもらうこともあるので、これにして良かったなと思っています」

主人公は学生時代の壮絶ないじめを乗り越え、在宅でイラストレーターの仕事をしている明日海(あすみ)。いじめの首謀者で、現在は誰もが憧れるイメージコンサルタントとして活躍する孔美子(くみこ)と、同じマンションに住むママ友として再会するところからストーリーが始まる。

元ファッションライターでリーダータイプの紗都(さと)、区議会議員の息子を夫に持つトラブルメーカーの心菜(ここな)、ナチュラル志向でおっとりとした朋代(ともよ)と、お互いの本心がわからないまま仲が深まっていく様子が恐ろしい。すえのぶ氏が描くリアルな登場人物は、どのように生み出されるのか。

「自分の中から出てくるパターンと、自分の一部を誇張するパターン、周囲の人をモデルにするパターンがありますね。キャラクターに憑依しないと描けないタイプなので、なかなか本質が見えなくて悩むこともあるし、逆にシンクロしすぎてダメージを受けることもあります。

今回の登場人物は今まで描いてきた登場人物(中高生)よりも年齢が上なので、それぞれの生き様が分かる履歴書のようなものを一人ずつ作りました。でもまだ足りない。漫画だから突拍子もない部分もあるけれど、『どこかにいるんじゃないか』と思わせる人物像を目標にしているので、これからもっと掘り下げていきたいです」

すえのぶ氏は、この作品に限らずいじめられた経験を持つ主人公を描き続けている。それはなぜなのか。

「自分自身が人間関係で悩んだことも大きいんですが、自分の大切な人がいじめに遭い、不登校になってしまったことが一番の理由だと思います。学生時代なんて何十年も前のことなのに、いまだに苦しんでいる。

同じような経験を持つママに取材すると、むしろ『子どもを育て始めてトラウマが蘇った』『乗り越えたと思ったのに、ママ友でまたもう一度やらなきゃいけないのかと絶望した』という声もあるんです。周囲は『まだ根に持っているの?』と思うかも知れませんが、いじめられた側は一生消えない傷を背負っていて終わりじゃない。それをこの作品を通じて伝えたいと思いました」

しかし本作を「いじめた側への復讐の話にするつもりはない」という。今後、物語はどう進んでいくのか。

「物語の中の登場人物は“生きている”ので、描いていて自分の思いもよらぬ方向に話が進むこともあるんですが……これから明日海と孔美子だけでなく、登場人物全員それぞれにスポットライトを当てていくので、そこを楽しみにしていただけたら。ハラハラドキドキしながらも楽しめる、そして苦しいだけでなく希望がある話にしたいなと思っています。

私が理想とするのは、結婚、出産、仕事との両立など人生のいろいろな局面で選択を迫られたり、プレッシャーにさらされたりする女性たちが、自分の生き方に自信が持てる社会。この作品から勇気をもらってくれたら、とても嬉しいです」

最後に直球の質問をぶつけてみた。「タワマンに住みたいですか?」

「私は好きなんですけど、夫が高所恐怖症なので……住んでも低層階ですね(笑)」

 

すえのぶけいこ 漫画家。福岡県北九州市出身。筑波大学芸術専門学群美術専攻彫塑コース卒業。2006年、「別冊フレンド」に連載された『ライフ』で第30回講談社漫画賞少女部門受賞。「月刊アフタヌーン」での『ライフ2 ギバーテイカー』連載を経て、2019年より「BE・LOVE」にて『おちたらおわり』を連載中。いじめやスクールカーストなど、閉塞的な環境の中で強く生きるヒロインを描く作品に定評がある。

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『おちたらおわり』第1巻1話

  • 取材・文周防美佳写真アフロ

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