78歳老婆をメッタ刺し 福岡連続殺傷事件 通り魔犯の歪んだ半生

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第28回

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

何の罪もない老婆をメッタ刺しにして殺害しながら、逮捕後も「弱い者を叩くことは間違ってない」と嘯いていた通り魔殺人犯。彼はなぜこのような非道な犯行に至ったのか。ノンフィクションライター小野一光氏が、犯人の友人や同僚への取材を通じて、彼の人間像を浮かび上がらせる。

送検時の野地卓。悪びれた様子はまったく見せなかった

2008年3月から4月にかけて、福岡県福岡市の路上で、当時31歳の女性会社員Aさんが刃物で刺されて重傷を負い、同78歳の女性Bさんが複数箇所を刺されて死亡する事件が発生。福岡市の無職・野地卓(逮捕時22)が、Aさん殺害に関わったとして、4月15日に逮捕された。やがて野地が、Bさんが被害を受けた事件にも関与していることがわかり、連続殺傷事件であることが明らかになった。

当時、この「福岡通り魔連続殺傷事件」の取材のため現地に向かった私に、福岡県警担当記者は説明する。

「3月25日、野地はAさんに対して刃渡り10㎝の果物ナイフを突きつけて金銭を要求し、胸や腹を刺して重傷を負わせています。ここでカネを奪えなかった彼は、4月14日に家を出ようとしたBさんの顔の前に、同じ果物ナイフをちらつかせて、『カネを出せババア』と恫喝。悲鳴を上げて逃げようとした彼女の胸や肩、腹などを、15箇所にわたって執拗に刺して失血死させています。野地は複数の消費者金融から計50万円ほど借金しており、Aさんの事件を起こした後、実家に立ち寄って現金3万円を借りています。また、逮捕時の所持金は約1万円だったそうです」

野地は警察での取り調べに対して、「携帯電話の料金を滞納していて通話を止められていた。支払いのためのカネが欲しかった」と供述。携帯電話会社2社に、計9万円を超える利用料金を滞納していたことが判明している。同記者は言う。

「捜査幹部は『弱そうな人をたまたま見つけて犯行に及んだのだろう。計画性というほどのものはない』との見立てをしています。野地は接見した弁護士に対しても、『弱い者を叩くことは間違ってない』と語っているようで、最初から弱者に狙いを定めていたことが窺えます。ただし、本人が犯行は金銭目的と語っているにもかかわらず、AさんやBさんの金品を物色した形跡はなく、執拗に何箇所も刺すなど、単純に”物盗り”目的の犯行だったかどうかは、疑問が残るところです」

野地は一連の犯行の前年である07年11月、福岡市の量販店でソフトコンタクト用消毒剤など4点(1983円相当)を万引きし、窃盗容疑で逮捕されていた。また、少年時代にも万引きと傷害での逮捕歴があった。彼の中学時代の同級生は証言する。

「アイツ(野地)は一応不良チームに入ってはいたけど、中途半端やった。けっこう一緒に遊びよったけど、いつもカネがなかった気がする。だから、ショッピングモールを見て回って、スキあらばポイッと万引きしたりとか……。友だち何人かで××(量販店)に行ったとき、一緒に歩いとったら、アイツがいつの間にかおらんから、うしろ向いたら警備員につかまっとったんです。どうしたと思ったら、警備員から『ちょっと見せて』と言われて、かばん開けたらレゴ(ブロック)が入っとって、『おまえ、いつ盗ったん?』って感じでした。そのときアイツがおとなしく店の奥に連れていかれるのを見てます」

01年に福岡市内の私立高校に入学した野地は、数週間で退学。以後、さまざまなアルバイトをするが、いずれも長続きはしなかった。05年10月から06年5月まで、野地がアルバイトをしていたコンビニの元同僚は、彼の異常行動を数多く目撃していた。

「野地のシフトは夜10時から深夜2時です。コンビニにはいつもママチャリで来てました。基本的に遅刻ばかりで、よれよれのネルシャツにジーパンみたいな服装です。ひとりでやる仕事はしっかりやってました。でも、はじめてのときに仕事を教えたんですけど、まったく違うところを見ていて、コイツ話聞いてないなって思っていました。喋るのも自分発信の場合はこっちを見てくるんですけど、こっち発信のときはずっと下を向いてるんです。興味無い、みたいな態度で……。だから打ち解けるまでに3カ月かかりましたね。ただ、打ち解けてからは、いつも妄想を聞かせてくるんですよ。たいていがエロ話で、麻薬のジャンキーみたいな目で話すので、第一印象からヤバかったです。地声がでかくて、妄想の話をするときも演説みたいなでかい声なので、客に聞こえるんじゃないかって、ドキドキしてました」

聞くに堪えないような内容の話を、いつも平然としていたそうだ。

「なんか性的なことで女の人にキレられたら、顔射してなんとかをして、レイプしてやるよとか、そういうことばかり言ってました。お客さんのなかに、夜中に仕事を終えて来る、背が高くて、けっこういつも肌を露出した服を着てる、30代くらいの女の人がいるんですね。その人が来ると、ふだんレジは俺がやってたんですけど、野地が率先してレジに走っていき、対応してました。それで彼女が店を出ると、『顔射してえ』や『レイプしてえ』って。まあ、この女の人に限らず、女性客が来たあとの妄想は凄かったですね。帰ったあとで、『犯してやる』とかって、いつも口にしてましたから」

野地はそうした”妄想”ともつかぬ願望を、この元同僚に語りかけるわけではなく、独り言のようにブツブツ喋り、時折、「へへっ」と笑っていたという。

「モロに危ない人だったから、自分としては嫌われないように気をつけてました。嫌われたらヤバい、みたいな。だから全部イエスで答えてたんです。それから、あの人を観察してると、女の人を見る際に、かわいいとかかわいくないじゃなくて、若いか若くないかで判断してるんです。それで年齢でいえば、30代が好みのようでした。あと、あの人自身の性癖はドSでしたね、完全に……」

そうしたこともあってか、この元同僚は、野地が逮捕されたことを報道で知り、「あっ、野地だあってびびりましたけど、ついにやったかと思いました」と語っている。

強盗殺人や強盗殺人未遂などの罪に問われた野地に対して、検察側は死刑を求刑。福岡地裁は11年2月に無期懲役の判決を下している。同判決を不服として検察側、弁護側はともに控訴するも、福岡高裁は12年2月にふたたび無期懲役の判決を下す。その後、双方は上告を断念し、無期懲役の判決が確定したのだった。

送検のため、車に乗せられた野地は不気味な笑みを見せた
  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

Photo Gallary2

share icon記事をシェアする

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事