北朝鮮「武装漁船」に対抗する水産庁取締船は民間人という脆弱さ
北朝鮮の漁船が日本海域に頻繁に現れている。明らかな違法操業だが日本は民間で対応するしかない。そこにはシステム上の重大な問題が隠されていた。
「もし今回、北朝鮮の漁民が武装していたら、戦闘行為になっていた可能性もあります。水産庁の取締船は民間会社所有のもので、監督官が1人乗っているだけでした。それ以外の乗組員はすべて一般人。相手が武装していたら手も足も出なかったでしょう。密漁には水産庁と海上保安庁が協力して対応することになっていますが、今回は海保が現場に行くまでに2時間かかっています。それまでに攻撃されたらどうするのか。逆に相手の漁船を沈めて、死者が出る可能性もある。その場合は、北朝鮮が逆上することも考えられます」(全国紙農水省担当記者)
10月7日、日本海の好漁場「大和堆(やまとたい)」付近で密漁しようとしていた北朝鮮籍と見られる漁船を漁業取締船「おおくに」が発見。放水して警告したところ、漁船は急旋回して取締船に接触し、午前9時25分頃に沈没した。漁船に乗っていた約60名の乗組員が海に投げ出されたため、取締船が救命艇で救助し、別の北朝鮮籍と見られる漁船に誘導したという。
「結局、逮捕も聴取もせず、ジェスチャーだけで意思疎通を行い、相手は去っていきました。このような甘い対応では、また別の船が同じようなことをする懸念があります」(農水省担当記者)
事実、この海域で北朝鮮は違法操業を繰り返している。今年8月には、北朝鮮海軍の旗を立てた小型船に迷彩服姿の3人が乗り込み、海保の巡視船に小銃を向ける事案も発生。武装漁船が現実に日本の海域に攻めてきているのだ。
「経済制裁を受けている北朝鮮にとって、外貨を稼ぐための数少ない手段の一つが水産物の密漁です。北朝鮮では遠海に出られる船は軍が管理していて、漁民の多くが軍人です。密漁した魚介類は外貨獲得のための道具であると同時に、腹を満たすための貴重な資源でもあります。北朝鮮の漁船はロシアの排他的経済水域(EEZ)にも進出していましたが、ロシアが警備を厳しくして拿捕(だほ)するようになったため、今後も危険を承知で日本海に来るでしょう。日本政府も万が一のことが起こる前に新たな手を打たないと、取り返しがつかないことになります」(龍谷大学教授の李相哲氏)
金正恩・朝鮮労働党委員長は最近、ミサイル発射を活発に行っている。偶発的な衝突が、戦争に発展することだけは避けなければならない。
『FRIDAY』2019年10月25日号より
- 写真:水産庁提供(漁船)
- 写真:海上保安庁提供(救助)
- 写真:時事通信社