「今夜は月が綺麗ですが〜」に見るあいみょん世代の特異な愛情表現

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

愛と憎しみは表裏一体。「好き」と「殺す」、相反する感情のせめぎ合いを描いた文学作品や映像作品は昔からあるが、平成の大ホラーブームを経て、新たな“愛”の境地を拓いた漫画『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』が累計140万部を越える大ヒットに。

『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』第1巻を読むならコチラ

『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』 原作:要マジュロ 漫画:榊原宗々

愛するが故に相手を自らの手で殺めることを願う「グロ恋」の魅力に迫る。

凄惨な世界で美しく咲く“究極の純愛”

「とりあえず死ね」---。

言葉だけ聞くと、猟奇的で病んでいると感じるかもしれないが、「死ね」=「狂おしいほど愛してる」という逆説的比喩表現にすぎない。

シンガーソングライターのあいみょんも、38.7万ST(ストリーミング視聴数)を記録したデビュー曲「貴方解剖純愛歌〜死ね」で、<死ね。私を好きじゃないのならば>とエキセントリックな恋心を綴り、YouTube世代の若年層から絶大な人気を得ている。

当時19歳だったあいみょんがこの歌で代弁したのは、「好きな人と一緒にいるためには、相手の肉体を切り刻み、身につけるしかない」という、悲しい恋愛観だ。幼児期から「陽キャ」「陰キャ」とキャラクターづけされることで自己を否定され、属する集団に見合った振る舞いを強いられてきた若者たちにとって、恋愛はかなりハードルが高い。特に相手が異なる集団に属している場合、恋の成就は絶望的……。だからこそ、刺激的で背徳的な響きを持つ「死」というパワーワードに魅了されるのだろう。

そんな若者の恋愛観を取り込み、告り告られ青春まっさかりの学校を、狂気と殺戮の舞台に仕立てあげたのが、漫画『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』(原作:要マジュロ 漫画:榊原宗々)だ。

『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』第1巻より

主人公は、高校2年生の少年・神城卓(陰キャ)。モテモテの幼なじみ・花園魅香(陽キャ)のことを好きだったが、勇気がなくて告白できぬまま、「好きな人を殺したくなる」感染症に罹ってしまう。花園を想うと殺意が募り、彼女を惨殺するイメージを見る。好きだからこそ会えないと寂しくて、でも会って触れるとどうしようもなく殺したくなる。それでも「花園には生きていて欲しい」という答えを出した神城は、他者と自分の殺意から彼女を守る決意をする。しかし、実は花園も同じ感染症に罹っていた……!

愛が克つか、殺意が勝つか。殺戮シーンは刺激的だけど、芯にあるのは純愛物語。そこが、多くのファンに支持される魅力になっている。ちなみにタイトルの「月が綺麗です(ね)」は、明治時代の文豪・夏目漱石が「I love you」を訳した言葉だという説が、インターネットの主流。言われた時は、「死んでもいいわ」と返すのが、定番だそう。テーマや言葉選びに文学の香りがするのも、イマドキの若者たちの興味をくすぐる素になっている。

Z世代を直撃するホラー要素がてんこ盛り!

現在、漫画に限らず、映画やドラマもホラーが大人気だ。その源流は、「見ると必ず死ぬ」という呪いのビデオの恐怖を描いたホラーサスペンス映画『リング』(1998年)の大ヒットだ。ビデオ映像から這い出してくる黒髪の女性・貞子は、アニメや実写映画化もされた爽やか青春少女漫画『君に届け』の主人公のあだ名に使われたり、“お厄立ちグッズ”化されたりと、すっかりメジャーキャラクターになっている。

そんな貞子人気もあるのか、2000年代もホラーブームは継続。サバイバルやデス・ゲーム、パンデミック、サイコホラー、脱出ゲーム、パニック、都市伝説など、さまざまなジャンルが登場した。

『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』は、最初こそサイコホラーだが、読み進めていくうちに、パニック事件が起きたり、学校でデス・ゲームが始まったりと、状況が変化。ホラージャンルの全ての要素を贅沢に盛り込んだドライブ感のある奇抜な展開で、作品世界にどんどん引き込まれていく。映画や漫画、ゲームなどさまざまな場でホラーに触れてきた、1995〜2012年生まれのZ世代の“ホラー琴線”を大いに刺激しているのではないだろうか。

「死ね」は、ネット世代にとっては“狩られた”言葉。掲示板などへの投稿では不適切な言葉として弾かれる対象になっているし、スマホの日本語変換ですんなり出てくることは珍しい。技術的な規制を設けているのにも関わらず、半角カタカナで「タヒ」と置き換えるなど工夫をこらして使うのは、偽善的な社会への反抗心が潜んでいるように感じる。現実では晴らしようのない不平・不満を思い切りぶつけたい衝動を、漫画の暴力・虐殺シーンに転嫁しているのかもしれない。

“愛”がもたらすヒトの進化

神城や花園が感染した病気「ID(Intellect Destruction)」は、好意や性欲を殺意に変換するだけでなく、症状が進行すると超常的な身体能力「ギフト」を発揮する。ギフトの種類は、殺意の対象となっている相手に褒められたり認められたりしたことが特化したもので、強さは相手への殺意=恋慕の情に比例する。「恋をするとパワーが湧く」なんて、恋愛ソングによくあるかわいい話ではなく、触れただけで殺す、あらゆる毒を体内で生成するなど、生体兵器並みのパワー。

『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』第1巻より

次々と起きる修羅場を乗り越えて、「私はあなたを殺したい」と花園に告白され、遂に両思いになれた神城。しかし、ID感染者“最強”といわれるほどにまで強くなった花園は、己の殺意に侵され、壊れていく。そんな花園を守るために強靱な精神力で花園への愛=殺意を純化させ、より強く進化していく神城。大人気ダーク・ファンタジーアニメ『魔法少女まどかマギカ』(2011〜13年)のほむら(闇落ち)とまどか(神格化)を彷彿させる展開も、Z世代の感性にピッタリだ。

花園が完全に殺意に飲まれ神城を殺すのが先か、神城が愛の力で花園を越えるのが先か、はたまた2人が恋のライバルや“異常者”に狩られるのが先か。そんな激しく、悲しい2人の愛の行く末がどうなるのか、ジェネレーションX世代の筆者も目が離せない。

『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』を購入するならコチラ

『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ねーLast-』を購入するならコチラ

『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』第1巻

  • 取材・文中村美奈子

share icon記事をシェアする

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事