祝50年!アポロ、ミルクコーヒー…、1969年生まれのスイーツ
今年2019年は、国民的ともいえるロングセラーお菓子、飲料が多数発売された1969年から数えてちょうど50年。1月に学生運動で東京大学・安田講堂を占拠していた全学共闘会議派学生と機動隊の衝突がテレビ放映されるなど、センセーショナルな幕開けとなったこの年。そんな始まりから激動を予感させる年に誕生したお菓子たちを、1969年の出来事とともに追っていこう。
4月「UCCミルクコーヒー」誕生!
4月にはUCCから「ミルクコーヒー」が発売。駅で列車の出発に間に合わず、飲みかけの瓶入りコーヒー(当時は瓶を売店に返却しなければならかなかった)を残すことになったUCC上島珈琲創業者・上島忠雄の執念とアイデアにより、世界初の缶コーヒーが誕生。
営業マンたち自らが電車に持ち込みアピールしたり、売店で「ミルクコーヒーください!」と指名買いするなどの社を挙げて草の根的な努力を展開。その結果、翌年開催された大阪万博会場でUCCミルクコーヒーがブレイクするという現象が! 生産が追い付かないほどのヒットとなり、今に至るまでロングセラーを続けている。ちなみに現在の缶のデザインは10代目。
8月、月面着陸のわずか18日後に「アポロ」発売
1969年で一番大きな出来事といえば、なんといっても7月20日のアメリカの宇宙船・アポロ11号による人類初の月面着陸成功だろう。世界中が熱狂した人類の偉業からわずか18日後、日本ではその宇宙船の形をイメージしたお菓子「アポロ」が誕生していた。なんという早業。さらに地球へ帰還したのが7月24日ということから考えると宇宙ロケットもびっくりのスピードだが、さらにすごいのは明治がこの月面着陸の3年前の1966年に「アポロ」を商標登録していた点だ。こちらも先見の明が光る。
1969年の“アポロ”つながりでいうと、アポロの語源となったギリシャ神話のアポロンを邦題に冠した映画『アポロンの地獄』が日本で封切に。また、落語家の古今亭志ん馬がテレビ番組の企画で、アポロ11号が打ち上げられた翌日から一週間、乗組員と同じ宇宙食を食べ続けるという献身的で未来志向なチャレンジをしていた。
一方、アポロ11月号が月面着陸を果たした直後の7月22日に、この年のお菓子の充実ぶりを予見してちびっ子の健康状態を危惧したのか、文部省が初の「肥満児全国調査」を実施している。このときの肥満児の出現率がもっとも高い年齢は男子の11歳で約4%、女子の14歳で約8%。2018年度の調査では11歳男子が約10%(もっとも高い15歳で約11%)、14歳女子が約7%(もっとも高い11歳で約9%)という結果に。2003年まで肥満児が年々増加していたが、それ以降は減少傾向にあるらしい。お菓子はおいしいけど食べすぎには注意だ!
さらに、アポロ11号が月に降り立ったちょうどその頃、日本では三重県伊勢市にあるマスヤから「おにぎりせんべい」が世に出された。それまでせんべいといえば丸や四角のものばかりだったが「三角形のせんべいがあってもいいじゃないか!」という発想から生まれたこのせんべいは、「原料がお米で三角だからおにぎりせんべいでしょう!」と商品名も即決。アポロにしろ、おにぎりせんべいにしろ、即決がヒットの秘訣なのかもしれない。
食品業界の転換期と伝説のテレビ番組が始まった10月
この年の10月はアメリカで人工甘味料・チクロの使用が禁止されたことをうけ、日本でも使用禁止に。また当時の日本では表示がデタラメな食品が幅を利かせており、豚肉と称して兎肉を売ったり、馬肉を牛肉として売ったりするなど、業者側がやりたい放題だった。これに業を煮やした当時の首相・佐藤栄作は「うそつき食品の横行は目に余るものがある」と声明を発表。不当表示食品の追放を指示するなど、食品業界でも大きな動きがあった。
ちなみにテレビ業界では、ザ・ドリフターズによる伝説の番組『8時だよ! 全員集合』(TBS)の放送が開始。アニメでは『ムーミン』、そして現在も放送が続く『サザエさん』(ともにフジテレビ)もスタート。日本中のちびっ子たちに大きなインパクトを与えていた。
11月、手土産の殿堂・シガールが誕生
さて、10月の食品業界騒動を経て、11月に誕生したのがヨックモックの「シガール」だ。葉巻型の斬新な形のラングドシャはたちまち人気となり、現在では手土産の殿堂的なポジションを確立している。さらに2015年にはレシピ本「ヨックモックが教えるクッキーレシピ」(世界文化社)で、シガールの作り方を惜しげもなく公開。シガールファンはぜひチャレンジを。
また、このころアサヒ玩具から発売されたクッキングトイ「ママ・レンジ」が大ヒット。ホットケーキも焼けちゃう優れモノで、多くの少女がこれによってお菓子作りに目覚めたと思われる。
12月、〝ハイ″になった森永製菓のヒット商品続々
この年、お菓子業界の雄・森永製菓は、1914年に発売された看板商品ポケット用紙サック入
さらにこの年、森永製菓は大きな一手を放つ。それまで「チョコレートボール」だったお菓子を「チョコボール」に改名し、当たりの景品を、ミニサイズの漫画が入っていた「まんがのカンヅメ」から、現在まで続く「おもちゃのカンヅメ」に変更。これには当時のちびっ子たちもハイになった、はず。
そのほか、1969年は山菜ブームでゼンマイが高騰したり、100%オレンジジュースの「ポンジュース」が発売されたり、生肉ブーム起きたり、マーガリンの販売量がバターを上回ったりと、振り返ってみると食品業界は話題に事欠かない1年だった。それから50年。コンビニスイーツの進化や、さまざまなスイーツがブームなど、お菓子的な激動の時代を経て、1969年生まれのお菓子がいまだに愛されていることは感慨深い。
<参考文献>「昭和家庭史年表 1926-1989」(河出書房新社)/「昭和現代風俗史年表 1945-1985」(河出書房新社)/「昭和二万日の全記録 第14巻 揺れる昭和元禄」(講談社)
- 取材・文:高橋ダイスケ