ラグビーW杯 ジャパン「最強の給水係」徳永祥尭の冷静な観察眼 | FRIDAYデジタル

ラグビーW杯 ジャパン「最強の給水係」徳永祥尭の冷静な観察眼

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サンウルブズの徳永。今大会ではまだ出場がないが、常に万全の状態で備えている(アフロ)
サンウルブズの徳永。今大会ではまだ出場がないが、常に万全の状態で備えている(アフロ)

ラグビーワールドカップの日本大会で史上初の8強入りを果たした日本代表にあって、「最強の給水係」と言われる27歳がいる。

フォワード第3列としてメンバー入りした徳永祥尭は、全勝した予選プールAの全試合でウォーターボーイを務めた。同じポジションで同じ東芝所属のリーチ マイケル主将は、かねて感謝してきた。

「彼はすごく落ち着いている。興奮しない。声もかけてくれるし、賢い人、彼がウォーターボーイでよかったです」

現代ラグビーにおけるウォーターボーイは、選手へ水を渡すだけの人ではない。

大観衆のもと、耳と口元につける通信機でスタンドからの首脳陣の指示を把握。プレーの合間にグラウンドに出て、その内容を選手へ端的に伝える。一線級の選手やチームほどウォーターボーイの「上手、下手」には敏感で、情報を正確に捉える力、持っている情報を整理する力が問われる。

徳永は、空中戦のラインアウトやキックオフについての知見が豊富。

「ケア組(トレーナー陣)にとっては『落ち着いているし、話を伝えられている、いてくれると色んな事に気を遣ってくれるから助かる』とは言ってもらえています」

と自認する通り、動じない心を持ち合わせる。

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いる現代表では「ウォーターボーイは最初はジェイミーに『して』と言われたのですが、何でその後もずっとしているかはわからないです」と、自然な流れでこの立場を任されるようだ。

「ウォーターボーイをしている時に関しては熱くなり過ぎず、上からの指示を伝えることが大事。基本的にまず、自分の聞いている情報が合っている(正しく認識できている)のかをコーチに復唱して確認する。ラインアウト、スクラム、バックスのサイン(動きを一言で表す言葉)もわかるので、内容(の一部)を省いてサインだけ伝える…みたいなこともあったりします。英語も話せはしないけど聞くことはできるので、外国人選手ともちゃんとコミュニケーションを取れていると思います」

身長185センチ、体重100キロ。一線級のフォワード第3列にあっては比較的細身に映るが、鋭いコンタクトと体幹の強さは折り紙付きだ。また、7人制でも代表選手となるなど、万能性も光る。

国際プロリーグのスーパーラグビーでも、日本から加わるサンウルブズの一員として持ち味を発揮。特に2018年はシーズン途中には、ディフェンス時のラインアウトで、跳躍する重要な役目を引き継ぐことがあった。

ラインアウトは、代表指揮官と兼任していたジョセフヘッドコーチの担当領域。チームがここを安定させるのに苦しむなか、徳永は「(防御役を)やれると思ったから入れてもらっている」と飄々と改善に成功した。

このシーズンは自軍ラインアウトの獲得率が低迷したが、身長2メートル超のグラント・ハッティングが故障から戻るや修復された。その背景を解説する徳永の身振りと言葉に、大舞台でのウォーターボーイに足る観察力をにじませる。

「最初の(飛ぶ場所を味方に知らせる)コールの時、グラントが『こう(列から横に身を乗り出すようなそぶり)』して顔を出しているじゃないですか。それによって(サイン伝達)のエラーがなくなりました」

遡って東芝1年目、2015年度には、こんなことがあった。

12月12日に東京・秩父宮ラグビー場であったパナソニック戦。開幕からレギュラーだった徳永は、首にきつく巻き付いた相手の腕を振りほどくべく歯を立てた。その場ではおとがめなしだったが、6日後に「6試合出場停止」という処分が下った。

当時監督だった富岡鉄平は「悪いのは徳永です」と前置きをしながら、当時の状況を踏まえて「あれはただの報復行為ではない」と断言。相手選手も「出場停止はかわいそう」と同情したものだ。

ただし当事者は、たくましかった。「あの件のことは上の人にしゃべるなと言われています」としつつ、転んでもただでは起きぬ強さを示していた。

「いまは(控えチームの一員として)相手チームの(想定される)アタックやディフェンスをやっているのですが、『(守備網の)ここが空きやすいんだ』など、発見がある。それをチームに還元したいです」

積み上げてきた競技偏差値によって、いま、史上最大級のラグビーブームをお膳立てしている。もちろん試合に出たいのは当然。10月20日に東京スタジアムで行われる南アフリカ代表との準々決勝へも、かねて「毎週、(試合の)メンバーに入りたいと思って発表を待っている」と意気込んでいた。

過去4戦で登録メンバーから外れた際の心境を、これまた丁寧に振り返っていた。

「メンバーから外れた時はどうしても落ち込みます。アナウンスされる日の練習は(軽い強度で連係を合わせる)オーガナイズが多いのでメンタルが落ちていてもやれるんですけど、気分が上がらないことは多いです。でも、これは気を遣わせるような感じになって本当に申し訳ないんですけど、2015年(前回のイングランド大会)を経験したメンバーがお茶や外食に連れてってくれて、僕らのメンタルをリフレッシュしてくれようとしています。稲垣(啓太)さん、堀江(翔太)さんに愚痴を言ったり、『お前、頑張っているよ』と言ってもらったり。試合に出ているメンバーにサポートしてもらっている感じです」

一方で「勝つためには自分たち(控え組)のサポートが必要だとも言ってもらっているのでそんなに引きずらないですし、切り替えています」と、出番の有無とは無関係にプライドを示すつもりだ。チーム全体での作業行程を、具体的に明かす。

「ノンメンバーと分かった日の夜のうちに、(練習で相手役をするための)準備を始めます。僕らフォワードはラインアウトとスクラムを分析するんですけど、僕らが分析を始める前に慎さん(長谷川慎スクラムコーチ)からいい形で映像をもらえる。それを見て(傾向などを)表に書き出したり、(練習で)誰がどこのポジションをするかを決めたり、(試合のベンチに入る)リザーブの選手にも手伝ってもらって、エラーが起きないようにしています」

日本代表にとって最初のワールドカップ準々決勝のメンバーは、試合2日前の午後に発表された。ここに名を連ねることのできなかった徳永だが、持ち場で勝利を希求する。

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