ラグビーW杯 「天敵」に挑むバレットがどうしても勝ちたい理由 | FRIDAYデジタル

ラグビーW杯 「天敵」に挑むバレットがどうしても勝ちたい理由

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10月2日、カナダ戦で躍動感あふれる走りを見せるボーデン・バレット(写真:アフロ)
10月2日、カナダ戦で躍動感あふれる走りを見せるボーデン・バレット(写真:アフロ)

ラグビーワールドカップ(W杯)もいよいよ今週末は準々決勝が行われる。20日の日本代表―南アフリカ代表戦に先立って行われる19日(土)の「オールブラックス」ことニュージーランド代表(世界ランキング1位)―アイルランド代表(同4位)戦も注目カードだ。

前人未到のW杯3連覇を狙うオールブラックスは、プール最終戦のイタリア代表戦は台風の影響で中止(引き分け扱い)となったが、初戦で南アフリカ代表にも勝ち、無敗で勝ちあがってきた。一方のアイルランド代表も、日本代表には逆転負けを喫したものの、他の3試合にはきっちりとボーナスポイントも取って勝ち上がった。

オールブラックスのスティーブ・ハンセンヘッドコーチ(HC)は、準々決勝の組み合わせが決まった後、「調子のいい日本代表と当たらなくて良かった」と言っていたが、実は大会前は世界ランキング首位に立っていたアイルランド代表も、オールブラックスにとってくみしやすい相手ではないのだ。

ニュージーランド代表とアイルランド代表は過去31回対戦し、オールブラックスの28勝1分2敗と圧倒的である。だが、この2敗というのは2016年、2018年の黒星ことで、この4年間だけで見るとアイルランド代表が2勝1敗で勝ち越しているのだ。ハンセンHCが就任した2012年から2回以上オールブラックスに土をつけたチームは北半球ではアイルランド代表以外に存在しない。

アイルランド代表は、もともと強固なセットプレーとディフェンスが持ち味のチームだったが、ニュージーランド人の知将ジョー・シュミットHCが2013年から率いており、SOジョナサン・セクストンとSHコナー・マレーという世界屈指のハーフ団がゲームをコントロールする。FW戦だけで見れば、アイルランドの方が優位。しかも19日の試合当日の午前中が雨の予報でピッチが濡れた状態になるため、アイルランドの強みであるFW戦を後押しし、オールブラックスが負ける可能性もある、という見方があるのだ。

アイルランド代表は2016年、オールブラックスと初めて対戦してから111年目にして40―29で初めて勝利し、昨年11月に16-9で勝利した。今回の先発メンバーのうち12人が、昨年の試合に出ていた選手であり、LOイアン・ヘンダーソンはリザーブから出場し、SHマレーとCTBロビー・ヘンショウは負傷で欠場していたため、今回はさらにこの3人が先発するベストメンバーといえる布陣で臨む。

そんな宿敵アイルランド代表に対してオールブラックスの勝利の鍵を握るのは、やはりFBボーデン・バレットだろう。

Bバレットはこの4年間での対アイルランド3試合にすべて先発出場しており、2016年の2試合ではトライ、2018年はペナルティゴール(PG)と唯一すべての試合でアイルランドから得点を挙げている

Bバレットは、2016年と2017年、2年連続SOとして、ワールドラグビー最優秀選手賞に輝いたオールブラックスの、いや現在のラグビー界きってのスター選手だ。2010年にタラナキでプレーした後、2011年にはニュージーランドのハリケーンズでスーパーラグビーデビュー、そして2012年にはオールブラックスで初キャップを獲得した。

ゲームコントロールだけでなく、ランとキックのスキルにも長けており、トライを取る能力も高い。2015年のワールドカップには控えからの出場が多かったがWTBやFBとして6試合に出場し優勝に貢献した。

現在、神戸製鋼でプレーするSOダン・カーターが2015年のW杯優勝を最後に代表からしりぞいた後、オールブラックスの10番を背負った。またハリケーンズでは司令塔としてチームを牽引してきた。2016年は223点を挙げてスーパーラグビーに得点王に輝き、ハリケーンズに初優勝にもたらした。

バレット家は5兄弟と3姉妹の大家族で、ボーデンの一つ下のLOスコット(クルセイダーズ)、万能BKのジョーディー(ハリケーンズ)も今大会に揃って選出され、10月2日のカナダ代表戦では3人同時に先発し勝利に寄与した。そして、スコットとジョーディーの2人も控えながらアイルランド代表戦にメンバー入りを果たしている。

Bバレットは、今大会はクルセイダーズを3連覇に導いた立役者リッチー・モウンガがSO入ったこともあり、FBのポジションでのびのびとプレーしている。また兄として、弟のジョーディーがナミビア代表戦にSOで先発出場した時は、自らウォーターボーイを買って出て、キックティーを運ぶなど、2人の弟を気にかけつつ、家族と居られることで精神的にも安定しているようだ。

現在SOを務めるモウンガとのコンビネーションも、実は昨年のアイルランド代表戦に初めて試された。ダブルスタンドオフといった形だが、バレット自身は「僕は本当に自分の役割を楽しんでいるし、その点ではすべてうまくいっている。リッチーと僕は、お互いがかぶらないように、自分のスペースを見つける方法を考えている」と答えており、気負いはない。

10月13日には愛する祖父のテッドが急逝した。最期を看取ることもできず、ワールドカップ中ということで葬儀にも立ち会えなかったが、バレットは自身のインスタグラムに「楽しい思い出ばかりだよ。安らかに、おじいちゃん」と自分の結婚式での祖父母との写真をアップしている。

3兄弟でワールドカップ3連覇を達成し、ウェブ・エリス・カップを三度、ニュージーランドに持ち帰ることが、亡き祖父に捧げる最高のプレゼントとなるはずだ。

自由奔放にどこからでも得点ができる「黒衣軍団」が勝つか、それとも世界最高のハーフ団が率いて、攻守ともに愚直に身体を張り続ける「緑の軍団」がベスト8の壁を破るのか――決戦は明日19日、19時15分に東京・味の素スタジアムでキックオフを迎える。

10月2日、カナダ戦でバレット3兄弟の先発が実現。右からFBボーデンバレット、WTBスコット・バレット、CTBジョディー・バレット(写真:アフロ)
10月2日、カナダ戦でバレット3兄弟の先発が実現。右からFBボーデンバレット、WTBスコット・バレット、CTBジョディー・バレット(写真:アフロ)

 

  • 取材・文斉藤健仁

    1975年生まれ。ラグビー、サッカーを中心に、雑誌やWEBで取材、執筆するスポーツライター。「DAZN」のラグビー中継の解説も務める。W杯は2019年大会まで5大会連続現地で取材。エディ・ジョーンズ監督率いた前回の日本代表戦は全57試合を取材した。近著に『ラグビー語辞典』(誠文堂新光社)、『ラグビー観戦入門』(海竜社)がある。自身も高校時代、タックルが得意なFBとしてプレー

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