ラグビーW杯 松ちゃん似の中島イシレリ「可愛すぎる」秘話 | FRIDAYデジタル

ラグビーW杯 松ちゃん似の中島イシレリ「可愛すぎる」秘話

大家族の長男、ホームシックをケンタッキーで克服、食後の洗い物は欠かさない

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スコットランド戦でぴょんぴょん飛び跳ねる姿が話題に

感情表現豊かでラグビー日本代表選手のSNSにも、たびたび登場する中島イシレリ選手
感情表現豊かでラグビー日本代表選手のSNSにも、たびたび登場する中島イシレリ選手

「喜び方が可愛すぎる」
「どう見ても松本人志にしか見えない」
「日本代表の推しは中島イシレリ」

ネット上で根強い人気を集めるラグビー日本代表がいる。金髪の髪とヒゲがトレードマークの左プロップ(PR)中島イシレリだ。

今回のW杯では、全試合ベンチからの途中出場ながら、力あふれる突進やタックルでチームを勢いづけている。その姿はまさに“重戦車”。南アフリカのメディアはプール戦のベストフィフティーンに中島イシレリを選出した。

またお茶目なキャラクターにも注目が集まっている。スコットランド戦、同じPRの稲垣啓太選手がトライを決めた瞬間、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ姿がテレビで抜かれた。その様子が「可愛すぎる」と、Twitterを中心に大きな話題をよんだのだ。

わずか10ヵ月で急激に進化した

トンガ出身で、2008年に留学生として流通経済大に入学。猛烈な推進力を武器に1年目から主軸として活躍し、4年時には日本代表の予備軍にあたる日本A代表にも選出された。

しかし卒業後に加入したNECグリーンロケッツではケガもあって思うように結果を残せず、2015年に心機一転を期して神戸製鋼に移籍。日本に帰化し、イシレリ・ヴァカウタから妻の姓をとって中島イシレリとなったのもこの年だ。

飛躍を遂げたのは、世界的知将のウェイン・スミス総監督と、元ニュージーランド代表のSOダン・カーターがチームに加わった昨シーズン。突破役として8シーズンぶりの日本選手権優勝に貢献し、トップリーグのベストフィフティーンにも選出された。

そして今年1月、大きな転機が訪れる。日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)から「ワールドカップでメンバーに入るには左PRしかない」と諭され、それまでのLO/NO8から最前線でスクラムを組むPRに転向。経験が重要とされるポジションながら、スクラムコーチの長谷川慎氏の熱心な指導により驚異的な成長を遂げ、代表入りを果たした。

W杯のスコットランド戦では、後半16分からの出場で相手防御を4度突き破り、ディフェンスでも猛タックルを連発。インパクトプレーヤーとして絶大な存在感を示し、歴史的勝利の原動力となった。PR転向からわずか10ヵ月での急激な進歩に、ジョセフHCも「信じられないほどの成長」と驚嘆の言葉を残している。

チキンを見たらニコニコして喜んだイシレリ

アイルランド戦勝利の喜びを体全体をつかって表現するイシレリ選手
アイルランド戦勝利の喜びを体全体をつかって表現するイシレリ選手

イシレリに日本行きの道を拓いたのは、流通経済大ラグビー部の内山達二監督だ。

「留学生を受け入れるなら生まれ育った土地や家庭環境まで知った上で迎えたい」という思いからトンガを訪れた際、リアホナ高校で図抜けた存在だったイシレリに出会った。ラグビーの実力もさることながら、厳しい経済状況にありながらも温かい家庭で育ったイシレリの人柄に触れ、たちまち「ほれ込んだ」という。

「大きくて見た目はいかついけど、家族をすごく大事にするし、素直さと謙虚さ、そしてユーモアがあった。なんとかこの子を日本で成功させたい、と思ったんです」(内山監督、以下カッコ内は同)

イシレリがトンガを発つ時は家族総出で見送りに来て、全員が別れを惜しんで号泣した。その光景は、何人もの留学生の面倒を見てきた内山監督にとっても心を揺さぶられるシーンだったという。家族にとって、イシレリが故郷を離れるのはそれほどのことだったのだ。

言葉も通じない不慣れな生活に、来日当初はホームシックになることも多かった。そんな時にイシレリの心を和らげたのが、「大好物」と公言するケンタッキーフライドチキンだ。

「元気がないと連れて行って、チキンを見たらニコニコして、食べたらホームシックが吹き飛ぶ(笑)。何度行ったかわかりません」

根が明るい性格だけに、言葉がわかるようになるにつれてラグビー部の仲間と遊びに行くことも多くなった。内山監督が思い出すのは、ある夏の出来事だ。

「トンガは島国だから海を見たら気が和らぐだろうと、仲のいい部員たちが海に連れていったんです。そこで小さなカニを見つけて、イシレリに『カニがいたよ』と見せたら、そのままパクってくわえちゃった(笑)。『いやいや、そういう意味じゃないから』と大笑いしたそうです」

トレードマークの金髪は「母校カラー」

その逸話が象徴するように、豪快でユーモラスなエピソードでも人気を博すイシレリ。とりわけよく耳にするのが、驚異的な“食べっぷり”だ。放っておけばいくらでも食べるため、一時期は体重が150kgを越えたことも(現在は120kg/186cm)。内山監督も「とにかく半端じゃなかった」と苦笑する。

「合宿所では一番最初に食卓について、一番最後まで食べている。ウチに来た時も、テーブルにあるものが全部なくなるまで食べるんです。それで、食べ終わったら洗い物をやっていく。トンガの大家族の長男なので、そういうところはしっかりしていました」

今年1月にPRに転向する際には、「ご飯を我慢しなくていいから」と冗談めいた理由を語り報道陣を笑わせたが、実は大学時代から「PRなら世界レベルの選手を目指せるぞ」と打診を受けていた。

この時は本人も自覚しながらNO8へのこだわりが強く、実現はしなかったものの、周囲はそれだけのポテンシャルを感じていたのだろう。結果的にこのW杯で世界から称賛されるパフォーマンスを見せ、日本代表の大きな力となったのだから、決断は正しかった。

「もちろん筋力や性格的な部分もありますが、やっぱり長谷川コーチが素質を見抜いて、献身的に細かく彼に合った指導をしてくれたことが大きいと思います。イシレリ本人も、そう話していました」

世界のラグビーの歴史を変えたチームに、自分の息子のようにかわいがった教え子が名を連ねていることは、指導者としてこれ以上ない喜びであり誇りだろう。イシレリにとっても母校への思いは特別のようで、W杯直前に染めた髪とヒゲは、「流通経済大のチームカラーの金と白を意識したもの」と明かしている。

「今回の日本代表は、ラグビー界のレジェンドとなるジャパン。イシレリのおかげで、我々指導者だけじゃなく、同期や先輩後輩含めて仲間たちみんなが幸せな気持ちになっている」

10月20日に行われる準々決勝の南アフリカ戦にも、イシレリはこれまで同様リザーブに名を連ねた。この試合は内山監督も、スタジアムで声援を送る予定だ。

「決勝トーナメントで本気で向かってくる南アフリカは、別次元のチームでしょう。でも今のジャパンなら、自分たちのラグビーをやり抜くと信じています」

恩師が見守る中、日本ラグビーが初めてたどりついた決勝トーナメントの舞台に立つ。これ以上燃えるシチュエーションはない。

  • 取材・文直江光信

    1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)

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