ラグビー日本代表 南ア撃破戦士が初めて明かす「金星前夜の秘話」

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4年前、日本代表WTBカーン・ヘスケスの決勝トライで南アフリカを撃破した瞬間(写真:アフロ)

ラグビーワールドカップ(W杯)で史上初のベスト8に進出した日本代表は20日、南アフリカ代表と対戦する。4年前のイングランドW杯で南アフリカから金星を奪い、「スポーツ史上最大の番狂わせ」と世界に衝撃を与えた、その試合で後半13分から出場し、試合が決まった瞬間にピッチに立っていた元日本代表LO真壁伸弥(サントリーサンゴリアス)は、快進撃を続ける日本代表にこんな思いを抱いている。

「自分達の実力に自信をつけて、日本ラグビーに新しい文化を見せてくれています。勝手ではありますが、2015年メンバーの意志を汲んでくれている様にも見えてしまって、涙がでます。ここから始まるな、という思いです」

4年前、南アフリカ戦を迎えるまで日本代表はW杯で1勝21敗2分。アジアで強くても世界では勝てない弱者だった。開催国・イングランドの大手ブックメーカー『ウィリアムヒル』も、試合前日の時点で南ア戦の日本勝利の倍率を「34倍」、南ア勝利の倍率は「1倍」とした。つまり戦前から南ア勝利を「確定的」と報道していた。しかし、日本代表の選手たちだけは前夜、勝つためのシナリオを入念に描いていた。真壁が続ける。

「試合前日のあのミーティングが、メチャクチャ、頭に残っています。選手たちだけで集まってその時に『何をして勝つ』ということがクリアになったんです。リーチとトンプソンが前に出て、ホワイトボードに自分たちの強みを書いていった。僕がその時、『スクラムだ』と言ったんですが、みんなもそう思ってくれていました。『Scrum』をはじめ、他にも単語が並べられていって、そこから『どうしたら勝てるか』という話につながって……。前日のミーティングの時点からみんな勝てる、と思っていたんです」

真壁がこれまでのミーティングの中でも印象的なのはなぜだろうか。

「僕は日本代表に2009年から選ばれましたが、しばらくはスクラムで優位に立てなかったので『押された後、どうするか』という前提でサインがはじまっていた。でも考えてみれば、その時点で負の連鎖がはじまってしまっていたんです。劣勢に立たされることが前提になれば、プレーの選択もどうしても少なくなる。でも、エディさん(・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチ)の4年間で前提そのものが変わったんです」

体格差やフィジカルの強さではかなわないから、劣勢に立たされることを想定してプレーし、何とか勝機を見いだす。その姿勢が必要以上に美化された。しかしエディ・ジョーンズHCは、強くないなら、鍛錬に鍛錬を重ねて強くし、本気で世界に勝ちに行った。そのプロセスで心も鍛えられた選手たちに、もはや弱者の発想はなくなっていた。

真壁伸弥は試合後、南アフリカ代表でサントリーのチームメート、スカルク・バーガーと健闘を称えあった(写真:アフロ)

ただ、いくら「スクラムで勝つ」と言っても、実際には簡単なことではない。2015年W杯の時、南アフリカのFW8人の1人平均体重は116㎏に対し、日本は7㎏軽い109㎏。南アのFWは強さも伝統的に世界でも指折りと言われてきた。それでも日本代表はピッチで「スクラムで勝つ」ことを証明した。

29-32と3点を追う後半28分すぎ。敵陣ゴール前30mやや右の地点でのスクラム。ここで、日本は南アボールのスクラムをグイと押し、南アフリカのスムーズな球出しを許さず、世界的SHデュプレアはまず、陣地を確保するために苦し紛れに蹴ってきた。そのボールを日本がマイボールにして、つなぐこと実に19回。しつこく、粘り強く、パス、ヒット、ランを繰り返し、南アゴール前まで侵入。ロスタイムの奇跡の逆転劇につながる大きな分岐点となるプレーだった。真壁が続ける。

「あのスクラムの直前、トンプソンがFW陣が作った円陣の中で、僕をはじめ、後半途中から入ってきたメンバーに対して『歴史を変えるの誰よ』と問いかけてきた。そこで後半メンバーみんなが『俺たちだろ』と返す、何か青春ドラマみたいなやりとりが、あのピッチの真ん中であったんです。僕はトンプソンを『カッコイイな』って思いましたよ、その瞬間。あのスクラムを押せたのは、間違いなく、トンプソンの言葉があったからです」

その後も猛攻を続け、南アフリカをゴール前にくぎ付けにして反則を誘った。後半ロスタイムに、ゴール前ほぼ中央で相手の反則によるPGチャンスが訪れた。スタンドのエディ・ジョーンズ監督が「PGを狙え」と指示したにも関わらず、リーチマイケル主将がスクラムを選択し、逆転勝ちにつなげた話は語り草となっているが、真壁の言葉を借りれば、あの場面でスクラムを選択することは、前日の選手ミーティングで決まっていたのだ。

「最終的にリーチがレフリーに告げてくれましたが、僕らからしたらプラン通りなんです。それに、僕らはあのW杯にむけて『日本のラグビーを変えたい』と選手同士で共通認識を持っていろんなことを犠牲にしてきたので、そこで同点は選べない、という思いもありました」

2015年のW杯イヤーだけで日本代表の合宿日数は160日に及んだ。朝5時からウェイトトレーニングをやるような猛練習で、南アフリカ相手に堂々とスクラムを押し切る強さに飛躍させたのは猛練習の賜物だった。ピッチ外では、日本代表選手が受け取れる日当の一部を選手同士で積み立て、そのお金で被災地の子供たちを代表戦に招待し続けた。4年後の2019年、日本開催につなげる前にラグビー人気が下火にならないよう、文字通り身銭を切ってラグビーの魅力を伝えることに心を砕いていた。南アフリカからの金星によって、その思いは結実した。

2018年6月のジョージア代表戦まで日本代表戦に37試合に出場した真壁は、ふとこう漏らす。

「同じ国代表同士の試合でもテストマッチとW杯は、全然違う。極端な言い方をすれば、スポーツじゃない。国の意地とプライドをかけたケンカ、格闘技です。南アフリカ戦で途中出場したときも、僕はあまりの強さに、今まで感じたことのない衝撃を受けました。実際、サントリーのチームメイトで、当時、南アフリカ代表として対戦したスカルク・バーガーは、トップリーグの試合、南アフリカ代表のテストマッチ、W杯では、気持ちも顔つきもプレーも全然違いましたから」

4年前、日本代表の引き立て役に回された南アフリカは当然、意地とプライドをかけて日本代表に挑んでくる。アイルランド、スコットランドと欧州の列強を撃破した今の日本代表にはそれを受けとめ、乗り越えるだけの期待感がある。

南アフリカに勝利した後、記念撮影で真壁伸弥(後列左から3人目)は絶叫(写真:アフロ)

 

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