ラグビーとピアノを愛する男 福岡堅樹が南アフリカ戦で奏でる旋律 | FRIDAYデジタル

ラグビーとピアノを愛する男 福岡堅樹が南アフリカ戦で奏でる旋律

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スコットランド戦で、プレイヤー・オブ・マッチに輝いた福岡(撮影:茂木あきら/JMPA)
スコットランド戦で、プレイヤー・オブ・マッチに輝いた福岡(撮影:茂木あきら/JMPA)

福岡堅樹は少年時代、ラグビーと同時にピアノも習っていた。

好きな楽曲は、ヴェートーベンのピアノ・ソナタ第8番ハ短調『悲愴』。筑波大に通っていた2014年6月、次のように語っていた。

「あの曲を弾いたのは中1くらいだったと思います。多分。一番、練習した曲でもありますし、その曲自体がすごくきれいなので。本当に反復練習です。指が覚えるまで。その意味ではラグビーにもつながるところもあると思います」

4年に1度あるラグビーワールドカップの日本大会で、27歳となった福岡が大暴れしている。

ここまで4戦中3戦に出て4トライをマーク。2013年から代表入りして今度で2度目の出場となるワールドカップの舞台で、自慢の加速力を披露している。同じ代表選手の松島幸太朗には「(自身がつけられたあだ名の)フェラーリは…福岡堅樹です」と評されている。

10月20日には東京スタジアムで、南アフリカ代表と初の決勝トーナメント準々決勝をおこなう。南アフリカ代表とは9月6日に直接対決済み。淡々と意気込む。

「ワールドカップという大会で自分たちのラグビーを示して、チームとしての自信を持っている。南アフリカ代表がどう戦ってきてこちらをどう崩してくるかも経験してきたうえで、準備ができている。前と違った戦いが見せられればと思っています」

尻上がりに調子を上げてきた。

遡って南アフリカ代表との事前試合では、前半4分にけがで退いていた。ところが本番突入後の9月28日、他の故障者の穴埋めのためアイルランド代表戦当日にリザーブ入り。3点ビハインドの後半9分に登場すると、同18分に勝ち越しトライを決めたうえ試合終盤にインターセプトから大きく突破を見せた。

このランニングでは抜け出したところで相手に捕まってはいたが、静岡のエコパスタジアムは大きく沸き、結果19-12で勝利し、会場は歓喜に溢れた。

「アイルランドの時は、まだ本調子じゃなかったんだよ、あのスピードは」

こう語るのは、日本ラグビー協会の森重隆会長だ。福岡が通った福岡県立福岡高のラグビー部で監督だった森は、高校時代の福岡を指導している。正直な態度で人望の厚い森が「ケンキ」の「本調子」を見たのは、10月13日の予選プール最終戦だという。

神奈川・横浜国際総合競技場でのスコットランド代表との一番。日本代表の7点リードで迎えた前半39分である。敵陣10メートルライン付近の左端に立った福岡は、右手前にいたラファエレ ティモシーのゴロキックを追う。同22メートル線を越えたあたりでバウンドする球をひょいと掴み、そのままゴールエリアへダイブした。

ラファエレからのグラバーキック(ゴロのキック)に素早く反応しトライを決めた福岡(撮影:茂木あきら/JMPA)
ラファエレからのグラバーキック(ゴロのキック)に素早く反応しトライを決めた福岡(撮影:茂木あきら/JMPA)

ここで恩師は、かつての教え子の「最初の2~3歩のスピードの乗り方」に充実ぶりを見た。確かに身長175センチ、体重83キロの戦士は、ラファエレのキックに反応した際に虚を突かれた防御を一気に置き去りにしている。本人が自信を持つ「瞬間のスピード」が光った場面に、森会長は喜ぶのだった。

「(100パーセントの状態かと聞かれ)そうじゃないですか? あの走り方を見ると。わかるんだよ。ずっと見ているから。ボールを追っかけてトライ取ったところがあるでしょ? あそこでの出方が、違うもんね。グン! と出たから」

この日の福岡は都合2度インゴールを割り、28-21で勝ったうえプレイヤー・オブ・ザ・マッチにも輝く。決勝トーナメントでのトライを期待されれば、「内側の選手が(相手を)崩していい形でボールをつないでくれているから、トライが獲れる。自分自身の(トライの)数にはこだわらないですけど、トライを獲ることに、仕事として集中できれば」。過不足のない答弁に、矜持をにじませる。

南アフリカ代表戦では、トライシーン以外でも活躍が待たれる。というのも前回対戦時は、相手が両端に蹴る高い弾道のキックの処理に苦しんでいた。本来なら福岡が持ち前のバネと知性を活かすところだが、そもそも試合序盤に退場していた。

普段は群馬県太田市のパナソニックに所属しているとあって、「太田も冬場は風がめちゃくちゃ強い」と安定した捕球にも自信を見せる。相手の立ち位置、蹴り方をよく観察し、ボールの落下しそうな位置と自身の最高到達地点を合わせるつもりだ。

「前回はハイボールキャッチに関わる前に退場してしまったのですが、これまで練習していいシーンもいくつか出せている。自分らしいジャンプをして競ればいい形にできる。自分の仕事を徹底したいです」

2020年のオリンピック東京大会後は、医学部受験のため引退。15人制のワールドカップは今回がラストの大会となる。もっとも、南アフリカ代表戦を大会ラストの試合にするつもりはない。誰にも真似のできない走りと跳躍で、美しい旋律を奏でる。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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