ラグビーW杯 ジェイミーHCへ続投要請 日本代表4年後への課題 | FRIDAYデジタル

ラグビーW杯 ジェイミーHCへ続投要請 日本代表4年後への課題

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スコットランド戦の試合前練習でのジェイミーHC(撮影:茂木あきら/JMPA)
スコットランド戦の試合前練習でのジェイミーHC(撮影:茂木あきら/JMPA)

日本ラグビー協会は10月24日、都内で次期日本代表ヘッドコーチ(HC)の選考委員会を実施。今年のワールドカップ(W杯)日本大会で8強入りしたジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチへ続投を求めると決めた。2023年のW杯フランス大会を見据え、4年契約年俸1億円と見られる大型の条件を提示する。

「本日、男子 15 人制日本代表チームの新体制に向けたヘッドコーチ選考委員会を開催しました。昨年以降、ジェイミー・ジョセフ氏と交渉を続けてきましたヘッドコーチにつきましては、今回のラグビーワールドカップ 2019 日本大会の戦績に鑑み、同氏にヘッドコーチの要請をすることを選考委員会として決めました。今後は、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチと具体的な交渉に入ります。…以上です」

委員会が始まったのは同日13時ごろで、選考委員長でもある日本ラグビー協会の森重隆会長が文書を読み上げたのはその約2時間後。アナウンスには、やや時間がかかった。

もっとも森会長曰く、議論は「(ジョセフに)断られたら…というの(代案に関する話)は出ましたけど、とにかく(ジョセフ)1本で行こうと」。話し合いは円滑に進んだと言い、今後の交渉を藤井雄一郎強化委員長に委ねた。ジョセフと親交の深い藤井強化委員長は、他国からもオファーがあるというジョセフへのアプローチを急ぐとした。

「(ジョセフは)W杯の決勝(11月2日)の後に帰国します。もちろんしっかりオファーして、それを持ち帰って(もらって)、国際交渉となる」

2016年秋に現職へ就いたジョセフは、『ONE TEAM』をスローガンとして家族的な集団を長時間かけて醸成。自国でのW杯に備えて「ティア1」と呼ばれる強豪国すべてとの対戦が叶ったなか、就任前から決まっていたスーパーラグビー(国際リーグ)への日本チーム参戦などもフル活用してきた。本番までに「芸術的」とも言われるトニー・ブラウンアタックコーチのゲームプラン、前任のジョン・プラムツリー氏と歩調を合わせてきたスコット・ハンセンディフェンスコーチによる鋭い出足の防御システム、長谷川慎スクラムコーチの8人一体型の「力を漏らさない」パックを定着させた。

同代表史上初となるW杯8強入り決め、指揮官自ら言った。

「チームは一夜にしてはできない。(大会中は)お互いに褒め合えるような状態になった」

準々決勝敗退から翌日の10月21日には、大会登録メンバーの田中史朗が目に涙をためながら現体制の継続を要望。ジョセフやブラウンとハイランダーズ(スーパーラグビーへニュージーランドから参加)でも一緒に戦ってきた田中は、「これからも日本のラグビー全てがコネクトして、全体で強くなっていければ」と思いを発した。

リーチ マイケルキャプテンも「日本代表はすっと強いまま続けるのが大事」とし、一時はグラウンド外での規律作りをめぐって議論を重ねたジョセフへも「ジェイミーとリーダーグループを育てて『ONE TEAM』を作れた」と謝辞を述べた。別の場所では、多国籍チームの日本代表でのジョセフらの立ち位置をこう述べていた。

「選手がさまざまな背景を持つチームに、マオリ族(ジョセフらのルーツであるニュージーランド先住民族)のコーチ陣がフレキシビリティをもたらしてくれた」

何よりジョセフと同じサニックス出身の藤井強化委員長は、同副委員長だった2018年からW杯後のジョセフの続投を目指してきた。

ジョセフの優秀なアシスタントコーチの力を引き出す力、日本ラグビー界への愛情を信じ、選手と指揮官とのパイプ役も務めていた。今度の続投要請に関しても「本当はW杯前に決めてあげたかった」と強調した。

ただし今回、日本協会は強化委員会、技術委員会などから9名が集まる選考委員会を発足。大事な仕事を任せる相手は、然るべき段階を踏んで決めることにした。森会長とともに今年6月に就任した岩渕健輔専務理事は、「誰がいい、悪いというより、決め方、決めるプロセスが大事だと思っています」と説明した。

選考委員会があった当日、岩渕らは「委員長から改めてコメントがあります」と話して会場を後にする。森会長らが出てきたのはその後のことで、藤井強化委員長はこう先を見据えた。

「(ジョセフには)もちろん日本に残りたい気持ちはあったけど、こちらが具体的なオファーを出せなかった。以前から(即決を促すよう)言っていて、今日それ(続投要請)が決まった。あとは本人が決めること」

ここから注目されるのは3点。日本協会がジョセフのギャランティをどうねん出するか、ジョセフを支えるコーチ陣をどう慰留するか、今後の代表候補選手の国際経験を積む場をどう担保するか、である。

今年、空前のラグビーブームで盛り上がるなか、森会長は「日本協会が儲かっていると思われているけど、協会には(国際統括団体のワールドラグビーが仕切るW杯のチケット収入などの利益は、いまのところ)入って来ない」。自らが主催する試合などで収入を得なければならない日本協会では、清宮克幸副会長が2021年までに新たなプロリーグを作りたいと宣言している。現時点では、森会長をはじめ複数の幹部が窮状を訴える。以前は「2年」と予定されてもいたジョセフとの契約期間を「4年」とするなか、財源のありかを確認されたい。

コーチ陣への慰留については、藤井強化委員長は「(各コーチに)話している」と強調。ジョセフの右腕だったブラウンが来季から古巣ハイランダーズのコーチとして2年契約を結んでいるが、「ジェイミーが必要とすれば」を前提として、代表戦期間中にスポットコーチとして呼んだり、ハイランダーズとの契約が切れるタイミングで再度契約を申し込んだりしたいと明かした。

代表強化を大きく支えたサンウルブズは、2020年限りでスーパーラグビーを撤退する。新生日本代表へは別な形での支援が求められるが、ジョセフとその点を話し合うのは「これからやね」と藤井強化委員長。「とにかく皆ここまで必死でやってきたから。休ませてあげたい。特にあの人(ジョセフ)はメリハリつけないと。休むときは休まんと次のエネルギーが出てこないから」と配慮していた。

今後の課題もなくはないが、思えば4年前も体制構築に難航。エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチのW杯イングランド大会限りでの辞任は早くから決まっていたが、日本協会の指揮官選びには時間がかかったものだ。

その意味で今回の準備には、はるかに進化が見られる。選考委員会の開催は意思決定のスピードを鈍らせたようにも映りそうだが、バックヤードが『ONE TEAM』を作るには必要な手順かもしれなかった。

新体制は、いかなる形で出港するのだろうか。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター 1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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