「ケーキを切れない」非行少年たちが抱えるしんどさと親の苦悩

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A4サイズの紙を渡し、丸い円を書いて「ここに丸いケーキがあります。3人で食べるとしたらどうやって切りますか? 皆が平等になるように切ってください」という問題を出す。すると、「う〜ん」と悩みながら固まり、三等分にすることができないまま時間が過ぎる。そして悩みながら縦に半分にしたのち、その一方がさらに半分になるように線を引き、三等分にはできないままだった……。

ケーキの分割図(少年たちが書いたものを著者が再現)

これは、立命館大学産業社会学部教授の宮口幸治氏が医療少年院で出会った非行少年たちの実態を示している。彼らは殺人などの凶悪犯罪に手を染めた少年たちだったが、その中の、粗暴な言動が目立つある少年と面談した際のエピソードだ。別の少年は横に2本の線を入れ、同じく、三等分にはできなかったのだという。

精神科医でもある宮口氏は、大阪の精神科病院に児童精神科医として勤務したのち、法務技官として医療少年院で多くの非行少年の支援に関わってきた。こうした経験に基づき執筆された『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮社)が今年7月に刊行され、11月の現在も売れ続けている。宮口氏は本書でこう綴る。

「問題なのは、これが強盗、強姦、殺人事件など凶悪犯罪を起こしている中学生・高校生年齢の非行少年たちだ、ということです。彼らに、非行の反省や被害者の気持ちを考えさせるような従来の矯正教育を行っても、ほとんど右から左へと抜けていくのも容易に想像できます。犯罪への反省以前の問題なのです」

犯罪への「反省」さえできない少年たち

彼らがケーキを三等分できない背景には何があるのか。また、彼らとその保護者はどういった苦しみを抱えているのか、今回、著者の宮口氏に話を聞いた。

ーー凶悪犯罪を犯した非行少年らは、なぜ『反省の気持ち』を持つことが難しいのでしょうか。

「まずそもそも『反省』とはどういうことかを考える必要があります。言葉だけで『悪いと思ってます』『もうしません』と言えば反省といえるのか。本当に心から悪いことをしてしまったという気持ちがあり、それが被害者にも通じたら、ある意味、被害者も救われるわけなんですよね。ですが、そこに至るためには、相手の立場に立って『自分の家族がもし同じ被害にあったら』と想像したり、『自分はどういう経緯で犯罪を犯してしまったのか』と自分を振り返ったりしなければならない。そういった作業はすごく頭を使いますし、性格の問題だけではなく、反省するにもある程度の能力が必要だといえるのです。

能力というのは、知能だけでなく身体機能や感情も含めたものです。アメリカでの例ですが、幼少期から虐待を受けて成人になり、犯罪を犯した方がいました。身体的にはもう成人ですし、知能も成人の平均値をクリアしているのですが、感情のコントロールに関しては発達が途中で止まっているような状態で、人間関係の構築も困難だったという事例です」

ーーご著書には、先生が接した非行少年たちがケーキを三等分できない背景には、そういった様々な能力が凸凹に備わっていることが無関係ではないとありました。また、彼らに共通する特徴として、認知機能や感情統制の弱さ、融通の利かなさ、不適切な自己評価、対人スキルの乏しさ、そして身体的不器用さなどが記されておりましたが、この特徴の中で先生が特に重要視する能力はありますか?

「これは紙面上並列に表記されていますが、実は並列ではないんです。土台はやはり、物事を考えるという認知機能が必要です。それがあることで、融通を利かせたり、自分のことを評価したりできるようになる。その全体をオブラートのように、感情が包み込んでいるというイメージです。感情がコントロールできず、カッとなったりすれば、全体に影響を及ぼします。これらが対人関係に結びつく。

対人スキルの向上こそが彼らにとっての最終目標であり、一番大事なところだと私は考えています。そのためには、本書に挙げた能力の欠如を少しでも改善してゆくことが重要になります」

ーー感情のコントロールとも関わるお話になりますが、先生は、感情の中で最も厄介なものが『怒り』であり、非行少年ならずとも、“バカにされた”とか“自分の思い通りにならない”ことが『怒り』につながり、対人トラブルの元にもなると解説されています。また“バカにされた”という感情の背景には自分に対する自信のなさがあるということですが……。

「背景にあるものはやはり、能力的な問題から発生するいじめ被害や、それまでの人生における成功体験の少なさです。そこから『どうせ僕なんか』という思考になり、次の被害感につながっていく。対人関係においても、例えば他者の言うことを『ひょっとして違う意図があるんじゃないか』と疑ったり、『また俺のことをバカにしている』と感じたり。様々な局面で、思い通りにならないと思い込み、キレてしまう。少年院でもそういうことに端を発するトラブルは結構多いんです。

また、虐待をされた子の場合だと、親への憎しみが出てくればまだ良いのですが、自分が悪いと責めてしまいがちなんですね。そうして自信をなくしていく。小さい頃から虐待されてきたら、なんで自分が怒られているのかわからないのに『自分が悪さをしたからだ』と思い込むようになっていきます。そして、こんな自分は成功しないだろう、と考えてしまう。

我々でも、物事に何回もチャレンジしてみて、ダメだったら諦めるでしょう。それと同じように、彼らは勉強の面でも、何度やってもできなかったからと諦めてしまっている。さらに、傷つきたくないから“あえてやらない”という傾向も見られますね。あとは、自分の目標になる大人が身近にいないことも大きいです」

ーーそんな、被害感情が強く自己防衛意識の強い彼らと、先生は対話を重ねてこられたんですね。生半可な労力ではできないことだと思います。

「外の社会でそういう子たちと向き合うのはものすごく大変だと思います。ただ、少年院は入った瞬間にある程度自由が利かない状態になっていますし、暴れたらその都度出院が延びていきますから、少年たちもある程度覚悟を決めるんです。そして、そこではじめて自分自身に向き合うんですね。

自分のことに注意が向くといったほうが良いかもしれません。それまで外に意識を向けて好きなことばかりやってきたけど、自分自身に注意を向けて、そして考え始めるという感じですね。そういった意味でいうと、彼らは考え始めるまでが大変なんです。

学校の授業に例えると、少年院に入るというのは、それまで教室で走り回っている子が、席に着くというイメージ。ようやく授業を受ける体制に入ったという感じです。そこから矯正教育もスタートします」

彼らが日常生活で抱えてきた「しんどさ」

ーー少年院には、軽度の知的障害を抱えている非行少年もいて、彼らは、日常生活で相当な「しんどさ」を抱えているだろうといったことが書かれておりましたが、その具体的な「しんどさ」をお聞きしたいです。

「本人たちに聞いて『一番苦手なこと』と回答があったものが、人と話すこと、それと勉強。この二つですね。

一見ハンディキャップを抱えていることがわかりづらい彼らは、好きなことや趣味については普通に話せるんですが、ちょっと入り組んだ話題だとなかなか会話に入れない。他者との普段の会話から「しんどさ」を感じているはずです。

とはいえ、こういったお話は、いろいろな誤解も生みます。知的障害を抱える方が犯罪者になりやすいんじゃないかとか、犯罪者はみな知的障害があるんじゃないかという意見がSNSにもあったりするのですが、それは全く違うんです」

ーー確かに、非行少年たちと同じように、認知機能や感情などに凸凹があって生きづらさを抱えていても、犯罪を犯さずに生活している人もたくさんいますよね。

「いやもうそれが普通ですよ。ほとんどがそうです。ただ、犯罪を犯してしまった非行少年たちと接してきたところ、一定数の少年が軽度の知的障害を抱え、とてもしんどい思いをしてきたんだということが分かった。

日々の生活に困難を抱えながら生きていたんですね。それを前もって支援できていたら、事件を防ぎ被害者の命も救えたのではないかということです。早い段階で彼らの困りごとを見つけてあげて適切な支援ができていたら、もしかしたら、彼らと被害者の人生が変わっていたかもしれない。そんな思いがあります」

ーーそんな思いが、認知機能強化トレーニングのための、通称『コグトレ』の考案につながったのでしょうか。

「私自身はそういう子たちを少年院でずっと見て来て、この子たちをなんとかしてあげたいと思った時に、やっぱり認知機能のトレーニングが必要だと考えたのですが、そのまま少年たちに使える教材が存在してなかったんです。だったらもう自分で作るしかないなあというところがスタートなんですね。それが学校でも通用するということで、今使われ始めているのです」

問題を起こす子供と向き合い、ボロボロになる親たち

ーー少年院には「しんどさ」を抱えたまま成長した非行少年たちが一定数いるということですが、これは親も見逃してしまうものなんでしょうか?

「まず学校の先生から気づかれず、単に『勉強が苦手』と見られてしまうことが多いようです。検査しなければわからないレベルの障害なので、親もやはり気づかない。

意外かもしれませんが、少年院に来ている子の親御さんには、熱心に子供と向き合ってきて、ものすごく頑張ってこられた方も多い。決して、子供に対して無関心ということではなく、少年院に入るまでも、問題を起こすたびに相手の家に謝りに行き、警察に叱られ、ボロボロになりながら一生懸命子供と向き合って来て……。それでも非行に走ってしまいどうしていいかわからない、っていう親御さんも多いイメージがありました。

少年鑑別所などで様々な検査や面談をして、ようやくどんな困りごとを抱えていたかが分かるんです。それまで『この子は勉強ができないから』と塾に行かせて頑張ってきた。でも、それが子供にすごく負担だったんだ、と分かって涙を流される親御さんもいらっしゃいます。

身体的な発達や学力だけでなく、認知機能についても目を掛けるというシステムを教育に導入する流れが生まれれば、悲しい犯罪を減らし、最終的には日本の国力を上げることにつながるのではないかと思っています」

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宮口幸治 立命館大学産業社会学部教授。京都大学工学部を卒業し建設コンサルタント会社に勤務後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務、2016年より現職。困っている子どもたちの支援を行う「コグトレ研究会」を主宰。医学博士、臨床心理士。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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