認知症発見や免許返納も 「探偵」による高齢者見守りが話題
世界がいまだ体験したことがないほどの高齢化社会にいち早く突入した日本。財務省によれば、2025年には65歳以上の人口は3657万人になると予測されている。
アクセルとブレーキの踏み間違いなどによる悲惨な自動車事故の多発は、本人は大丈夫と思っていても認知機能や判断能力が衰えている高齢者の実態を示した。読者の中でもこれらの報道をきっかけに年老いた両親が心配になり、免許の自主返納を促したという人が多いのではないだろうか。

「高齢のご両親と別居している家族は多いと思いますが、弊社の調査で両親の暮らしぶりをきちんと把握している人は25%、両親との別居に不安を感じることがある人は全体の約57%にものぼることがわかりました」
そう語るのは、大手探偵会社、原一探偵事務所の広報・平木麻美さん。
一見接点がないように感じる「探偵」と「高齢者」だが、探偵ならではのノウハウを活かし、原一は「高齢者見守り」というサービスを展開しているという。
「具体的な内容としては『行動調査』『身辺調査』『徘徊高齢者の捜索』『高齢者の見守り(定期的・一時的)』『遠方在住家族の相談対応」ですね。これらは社内で認知症サポーターの講習を受けたメンバーが担当します。
サービスは探偵だけで完結するのではなく、高齢者や認知症ケアの専門家とタッグを組んで対応しています」(原一 広報企画部 平木さん 以下同)
浮気調査で培った尾行などの技術を活かす新しい領域のひとつが「高齢化社会」だったのだ。
高齢ドライバーの免許返納もサポート
このサービスの活用法のひとつが、高齢ドライバーの免許返納だという。依頼者からは「家族がいくら言っても聞かない」「本人は大丈夫だと思っている」という声が寄せられる。そこで原一は、本人にわからないように尾行して運転状況を確認。危険運転の事実をつかみ、依頼者の家族経由で本人に知らせることで、免許返納を促すきっかけにしている。
「高齢者見守りというと、GPSでの行動管理や緊急時の駆けつけサービスなど、システムで対応している会社が多い中、人の目による本当の意味での『見守り』を行っているんです」
徘徊の兆候も見逃さない
それ以外では、認知症や孤立などの早期発見。毎日出かけてはいるものの、何をしているのか把握できないというケースでは、まず「徘徊」の可能性を疑う。彼らが行動を見守る過程で、「万引き」など家族の思いもよらない行動を発見することもあるという。
「最近はこうした外出時の状況確認や、認知症の方の徘徊捜索の依頼が増えています。離れて生活する両親や、一人暮らしをする親の暮らしぶりは把握しづらく、家族が『危険はないか』などと本人に聞いても、『大丈夫』と一蹴されることが多いようです。
さらに、周りの人への聞き込みをすることで、リアルな生活や変化を知ることができます。そこから見えた事実は、家族で話し合うきっかけにもなっています」
具体的な事例をみてみよう。
夫76才がどこへ行っているのか、不審に感じた妻からの依頼。「朝早くから出かけるが、帰宅時間がまちまちで20時ころまで帰って来ないようになった。始発のバスで出かけているが、どこに行っているのかわからない。電車で終点まで行ってしまったことがあり、毎日何をしているのか知っておきたい」という。
調査を行うと、対象者は電車を乗り継ぎ移動していることがわかった。車両内ではパンなどを飲食し、窓を叩いたり、大声で独り言を言ったりしていた。また途中下車してボンヤリとしている姿もあった。





「奥様はこの調査結果を受け、ご主人が『どこで何をしているのか』『危険な行動をしていないか』という疑問が解消されてよかったとおっしゃっていました。これからどうすればいいか、すぐにはわからないようですが、このように正確に状況を把握することが、対処の第一歩となります」
浮気調査をはじめとした様々な場面で人間の本当の姿を探ってきた探偵のノウハウは、離れて暮らす高齢者の暮らしもしっかりと映し出す。IT技術によりあらゆるものがデジタルに置き換えられる中で、血が通った人間が見守るからこそ得られる安心感があるのかもしれない。
取材・文:浜千鳥