「ブラック部活」出身の作家・栗山圭介が語る、個性の作り方 | FRIDAYデジタル

「ブラック部活」出身の作家・栗山圭介が語る、個性の作り方

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「令和になって、これで3つ目の時代ですが、昭和の男の僕としては時代に取り残されているんじゃないかという不安もあります。でも、僕は根本的には流れに逆らわない。流れに乗っていればいい。そう思って生きているんです」

こう語るのは、作家の栗山圭介氏(57歳)だ。『国士舘物語』『フリーランスぶるーす』など、自身の経験をもとにした笑って泣けるエンターテイメント小説が人気で、2017年にはデビュー作『居酒屋ふじ』がテレビ東京系でドラマ化されて話題をよんだ。今年9月には新刊となる『ヒールをぬいでラーメンを』(角川春樹事務所)を上梓したばかりの栗山氏を直撃した。

作家の栗山圭介氏
作家の栗山圭介氏

個性に悩んだ学生時代

――今作は大手IT企業をクビになったアラサーOLが、心機一転、ラーメン店を起業するというユニークな設定です。女性の主人公を書くのは初めてだと思いますが、何か理由はあったのですか。

栗山:自分のなかで新しいチャレンジをしたいという気持ちがありました。じゃあ、何をテーマにするのかと編集者と考えていたところ、「ラーメン」はどうですかと言われて。普通、ラーメン屋の物語を書くと、「頑固親父が出てきて、秘伝のレシピは教えねえ、盗め!」みたいな、男臭い熱い物語になりそうですが、それはやめようと。そこで思いついたのが、ラーメンと女性の生き様を掛け合わせるような展開です。だから、ラーメンスタート、女性主人公は後づけなんです(笑)。

――なるほど。でも、女性は描くのは難しくなかったですか。

栗山:もちろん。これまでは自分の経験をもとにした作品ばかりでしたから。でも、だからこそフィクションという中で、自分の思う女性像というものを書いてみたかった。僕、女性をすごく尊敬しているんですよ。強くて逞しくて現実的で、自分とは真逆。女性がハイヒールを履いて、床をコツコツ鳴らす姿なんてすごくカッコいいじゃないですか。まるでロックスターの後ろ姿を見ているかのようです。そんな女性への憧れを込めて書きました。

――栗山さんの書くキャラクターは個性的な人物が多い気がします。今回の主人公もバリバリ仕事のできるOLなのにどこかオヤジ臭いところもあって…。

栗山:「個性」というものが好きなんですよ。でも、個性ってそれを取り巻く他人がいてこそ生まれるものですよね。昔は僕も尖っていたことがありましたが、ある経験から、「個性」を強く意識して、キャラクターの変更を余儀なくされました。

――その経験とは?

栗山:国士舘大学で過ごした4年間です。もう、入学式から大ショックを受けましたよ。僕はシティボーイさながら、張り切っておしゃれなスーツと蝶ネクタイでキメていったのですが、前後を見ると、全身黒尽くめで顔の半分以上に青タンを作った連中ばかり。「俺が一番強いんだぞ」っていう自己主張が、みんな顔に出てるわけ。そいつらを見ながら、「4年間、本当にここで大丈夫なのか」と思いました(笑)。

体育“界”で学んだ人間関係のキモ

――それはなかなか衝撃的な経験ですね。実際の学校生活はいかがでしたか。

栗山:一言でいうと、ザッツ体育界。体育“会”ではなく体育“界”です。僕は体育学部だったのですが、授業も部活もモーレツにキツかった。昔話として聞いて欲しいんですけど、当時、うちの学部では「1年奴隷、2年平民、3年天皇、4年神様」っていう言葉があって、1年は上級生からめちゃくちゃにこき使われるわけですよ。1年といっても、高校生までは地元でそれなりに“名を馳せた”ヤツばかり。そんな運動神経バリバリで血の気が多い男たちですから、部活から解放された授業中なんかめちゃくちゃささくれだってるわけです。毎日、気が休まることなんてない。

――確かに、そのなかで個性を出すのは難しい…。

栗山:でも、ある時に気づいたんです。猛獣の中でキングになるのではなく、猛獣使いになればいいんだって。人間ってそれぞれの個があって、ぶつかり合うのは当たり前。でも、クラッシュさせるためにぶつかっているわけじゃない。他人とどのような輪を組めば、自分のキャラクターを生かすことができるのか、自分の存在感を噛み締められるのか。自分のポジショニングの取り方みたいなものを国士舘で学んだ気がします。

――最近では、学校の部活動は生徒にとっても教師にとっても負担が大きすぎると問題となっていますよね。「ブラック部活」なんて言葉まで登場しました。そのあたり栗山さんはどう思われますか。

栗山:もちろん過度な練習や理不尽な要求はいけませんし、体罰なんてもってのほかです。先生たちにとっても、サービス残業が当たり前の部活動は問題だと思います。でも、僕は学校での部活動はなくすべきじゃないと思っています。どんな組織、チーム、コミュニティにも、それぞれの上下関係、礼儀礼節、規約みたいなものがあって、踏み込みすぎれば叩かれて、協調性がなければ叱咤される。そういった距離感っていうのは人間関係でしか学べないですから。

――今の時代、人付き合いや上下関係など、ひと昔前は重要とされてきたものの価値観が急速に変化しているような気がします。そんな中でも、栗山さんは強く生きていけそうですね。

栗山:どうなんだろう(笑)。令和になって、これで3つ目の時代ですが、昭和の男の僕としては時代に取り残されているんじゃないかという不安もあります。新しいテクノロジーなんか全然追いつけないしね。でも、僕は根本的には流れに逆らわない。流れに乗っていればいい。そう思って生きているんです。タフな人間が必要とされるのはいつの時代も変わりませんから!

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くりやま・けいすけ/1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中。

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