中国からのオファーで再アニメ化 料理バトル『中華一番』の魅力
いつの時代も「熱いバトル」は少年漫画の王道。そこに、グルメ漫画の「美味しさ」が加わったら、面白くならないわけがない。『ミスター味っ子』、『鉄鍋のジャン』、『焼きたて!!ジャぱん』、『食戟のソーマ』……料理人同士が己の腕を競い合う、いわゆる「料理バトル」漫画は傑作揃いである。
そんな名作漫画のひとつが、この秋、新たに生まれ変わってアニメ化された。1997年のアニメ放送以来、実に22年ぶりのリメイクとなる『真・中華一番!』だ。

原作は、「週刊少年マガジン」で1995年に連載開始した小川悦司氏による同名漫画。第1部にあたる『中華一番!』では、主人公リュウ・マオシン(マオ)が一流料理人に与えられる「特級厨師」の称号を目指し、料理の腕を磨いていく成長譚が描かれ、第2部にあたる『真・中華一番!』(以下、『真』)では、暗躍する組織「裏料理界」との壮絶な料理バトルが繰り広げられる。今回のリメイク版アニメでは、マオが裏料理界と闘う『真』から物語がスタートする。
更に漫画も待望の復活を遂げ、およそ20年ぶりの新シリーズ『中華一番! 極』が連載中だ。『真』の続編となる本作では、マオやメイリィ、シロウといったお馴染みのキャラクターたちが再集結し、前作では語られなかったマオの父親の謎を追って中国全土を駆け巡る。

アニメと漫画、ダブルでの復活について作者の小川悦司氏はこう語る。
「今回の新アニメプロジェクトは、中国からのオファーで始まっています。再アニメ化のオファーは、中国本土からこれまでも何度かいただいていたのですが、話が持ち上がっては立ち消えになるというその繰り返しだったので、決まったときは驚きと喜びでいっぱいでした。
本場中国の方に時を超えて認めていただき、喜んでもらえていたことを実感できて大変嬉しいですし、結果として日本の皆様にも新作を披露できることになりました。このご縁に感謝感激です」
日本ではあまり知られていないかもしれないが、『中華一番!』は中国では『中華小当家』という題名でアニメが何度も再放送され、実写ドラマ化もされた大人気作。大黒摩季が歌っていた初代オープニングテーマ「空」は今でも人気が高く、彼女は今年3月に中国最大のポップミュージックアワード〈第26回CHINESE TOP10 MUSIC AWARD〉にて「アジア風雲成就大賞」を受賞している。
再アニメ化の話が立ち上がったことが、続編漫画の執筆にもつながった、と語る小川氏。丁度続きを描いてみたいという気持ちも高まっていたことから、アニメと漫画両方での復活が実現したのだという。
『中華一番!』シリーズといえば、「マジカルパンダ麻婆豆腐」や「ビッグバン焼売」などインパクト大な中華料理の数々もさることながら、料理を食べた時のリアクションが印象的な漫画だ。最新作『極』でもそのスケールの大きさは健在で、第1話からダイナミックな表現が見られる。

本作の代名詞ともいえる料理&リアクションは、毎話どのようにして生み出されているのだろう?
「作中で描く料理については、調べたり食べ歩いたり取材したりしたものを元に、担当編集さんと打ち合わせして決めていきます。簡単なものを実験的に試作してみることもあります。味よりも、ハッタリや屁理屈のインパクト勝負です(笑)。時には、中華料理の枠をあえて無視してみることもあります。
味自体や、どう美味しいのかというのは、どんなに絵と言葉を尽くしても伝わらないと諦めているところがあるので、『どれくらい美味しいか』をリアクションで誇張表現するようにしています。その料理に関わる要素を総動員して考え、”味覚の快感”を”触覚の快感”等に変換しきれるまで、頭の中でイメージを遊ばせる感じです。『バカだなあ』と自分で笑ってしまうところまできたら完成です」
また、料理を描く際には、「麺はグロテスクに見えないようある程度タバで描く」「皿の中の手前と向こうに遠近の強弱を意識し、立体感・実在感を出す」「ツヤや湯気をホワイトで足し、中華料理ならではのシズル感を出す」など、様々なテクニックを駆使しているという。作中のキャラクターたちと同じく、作者もまた「美味しさ」を日々追究しているのだ。

新作が期間限定連載された『今日から俺は!!』や、11月5日から連載再開した藤井みほな氏の『GALS!』など、名作漫画が時を超えて復活するケースがここのところ相次いでいる。当時のファンとしては、どうしても「あの頃のまま」を期待してしまいがちだ。
続編を描くにあたり、小川氏はどのような想いで挑んでいるのだろうか。
「20年間冷凍保存されたものをそのまま解凍したくらいにできれば一番良いのですが、どんなに意識しても、全く変わらないというわけにはなかなかいかないですね。ただ、本質的にやってることは何も変わってないはずなので、表面的に変化した部分も、作品の世界観の進化と捉えて楽しんでいただければありがたいです」
主人公のマオは「料理は人を幸せにするものだ」という信念を胸に、美味しい料理を作り続ける。特級厨師という最高の称号を得ても決しておごらず、偉ぶることなく、食べる人への思いやりを忘れないマオの優しさや、料理人としての誇り高い心は『極』になっても変わっていない。
新しい仲間たちと出会いながら、飽くなき探求心と向上心を持って前進していくマオの姿は、往年のファンはもちろんのこと、初めて読む人でもきっと心に響くものがあるだろう。
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取材・文:大門磨央
石川県出身。雑誌やWEBを中心に漫画、アニメ、映画などのコラムを執筆中