ラグビー日本代表 ベスト8戦士・流大が語るリーダーシップの形 | FRIDAYデジタル

ラグビー日本代表 ベスト8戦士・流大が語るリーダーシップの形

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サモア戦後の日本代表。左から流大、姫野和樹、松田力也、坂手淳史
サモア戦後の日本代表。左から流大、姫野和樹、松田力也、坂手淳史

外食へ行った先で、「お代は結構です」と言われた。さすがに、断った。

別の日にチームメイトと酒場へ出かければ、隣の席の客に「感動をありがとう!」と握手を求められる。大会期間中は食べられなかったデリバリーピザを約1年ぶりに頼むと、配達員にも「感動をありがとうございます!」と謝辞を述べてきた。

気づいたことが、あった。

「次に宅配を頼むことがあれば、寝癖を直さないといけない」

今秋のラグビーワールドカップ日本大会で初の8強入りを果たした日本代表の流大が、10月31日、都内で大会を総括。空前のラグビーブームの只中にあって、地に足をつける。

「(人気拡大は)ありがたいことですし、素晴らしいことではあるんですけど、それで舞い上がることなく足元を見続けて、自分のやるべきことを今後もやり続けなければいけないなと思っています」

流は身長166センチ、体重71キロのスクラムハーフ。初めてジョセフのチームに入ったのは、2017年2月だった。

後に強化委員長となる藤井雄一郎もコーチで入った「トップリーグ選抜」へ加わり、スーパーラグビー(国際リーグ)のサンウルブズと親善試合をおこなう。その年の春にはジョセフ率いる若手主体の日本代表に初めて選ばれ、何と主将に抜擢された。熊本の荒尾高、帝京大、サントリーでも船頭役だったが、代表デビュー前に重責を課されて驚いた。

「何か僕に期待したり、思いがあったりしないと、最初から主将なんてやらせない。この人の期待に応えたい」

代表戦で黒星が続いて指揮官への評価が定まらぬ間も、態度を一貫させる。

「色んな選手、メディアの方も意見があったと思うんですけど、僕は最初からジェイミーについていこうと思っていました」

服従したわけでは、決してなかった。

ジョセフは、サンウルブズの指揮官を兼務した2018年、同クラブの主将として流れに対し「控え選手ともっとコミュニケーションを取って欲しい」と要求した。当時は藤井らに間へ入ってもらうなどし、ストレートな物言いの指揮官との相互理解も深めた。

首脳陣への意見具申には自分の立場を失うリスクもはらむが、流は大学、社会人のチームで学生ラグビー界きっての名将の岩出雅之、チーム強化のためには衝突をいとわない沢木敬介といった名物監督とタフに渡り合ってきた。手を口元で開閉し、「僕そういうところは…うまいので」と聞き手を笑わせる。

「納得をさせられるところはある程度はあります。そこについては下手な選手も多くて、ミーティングでももっと違う言い方したら伝わるのに…というのはありました。明らかに相手の機嫌が悪い時に話に行っても、だめじゃないですか。ちょっと、いい感じの時に……と」

ワールドカップイヤーの6~7月には宮崎合宿があり、それまで怪我していたリーチ マイケル主将が復帰。するとジョセフは、流を含むリーダー陣に「リーチに頼り過ぎで、全然リーダーシップを発揮できていない」と怒ったという。

「…?」

普段から映像分析やポジションごとのミーティングに従事する流は、心にさざ波を立てた。「秀さん、ちょっといいですか」。それまでボスと深く関わってきたからこそ、その場にいた通訳の佐藤秀典さんを介してこう言えた。

「僕らはあなたたちの見ていないところでもリーダーシップを取っています。見えているものだけで評価をしないで欲しいです!」

これは流にとって、「険悪な時」に意見した例外的なケースである。その剣幕に反応してか、ジョセフは「いやいや……」と場を取りなしたようだ。

多くのファンに知られた『ONE TEAM』というチームスローガンは、決して綺麗ごとでないことも含めて美しいのかもしれなかった。今回の取材機会のさなか、コーチとプレーヤー、上司と部下との距離感について流が私見を述べる。

「選手とコーチは、近づき過ぎたらだめだと僕も思っています。ただお互いがお互いの意見を受け入れることは必要で。衝突というか…というものは何回もありましたし、それを徐々に重ねて、最後は皆がジェイミーとスタッフを信頼していました。うまくやろうとは思っていなかったですけど、お互いを理解し合いながらやっていた。周りがどう思うかは知らないですけど、僕はずっとジェイミーを信じていました」

本番では、欧州のアイルランド代表とスコットランド代表を相手にはボールキープを重視。環太平洋諸国のサモア代表にはキック主体で挑んだ。

W杯ではすべての試合で先発出場した
W杯ではすべての試合で先発出場した

ジョセフの右腕であるトニー・ブラウンアタックコーチとも日本代表、サンウルブズで長らく付き合ってきたため、試合ごとに作戦を変えるのには慣れていた。何より開幕前に組まれた南アフリカ代表戦は、「何度かプランから外れたことをした」ことで7-41と落としたとレビューされた。その延長で、首脳陣の示すプランをより尊重するようになった。

「1週間の初めにコーチ陣からチーム内でメンバー発表、ゲームプランの落とし込みがあり、その後グラウンド内外で引っ張っていくのは選手。コーチ陣と選手全体のミーティングはほとんどなくて。リーダー陣に疑問点がある時は直接、聞きに行って、ディスカッションする。リーダー陣としては1週間のディスカッションに一番、力を注ぎました。プレッシャーを受けている時、レフリーの判断が自分たちで思うのと違った時など、試合で起こりうる色んな状況についてもリーダー陣で話し合っていました。不測の事態を想定はしていたので、それは僕らとしては不測の事態ではなかった。うまくいかないのが当たり前だったと思っていたので、全く問題なかったです」

印象的だったのは、決勝トーナメント進出後の記者会見だ。

南アフリカ代表との準々決勝について抱負を語ったのだが、「あのトライは僕のタックルミスから始まったので、責任を感じています。次の相手もゴール前では僕を狙ってくると予想している。誇り高く戦う決意をもって臨みたい」。スコットランド代表を28-21で下した予選プール最終戦で、流は自らのタックルミスで先制トライを許している。記者から問われる前に、自ら苦い思い出を告白したのだ。

今回は改めて、失点直後の円陣での様子を明かす。

「やっちゃたなとは思いましたけど、次の瞬間にはそんなことを引きずっている暇はないと切り替えた。堂々としていました。それに他の誰もそのことについて振り返らず、次のプレーについて話していた」

流が世界の大舞台で表現したのは、計画を首尾よく進めるリーダーシップ、さらには万事を認める潔さだった。

「いくらいい戦術があって、いいアスリートがいても、ラグビーというスポーツではチームがひとつにならなきゃ勝てないと改めて感じました」

いま目指すのは2023年のフランス大会出場だ。リスタートの序章は2020年1月。サントリーの一員として、国内トップリーグに臨む。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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