箱根駅伝で活躍! アフリカ人ランナーの仕掛け人が明かす舞台裏
箱根駅伝に参加する選手に年々アフリカ人ランナーが増えている。もはや各大学にとって欠かせない戦力だ。アフリカ人選手獲得の舞台裏を“駅伝の仕掛人”が明かす
「箱根駅伝予選会でトップ通過をした東京国際大学の1年生エース、ヴィンセント、駿河台大学のジェームス。それと箱根駅伝シード校である拓殖大学の留学生も僕が送り込んだランナーです。高校駅伝では、札幌山の手や倉敷、岡山の興譲館といった強豪校に男女計14人が僕のチームから留学しています」
こう話すのは、「チーマスポーツ・プロモーション・ジャパン」代表の柳田主税(やなだちから)氏(35)だ。彼は、駅伝ビジネスで新進気鋭の人物として注目されている。
カゴメの海外駐在員だった柳田氏は、英語が堪能だ。一方、プライベートでは自己ベスト2時間30分前後の優秀な市民ランナーという顔を持っている。
「日本のマラソン大会には世界トップクラスのランナーも参加します。そこで僕がボランティアで案内役を買って出て、アフリカ出身のトップランナーたちとの交流が始まりました」
そうした一人が、世界記録保持者だったケニア人ランナー、ウィルソン・キプサングだった。その後、柳田氏はケニアまでキプサングを訪ねていって交流を深め、ケニアのランニング界で人脈を広げていく。’15年にカゴメを退社した後、準備期間を経て、現在の会社を立ち上げた。日本にアフリカ系ランナーを斡旋するエージェントは複数いるが、柳田氏が際立っているのは、現地に60人近いジュニア中心の自前のランニングチームを持ち、そこで留学生を選抜していることだ。
「日本の高校、大学、実業団には、それぞれアフリカ系ランナーが在籍していますが、僕が主に手がけているのは留学生ランナーを選抜して推薦することです。
日本の学校から留学生を推薦してほしいという要望が来ると、数十人単位で3000mと5000mのタイムトライアルを行い、成績上位3人を選抜、面接します。その上で、選手の性格、学力、適応性などを精査したコーチ推薦の動画を作って受け入れ側に送るのです」
彼ら留学生は、基本的に寮費・学費全額免除の特待生のため、学校側は一人につき数百万円前後の経費をかけている。そうした学生が成果を出せずに帰国してしまっては、本人にも学校側にも大打撃だ。
「ケニアではちゃんと手に職をつけている人は少ない。ただ、足の速さに自信のある15~18歳の若者たちが、ランニングクラブに所属して走っている。僕は、現地のビジネスパートナーと共にこうした3つのクラブを統合し、自前のランニングチームとキャンプを作りました。自分のチームに所属して性格や能力を知り尽くしている選手の中から推薦することで、ミスマッチを防ぐことができます。選抜時には、将来、日本関連の仕事につきたいかといった選手個人の意志も確認しています」
留学後の人生も考える
彼らにとって、日本に留学してカタコトであれ日本語ができるようになれば、たとえ一流ランナーになれなくとも母国に進出している日系企業で職を得ることができる。そのため、我が子に日本留学してもらいたいという親は多いのだという。
「最近は、逆に日本の大学や実業団がケニアで合宿を張りたいといった要望も増えてきました。そうした時には、我が社のトレーニング施設を有償で提供するか、現地の友人の施設を紹介し、ケニア人ランナーと一緒に練習する環境をコーディネートします。ケニアは1日2000円程度で生活できますが、キャンプの運営には月40万円ほどかかる。エージェントの仲介手数料は、1件につき数十万円前後なので、ビジネスとしてはまだ僕一人が食っていける程度です(笑)。
いずれ五輪や世界のメジャー大会で優勝する選手を輩出することを目標にしていますが、それだけでなく、日本とアフリカの絆がより深くなる手助けをしたいと思っています」(柳田氏)
柳田氏は名ランナーのエージェントだけでなくプロデューサーでもあるのだ。






『FRIDAY』2019年11月15日号より
撮影:濱崎慎治撮影:加地邦彦写真:AFLO