こんなに違う日米のFA事情! 4人対131人、この差は何だ? | FRIDAYデジタル

こんなに違う日米のFA事情! 4人対131人、この差は何だ?

日本では宣言が必要、一方、MLBでは自動的に取得。FA(フリーエージェント)をめぐる日米の違いを詳しく解説する。

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FA権の行使を宣言する鈴木大地(ロッテ)。複数の球団が興味を示しているが、来季はどのチームでプレーするのか?
FA権の行使を宣言する鈴木大地(ロッテ)。複数の球団が興味を示しているが、来季はどのチームでプレーするのか?

プロ野球のFA宣言期間が11月2日で終わった。
今年は、FA有資格者として90人が公示されたが、FA権行使を宣言したのは、以下の6人だった。

福田秀平(ソフトバンク)
美馬学(楽天)
則本昂大(楽天)
秋山翔吾(西武)
鈴木大地(ロッテ)
十亀剣(西武)

秋山は海外FA(フリーエージェント)権を行使する。則本と十亀は、FA権を行使しての残留。実質的にFA権を行使するのは4人だけだ。
昨年もFA権を行使して他球団に移籍したのは、炭谷銀仁朗(西武→巨人)、浅村栄斗(西武→楽天)、丸佳浩(広島→巨人)、西勇輝(オリックス→阪神)の4人だけだった。
日本ではFA権を行使して移籍するのは、パ・リーグの選手を中心に毎年数人だけだ。

これに対し、11月1日にMLB選手会が発表したメジャー30球団のFA選手は、131人だった。ダイヤモンドバックスの平野佳寿(前オリックス)も含まれている。以後も契約を破棄したりオプションを選択しなかったりする選手が出てくるので、FAになる選手はさらに増える。例年200人以上がFAになる。

なぜNPBとMLBでは、これほどまでにFAになる選手数に差があるのか?

もともとFAは、1975年にデーブ・マクナリーとアンディ・メッサースミスという2人の選手が、所属チームと契約更新せずにそのシーズンをプレーし、「球団に拘束されず自由に契約できる」と主張する訴えを調停委員会に起こしたのが発端だ。この訴えが基本的に認められて、翌年にFA制度が生まれた。アメリカでのFA権は、選手が「移籍の自由」を訴えて行動して勝ち得た権利なのだ。
MLBの選手は6年間、一定期間MLBのロースター(名簿)に名前が載るとFA権を取得する。
FA権を取得した選手は、自動的にFA(フリーエージェント)状態となり、MLB30球団と自由に入団交渉をすることができる。
反対に言えば、FA年限に達すれば所属球団と契約し直さない限り、元の球団に居続けることはできない。

日本のFAは、1993年オフに導入された。日本の場合も入団した選手が一定年限、定められた期間以上一軍で選手登録されることで取得できる。現在は2007年以降に入団した選手の場合、高卒は8年、大卒、社会人は7年だ。
しかし、日本の場合、FA権を取得できる年限に達しても、「FA宣言」をしなければ、保有権は球団に残り、選手は他球団と交渉することはできない。

NPBでFA権を行使する選手が非常に少ないのは「FA宣言」しなければ権利が行使できないからだ。
NPBでは、球団に対する選手の立場は弱い。球団によっては「FA宣言した選手とは契約しない」という方針を打ち出す場合もあり、選手はFA宣言をすれば所属チームを失い路頭に迷う恐れをはらんでいる。
このために、FA宣言しても確実に他球団からオファーがありそうな選手だけが、FA権を行使するのだ。パ・リーグの選手が多いのは、例年、巨人、阪神などセの金満球団がパの選手をFA移籍させてきたからだ。
FAについても事前交渉(タンパリング)は禁止されているが、密約があったのではないかという噂が絶えない。

もともとFA権は、ドラフト制度との対比で語られることが多い。
ドラフト制度は、プロ入りを希望する選手を選手の希望にかかわらず、球団に割り振る制度だ。選手に球団選択の自由がないことから、アメリカでは反トラスト法(日本の独禁法に当たる)違反ではないかと訴訟が起こされたが、「反トラスト法免除法理」という結論が出ている。
FA権は、ドラフト制度によって球団選択の自由を奪われた選手が、一定年限チームに貢献することで獲得できる「球団移籍の自由」だと解釈されている。ドラフト制度の欠陥を補完するシステムという見方もあるのだ。

日本でもドラフト制度を巡っては様々な事件が起こった。一部球団や選手は「職業選択の自由」を訴えてドラフト制度に意義を申し立てたりもした。
しかしFA権が導入されるに際しては「自動FA」ではなく、「FA宣言」が必要な限定的なルールになった。「球団選択の自由」は、完全には認められなかったのだ。

こうなった背景はよくわからない。しかし、FA権導入後のMLBで選手の年俸が高騰し球団の経営を圧迫したことを見たNPBの経営サイドが「自動FA」導入に待ったをかけたのは間違いないだろう。
また、日本のプロ野球選手は、「個人事業主」であるにもかかわらず、あたかも会社に忠誠心を誓うサラリーマンのように、球団に帰属意識を抱くことが多い。FA権を行使しない選手が「球団に骨を埋めます」というのは、日本ならではの風景だ。「自動FA」に関しては選手の側も必ずしも全員賛成ではないのだ。

MLBはFA権の導入によって混乱した。選手会側はFA権をさらに有利にするために、数次にわたってストライキも行った。大金持ちのスター選手のストライキには、アメリカ国内では批判的な論調も巻き起こった。
経営者は選手の権利を抑制しようとしたが、同時に高騰する年俸に見合う売上を得るために、ビジネスモデルを変革させた。放映権、マーチャンダイジング、フランチャイズなどのビジネスの柱を立て、これをビッグビジネスに成長させることで、MLB球団の企業規模も飛躍的に大きくなった。これを推進したのがピーター・ユベロス、バド・セリグなどのビジネス感覚に優れた敏腕コミッショナーたちだ。
FA権を認めたことが契機となって、MLB全体が大繁栄した。北米ではNFLやNBAなどのプロスポーツの人気が目覚ましいが、そんななかで「オールドボールゲーム」と呼ばれるMLBが生き残ることができたのは、経営者が選手のFA権を受け入れてビジネス変革を推進したからだ。

しかしNPBはFA権の行使を限定的なままにとどめた。これによってビジネス変革のチャンスを失ったと言えるかもしれない。

現在のシステムは、1973年までNPBにあった「10年選手制度」とほとんど変わらない。先ごろ物故した金田正一が「10年選手制度」で国鉄から移籍したのが有名だ。
「10年選手制度」は、球団が承認した一握りの選手だけが行使できる権利だが、実質的に今の日本のFA制度と同じだ。選手全体の「移籍の自由」とはほとんど関係がない。

中には「自動FA」の方がいいという現役選手もいるが、多くが実力、実績が十分で、FA移籍が可能な実力者だ。控え、脇役選手の多くは「FAなんてとんでもない」と思っている。

日本のFA制度は、雇用の流動性が少なく、なかなか変革ができない日本社会の縮図のようだ。
まだ人気があるうちに、プロ野球界はFA制度、ドラフト制度などを見直すべきだと思う。

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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