台風で崩壊! 「砂の彫刻家」が作るギリシャ神話の世界
損傷したら、一から作り直し。100~200トンの砂を使う「壊れやすいアート」
「僕の中では、本格的な芸術と砂遊びの中間にあるようなイメージです」
そう語るのは、砂の彫刻家と言われる「サンドアーティスト」保坂俊彦さん(45)だ。保坂さんは、日本のみならず世界各地の砂浜で巨大な砂像を作り続けて、今年で23年目。’17年には台湾で行われた世界大会で優勝している。
そんな保坂さんが、10月上旬、千葉県の館山市にある『館山ファミリーパーク』を訪れて、険しい表情を浮かべていた。この園内には6つの作品が屋外展示されていたが、いずれも台風によって破損してしまっていたのだ。
「1年間ほどの常設展示の途中だったので、これから修復作業に取り組みます。僕の作品は、通常は砂と水だけで作り上げて、最後にコーティングのノリを使うだけです。砂はとても脆(もろ)い素材なうえに、粘土などと違い、作ることのできる形に制限があります。しかも後から像に上ることができないので、てっぺんから順に作り始めていかないといけない。ですから、大きく損傷してしまうと、修復するには一度壊してから、作り直すしか方法がありません」
作品には100~200トンの砂が使用されており、壊すためには重機が必要となる。無惨に崩されていく砂像を見つめながら、保坂さんはこう語る。
「実は、壊す瞬間を見たのは初めてなんです。というのは、完成すれば、僕は次の制作現場に移ってしまうから。展示期間は1週間~1ヵ月という場合が多く、それが終われば、作品は地元の方が撤去しています。僕は、砂像はもともとそういうものだと思って作っていますし、崩した砂を保管すれば、また次の年に新しい作品を作れます。マイナスの思いはまったくありません。ずっと残っていく彫刻ではなく、いずれ壊れてしまうというのが、魅力でもあるんです。そもそも砂遊びも壊したり作ったりして楽しむものですから」
保坂さんは1年間で、10~15体ほどの作品を制作している。この日は朝から夕暮れまで黙々と作業にあたっていた。
「少しでも早く修復できればという気持ちです。被災された方たちに見てもらい、少しでも元気づけられたら。そんな力がサンドアートにあると感じています」
壊れやすい。だからこそ力強い。砂像アートからはそんなメッセージが伝わってくるようだ。
![館山ファミリーパークに展示されていた砂像の一つ、「天使の報せ」(高さ4m・横5mサイズ)は、保坂さんが見守るなか、修復のために、重機によって一度大きく崩された](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/11/27f8aad880cf31160ceffd86b90d9059.jpg)
![千葉県旭市で開催された『あさひ砂の彫刻美術展2018』で展示された砂像。保坂さんは、ギリシャ神話をモチーフにした荘厳な作品を数多く制作している](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/11/22ecab6ba861d2265f473e3a2fbb69a2.jpg)
『FRIDAY』2019年11月15日号より
- 撮影:中村將一(2枚目写真)
- 写真:保坂氏提供(1,3枚目)