今年は、名医が驚く「本当に効くクスリ」が続々登場している

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アトピー性皮膚炎、緑内障、インフルエンザ、がんの新薬を紹介

いま、医療現場では新しく承認されたクスリの話題で持ちきりになっている。通常、新しいクスリが承認されるのは1年で100例ほど。そのなかで、医療現場での治療方針を変えてしまうような「特効薬」が承認されるのは、極めてまれなことだ。しかし、今年はそんな「効くクスリ」が続々と登場して医師たちを驚かせている。

その一例が、アトピー性皮膚炎の治療薬・「デュピクセント」。アトピーの新薬は10年ぶりの登場だという。内服薬ではなく、皮下注射して投与する。

「どんなステロイド薬を使っても効き目がなく治療を諦めてしまっていた重症な人でも、デュピクセントを使うと『久しぶりにぐっすり眠れた』と喜ばれることが多いんですよ。初めて注射した数時間後からその日の夜までには痒(かゆ)みが止まったと。こういう人は絶えず強い痒みがあり、眠っていても皮膚を掻(か)いてしまっているので、慢性的に眠りが浅いんです。伏し目がちで言葉を発するのも気(け)だるそうだった患者さんが、次の外来では背筋を伸ばして椅子に座り、喜々とした明るい表情で、言葉遣いまで丁寧になって別人のように変わっていることもありました。個人差はありますが、痒みに関しては予想以上に即効性が高く、大きな副作用がないのがこの注射薬の特徴ですね」

芳仁皮膚科医院(東京)院長の張賢二医師(53)は臨床現場での実感をこう語る。

アトピー性皮膚炎は、もともとアレルギー体質の人や、皮膚のバリア機能が弱い人に多いと言われる免疫疾患で、子どもから大人まで強烈な痒みと皮膚の炎症に繰り返し悩まされている患者は多い。厚生労働省の調べ(’17年患者調査)によると、国内の総患者数は50万人を突破。その数は30年前の2倍にのぼる。

「アトピー性皮膚炎の人は、痒みや皮膚の炎症によって皮膚の中にアレルギー反応を起こす特殊な免疫細胞が増えてしまっているんです。デュピクセントは、この免疫細胞が作り出す2種類のタンパク質(炎症や痒みを起こし、皮膚のバリア機能を低下させる物質)を直接ブロックすることで皮膚内部の炎症反応を抑えるという、世界で初めての作用メカニズムを持った免疫抑制剤です」(張医師)

治療対象は、既存のステロイド外用薬や保湿剤を使っても皮膚の炎症や痒みをコントロールできない「中等症から重症のケース」。治療は外来での皮下注射で、2週間に1回(初回だけ2本投与)通院が必要となる。薬代は3割負担で1本約2万5000円とかなり高価だ。

こうした患者負担をできるだけ減らすために、今年5月には患者自身が自宅で打つ「自己注射薬」としても使えるようになった。現在は「自分で打つのは怖い」と外来での注射を希望する患者が多いというが、「将来的には糖尿病のインスリン注射のように自己注射へシフトしていく可能性が高い」(張医師)という。

この「デュピクセント」は、アレルギーや炎症性疾患への汎用性が高く、今年3月に「気管支喘息」でも保険適用が認められている。今後、さらに治療適応が広がる可能性があり、現在は重度の「慢性副鼻腔炎」や「ピーナツアレルギー」、「花粉症」などにも臨床試験が実施されているところだ。「花粉症」は国民の3人に1人が苦しむ国民病。原因はアレルギー反応なので、「デュピクセント」が特効薬になることが期待されている。

画期的な目薬が登場した

目の病気では、失明原因の第1位である「緑内障」の目薬の開発が盛んに行われている。緑内障とは、何かしらの理由で眼圧に対して視神経が障害を受け、視野が狭くなっていく病気のこと。今年9月には「アイベータ」という新薬が承認され、年末に発売される予定だ。クイーンズアイクリニック(横浜)院長の荒井宏幸医師(55)は、治療を取りまく現状を説明する。

「緑内障は放置してしまうと怖い病気ですが、近年はいい目薬が続々と出ているので、できるだけ早期に見つけてきちんと治療をすれば完全に見えなくなることは防げる時代になっています。ただ、目薬での治療は眼圧を下げることが目的なので、1つの目薬でうまく眼圧が下がらなければもう1剤、さらにもう1剤と処方薬が増えていく傾向があるんです。3つも4つも目薬を使っている患者さんも珍しくありません」

すべて同じタイミングで点眼する目薬なら忘れずに続けることができそうだが、実際はそれぞれ作用のメカニズムが異なるため、点眼のタイミングや点(さ)す回数にも違いがあるという。

「患者さんは目薬を持ち歩くのも、決められた通りに点眼するのも割と大変なんですよ。とくに高齢者に多い病気なので、きちんと点眼していて眼圧が下がらないのか、決められた通りに点眼できていないから眼圧がうまく下がらないのか、分かりづらいところもあるんです。目薬はできるだけ数も点眼回数も少ない方がいいわけです。『アイベータ』はこうした問題を解消するために開発された合剤で、ブリモニジンとチモロールという作用メカニズムが異なる2剤が配合されています」(荒井医師)

ただし、これまで使っていた目薬で効果がない場合に処方されるため、最初からこの目薬を処方されることはないという。

冬本番を前に、毎年注目を集めるインフルエンザ治療薬。今シーズンは、例年より感染拡大の動きが2ヵ月早いと言われ、9月から東京や九州などの小中学校で学級閉鎖が相次いでいる。昨年発売された「効き目が早く、1回飲むだけ」という画期的な経口新薬「ゾフルーザ」に続いて、今年は「1回吸入するだけ」という既存の粉末吸入薬「イナビル」に、新たなミストタイプが登場した。濱中めいようクリニック(東京)院長の濱中久尚医師(46)に特徴を聞いた。

「今年6月に承認された『イナビル吸入懸濁用』は、ミスト状に噴霧される薬を呼吸するだけで吸入が可能になったインフルエンザ治療薬です。もともとの『イナビル』は粉末タイプの吸入薬なので、小児や呼吸機能が低下している高齢者は1回で粉末薬をうまく吸い切れず十分な薬効を得られないことが問題になっていました。1回吸入の治療薬は手軽さが魅力ですが、治療が1回のチャンスしかない(吸入を失敗したらお終(しま)い)という見方もできます。その失敗を減らすべく、誰でも吸入しやすくしたのが、今回のミストタイプ。一番恩恵を受けるのは小児かもしれないですね。効能は変わらないので、しっかり吸入できる人は従来の粉末タイプで問題ありません」

お酒の量を減らすことを目的とした新薬も注目されている。今年3月、日本初の減酒薬「セリンクロ」が発売された。久里浜医療センターアルコール科の湯本洋介医師は言う。

「当病院では’17年春にお酒との付き合い方を見直す減酒外来を立ち上げました。そこで軽度のアルコール依存症と診断が付き、お酒を減らすことから治療を始める人をメインターゲットに処方されています。お酒を飲むことで脳から得られる快楽物質の働きをコントロールする内服薬で、お酒によって出ている害や飲酒量を減らすきっかけになる薬剤と考えられています」

服用は飲酒の1~2時間前が目安とされている。この治療を続けている患者は、「いつもはお酒を飲み出すと際限なくなってしまうのが、『ここでやめておこう』という気持ちになれた」「飲む量が実際に減った」など、効果を実感する人が多いという。

代表的な副作用は、吐き気やめまい、ふらつきなど。「症状が全く出ない人もいますし、個人差がある。初回に服用する際は、その後や翌日の予定が何もないタイミングで試してみたほうがいいですね。薬剤の耐性はありません」(湯本医師)

また一度副作用が出ても、服用を続けているとその症状は和らぐ可能性があるという。

脳に転移したがんにも効く

日進月歩といわれるがん治療薬も、がんのタイプに応じて開発されたさまざまな新薬が登場している。近年注目が集まるのが、がん細胞だけを狙い撃つ「分子標的治療薬」と呼ばれる新薬。今、肺がんの約40%を占める「EGFR遺伝子変異陽性肺がん」に対して最も治療効果が高いといわれる分子標的薬が「タグリッソ」という錠剤の内服薬だ。広島大学腫瘍外科教授の岡田守人医師(56)は次のように語る。

「タグリッソは、ある肺がんのタイプには他剤と比べてよく効くうえに副作用が少ないんですよ。肺の原発巣だけでなく、脳に転移した腫瘍にも効き目がある。脳には血液脳関門という異物を排除するストッパーのような場所があり、そこで薬剤成分もはじかれることが多い。そのため、がんの脳転移にはあまり効果が出ないことが多いのですが、タグリッソはそこもすり抜けて脳の腫瘍まで届き、がん細胞を狙い撃つんです」

3年前に発売された当初は、一度抗がん剤治療をしていないと使えない薬剤だったが、昨年8月から治療の適応が広がり、がん治療の最初から使えるようになったことも大きい。今年3月に「ビジンプロ」という別の新薬が発売されたが、肺がんの診療ガイドラインでは、「タグリッソ」のほうが1ランク上に位置づけられていることから、「しばらくこのタグリッソ優位な状況は変わりそうにない」と岡田医師は話す。

がん治療においては、ノーベル賞を受賞した京都大学・本庶佑特別教授の研究成果による「免疫療法」の開発も進み、さまざまな新薬が承認されている。

がん研がんプレシジョン医療研究センター所長・中村祐輔医師のゲノム解析を活かした免疫療法(ネオアンチゲン療法)も臨床研究が進み、末期がん患者のがんが消滅した実例が続々と報告されている。

科学と医療の進歩はめざましい。長年悩んできた貴方の病気や症状も、もうすぐクスリで治るかもしれないのだ。

新薬の開発には、10年以上の期間と200億から300億円の費用が必要だと言われる

目の断面図を使って眼圧を下げるメカニズムを説明するクイーンズアイクリニックの荒井宏幸院長
「アトピーは注射薬を打つだけでは良くならない。スキンケアや食事も大事」と語る芳仁皮膚科医院の張賢二院長

取材・構成:青木直美(医療ジャーナリスト)

『FRIDAY』2019年11月15日号より

  • 撮影濱﨑慎治(荒井医師、張医師)

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