キャリアも収入も謎な「プロキャディ」という仕事の真実 | FRIDAYデジタル

キャリアも収入も謎な「プロキャディ」という仕事の真実

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
全英女子オープンで優勝した渋野日向子選手/写真 アフロ
全英女子オープンで優勝した渋野日向子選手/写真 アフロ

女子プロゴルファー・渋野日向子が海外メジャーの「全英女子オープン」で優勝し、女子ゴルフがクローズアップされることが多くなった。

10月には日本で初めてPGA(米)ツアー「ZOZOチャンピオンシップ」が開催され、タイガー・ウッズの優勝が話題になったばかり。ゴルフは個人競技のため、プレーヤーが脚光を浴びるのは当然のことだが、選手をそばでサポートするキャディにも時に注目が集まる。

ただ、選手と違ってキャディの仕事や懐事情はほとんど知られることはない。そこで日本でプロキャディ歴約10年にもなるベテラン男子のキャディA氏に、生活事情について詳しく聞いた。そこから見えてきたのは、プロキャディの世界がとても厳しい場所だということだった。

実は特別な資格は必要ない

実はプロキャディには特別な資格が必要なわけではない。極端な話、勝手に名乗ることも可能なのだ。では“プロキャディ”とはどんな存在なのか。キャディA氏が語る。

「“プロキャディ”という肩書きをいつから名乗っていいのか明確なルールはありませんが、私はプロゴルファーからお金をもらって雇ってもらっている時点で“プロ”だと認識しています。お金をもらっている以上は、プロとしてそれなりの仕事をしないといけない。もし下手を打つと、周囲からも色々と言われたりもするわけですから」

プロキャディの仕事というと、試合中に選手のバッグを担ぎ、アドバイスをおくりながら、選手をサポートする姿がもっとも印象的だが、具体的にどんなことをしているのだろうか。

「練習日にコースの状態をくまなく歩いて調べます。芝の状態、距離感、グリーンの芝目の状態、コースのアンジュレーション(起伏)などをメモしてまわります。選手にもよりますが、試合中は基本的には『選手の迷いを消してあげる』くらいの役割だと思っています。選手が気持ちよくプレーしてくれることに全力を注ぐのが仕事です。リラックスできるように話をしたり、水をあげるタイミングだったり。基本はゴルフ場で待ち合わせして、ゴルフ場で解散するようにしています」

では、どんなキャリアの持ち主がキャディになるのだろうか。

「大きく3つに分類するとゴルフ場のハウスキャディ、大学ゴルフ部時代にキャディのバイトをしていた人、ゴルフ場でプロを目指してきた研修生が、キャディになっていると見ていいでしょう。そこのゴルフ場の所属プロから声がかかって、プロキャディになるきっかけをつかむことが多いです。なによりゴルフをやっていて、知識があるのが大前提ですが」

しかし、キャディもゴルフが上手いにこしたことはないはずだ。

「正直、ゴルフが下手でも知識があれば大丈夫な部分はあります。実際にプロキャディみんながゴルフが上手いということでもないんです」

重要なのは、ゴルフの知識とプロゴルファーからの信頼ということだ。

週給10万円+選手の成績に応じた報酬が収入に

全英女子オープンでは、コーチの青木翔氏がキャディを務めた/写真 アフロ
全英女子オープンでは、コーチの青木翔氏がキャディを務めた/写真 アフロ

ここで気になる懐事情について聞いてみた。するとお金の面ではかなり気苦労が多いことも判明した。

「正直、プロキャディの仕事は安定していません。絶対に安定はしないので、どちらかというとオススメできない職業です」

具体的な給与の中身はこうだ。

「ベースとして、選手のバッグを担いだ週は10万円をもらえます。試合は3~4日間ですが、その前に練習日やプロアマ戦があるので、1週間で10万円とみていいでしょう」

一ヵ月が4週間として、約40万円が基本給ということになる。ただ、これは北海道から沖縄まで全国各地で行われる試合会場への移動、宿泊費、食事代が込みの金額。基本給だけだと赤字になることも少なくない。

「そこに選手の成績によって、追加で報酬が支払われます。たとえば、優勝したら獲得賞金の10%、トップ10入りで7%、予選通過なら5%という形で選手から支給されます。予選通過できなければ赤字が続くわけですが」

たとえば、女子ツアーで最も賞金額が高い試合の一つ「日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯」の優勝賞金は3600万円。その10%をキャディが受け取るのであれば360万円で、これはかなり大きな収入だ。

それこそ、渋野日向子選手は今シーズン、日本女子ツアーだけに限ると約1億1700万円(賞金ランク2位)を稼いでいる。仮に渋野選手だけを担いだ専属キャディがいるとしたら、1170万円近くがキャディの懐に入るということになる。さらに帯同した分の週給10万円がプラスされる。

また、渋野選手は今年、海外メジャーの全英女子オープンの優勝で約7200万円を手に入れているため、その10%をキャディが受け取る契約ならば720万円も手元に入ることになる。つまり1億円以上を稼ぎ出すトッププロのバッグを担ぐ専属キャディであれば、2000万円近くの年収があることになる。

ただ、プロキャディは「個人事業主」であるため、国民健康保険や国民年金はもちろん自分で支払う。各種税金も稼いだ翌年は金額が大きくなるので、「かなりの変動があって辛い部分もある」という。社会保障はないに等しい。

とはいえ生活は苦しい…

キャディA氏も今では、ある程度の稼ぎはあるが、プロキャディになった当初は「節約ばかりで大変だった(笑)」そうだ。節約エピソードを教えてくれた。

「年間36試合中、30試合くらいは車中泊だったことがあります。1週間の宿代だけでもバカになりませんからね。車中泊だと疲れがなかなかとれなくて、とてもしんどいんです。今ではホテル生活中心になりましたが、残念なのは消費税が10%になったのに収入はなかなか上がらないこと(笑)。ホテルも年々、金額があがっていて、昔は一泊4500円だったところが、今では6700円とか、2000円以上も上がっていますから」

北海道に2~3週間滞在したときのエピソードも涙ぐましいものだ。

「自分の車をフェリーに乗せて、北海道についてからずっと車中泊したこともあります。それで宿泊代とレンタカー代が浮きますから」

しかし、よく考えたら風呂はどうするのか。

「車中泊するキャディ仲間がいるので、彼らと近くのスーパー銭湯でゆっくりして、そこで一緒に食事をして疲れをとるんですよ」

キャディA氏も今ではホテル生活に変わったが「選手の練習が終わり、早いときには午後3時くらいに帰ることもあったのですが、暇だからパチンコに行ってしまって余計なお金を使ってしまうこともある(笑)」と、ムダなことをしていることについてはかなり反省していた。

つまり稼げる年とそうでない年があり、キャディという職業が簡単に務まる仕事でないのはよくわかった。

「だからこそ、やっぱり好きじゃないとプロキャディの仕事は続きません。周囲のキャディも本当にこの仕事が好きなんだと思いますよ」

プロキャディがやめられない理由についてはこう語っていた。

「選手に『ありがとう』と一言もらえるだけで、やってよかったなってやりがいを感じます。それにたくさんのギャラリーが見ているなかで、トッププロと一緒にコースのど真ん中を歩ける。そこは選手とキャディだけの“聖域”です。優勝争いしているなかで最後の18番ホールで拍手を受けるのはものすごく快感です。一度味わうとやめられませんよ」

キャディも実力の世界。選手との相性や信頼関係、的確なアドバイス、やりやすさなども、自身の評価に加味されてくる。それは日々の経験で少しずつ磨かれていくものなのだろう。

トッププロと足並みをそろえて戦うキャディのたくましさの裏には、こうした涙ぐましい努力が隠されているのだ。

  • 取材・文金明昱

    キム・ミョンウ/1977年、大阪府出身の在日コリアン。新聞社、編集プロダクション、ゴルフ専門誌記者などを経てフリーに転身。現在はスポーツライターとして、サッカーのJリーグや代表戦、女子ゴルフを中心に取材し、週刊誌やスポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。韓国・北朝鮮スポーツにも精通。過去6回、北朝鮮を訪問して現地取材。近著に『イ・ボミ 愛される力~日本人にいちばん愛される女性ゴルファーの行動哲学(メソッド)~』(光文社)

Photo Gallery2

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事