日本メディアはひいきの引き倒し! 台湾で見たプレミア12の裏側

オープニングラウンドを突破し、日本ラウンドへの進出を決めた侍ジャパン。だが、選手はプレッシャーでガチガチだ。その要因は?

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11月6日、台中インターコンチネンタル球場で行われた台湾対ベネズエラ戦

今、台湾ではプレミア12で国中が沸いている。地元台湾チームが大活躍しているからだ。

台湾一の発行部数を誇る全国紙「自由時報」は、台湾開催の一次リーググループBの5日の初戦で台湾がプエルトリコを6-1で破ると、翌日の新聞で一面の半分を使って台湾の勝利を伝えた。

球場では「東京へ行くぞ」というプラカードを掲げたファンがたくさん詰めかけている。このプラカードには2つの意味がある。
一つ目は、プレミア12のオープニングラウンド(一次リーグ)を突破してスーパーラウンド(二次リーグ)の行われる東京へ行く、という意味。
もう一つは、この大会で好成績を残して「東京オリンピックの出場権を得る」という意味だ。

オリンピックで最後に野球競技が行われたのは、2008年の北京オリンピックだ。台湾はアジア予選で敗退したものの、世界最終予選を勝ち抜いて北京オリンピックに出場した。この世界最終予選も3月に台湾で行われたが、なんとか出場権を獲得した。このときも台湾全土が沸いた。

「北京オリンピックのときの世界最終予選は8チーム中3チームが出場できた。でも、今回の最終予選は6チーム中1チームしか行けない。すごく難しい。プレミア12では、出場権が決まっている日本を除くアジアチームの中で、最上位になれば、オリンピック出場が決まる。最低でも韓国よりも上に行く必要があるが、こちらのほうが可能性が高いと思う」

台湾プロ野球(CPBL)の関係者はこう話す。
その点では、韓国も同様だ。東京オリンピックの出場権を得るために、自国開催の一次リーググループCを勝ち抜いて、東京のラウンドで台湾、日本を破って1位になろうと張り切っている。韓国の場合、オリンピックで活躍した選手は兵役を免除される可能性もあるので、モチベーションはなおさら高い。

件のCPBL関係者は私にこう聞いてきた。

「日本は東京オリンピックに出場権が決まっている。なのに随分張り切っているようだが、何がモチベーションになっているのか?

確かにプレミア12の出場国の中で、日本の立場は「気楽だ」と言っても良いかもしれない。

WBSC(世界野球ソフトボール連盟)のランキングで日本はすでに世界1位だし、オリンピック出場は決まっている。普通で言えば「怪我しないようにがんばれ」で良いように思うが、選手には、非常に緊張感がある。ありすぎるかもしれない。

一次リーグ初戦のベネズエラ戦では、選手はがちがちになって安打がなかなか出ず、もう少しで負けそうになった。
筆者は居合わせた野球ライターと
「一次リーグで敗退して、東京に帰れなかったらえらいことだな」
と話した。
一戦目は8回に大逆転。二戦目のプエルトリコ戦にもなんとか勝って、日本で行われるスーパーラウンドに進出を決めたが、硬さが見られた。

日本の場合「侍ジャパン」のユニフォームを着ることは「野球選手の最高の名誉」だとされる。
選手たちは「日の丸」を背負って戦うことの重さを感じながら、プレーしている。
本当は「負けても構わない」大会のはずだが、選手からその声が聞こえることはない。

選手にさらにプレッシャーをかけているのは、凄まじい数の報道陣だ。

4日に行われた練習の段階から、日本の報道陣が多数詰めかけた。台湾のメディアは「まるでオリンピックの決勝のようだ」と報じた。
台湾ー日本戦はチケットは売り切れだが、それ以外の日本の試合は一杯にはならない。数千人規模なのだが、日本から来た報道陣のカメラの放列は凄まじい。
こうしたメディアの過熱ぶりが、選手の背中を押していると言えるかもしれない。

今年9月に韓国、釜山郊外の機張(キジャン)で行われたU−18ワールドカップでは、甲子園で活躍した星稜の奥川恭伸や、高校ナンバーワンの評判が高い大船渡の佐々木朗希が侍ジャパンのユニフォームに袖を通したが、このときも日本から凄まじい数の報道陣が押し寄せた。
他の国にとってはU−18ワールドカップは「他国の野球選手と交流する良い機会」と捉えられていた。選手はリラックスしていたが、侍ジャパンの高校球児だけは「世界一」のプレッシャーで固くなっていた。
本来なら夏の甲子園が終わったあとだけに、選手はオーバーホールすべき時期だったが、侍ジャパンの高校球児はマスコミが煽る「世界一」の期待の前に、押しつぶされそうになっていた。

今回のプレミア12は、主催がMLBではなくWBSCなので、MLBの正選手(40人枠入りしている選手)の出場は、MLB側が許可していない。
アメリカだけでなく、MLBに選手を送り込んでいるドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコ、カナダなどはマイナーリーグの選手を中心にチームを組んでいる。なかにはMLBを退団して再起を目指す「昔の名前」のベテランもいる。
個々の選手は国際舞台で名前を挙げたいという野心がある。とりわけ日本や台湾、韓国のプロ野球は「再仕官」の口としては抜群の待遇だから、選手はアピールする。
しかし、チームとしてはモチベーションはそれほど高くない。そもそも東京オリンピックにMLBが選手を派遣する可能性は低いと見られているので、そうした国が出場権を得ても、トップ選手を連れてくることが難しい。
中南米のチームは、試合で必要以上に細々と投手交代をするが、これは一人でも多くの投手をアピールさせるためではないか、という声も聞こえてくる。

沖縄での侍ジャパンの練習試合では、西武の秋山翔吾が足に死球を受け骨折した。秋山は海外FA権でMLB挑戦を表明している。影響が出なければよいがと思う。
侍ジャパンの興行は、NPBの重要な収入源だ。侍ジャパンの事業化と引き換えに、NPBに収める加盟金を減免されたNPB各球団には、選手を貸し出して支援する義務があるが、正直なところ選手が怪我をしないか、冷や冷やしながら見守っているというところか。

どんな試合でも真剣に、ひたむきに取り組むのは、真面目な日本人選手の美質といえようが「世界一奪還」と煽り立てるメディアのはしゃぎぶりには疑問を感じる。
野球の国際大会は、勝つことだけでなく、さまざまな野球のスタイルに触れて、選手や指揮官が見聞を広げることも大事だ。そこからさまざまなチャンスも芽生えよう。
もう少し、肩の力を抜いて試合を楽しみたいものだと思う。

球場の外にも「Road to Tokyo」の看板が掲げられている

 

 

  • 文、撮影広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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