ラグビーW杯3位でも世界最強 ニュージーランドに欠けていたもの
絶対的な力の差があるからこそすくわれた足元。それでも勢力図は変わらないようだ
4年前、エリス杯を掲げたオールブラックスには、このチームが負ける日が来るのだろうかと真剣に思わせる凄みがあった。しかし、準決勝でイングランドに敗北を喫したオールブラックスからは、かつての輝きは失われていた。
「『オールブラックスに勝つには、いつもと何かが違うと思わせ、慌てさせること』と言ったのは、イングランドのエディー・ジョーンズHCです。彼は’03年のW杯でオーストラリア代表を率いてオールブラックスを倒しました。これはその時の言葉なんです。今回注目を集めたハカに対するV字隊列がまさにそれです」(ラグビージャーナリスト・村上晃一氏)
まんまと機先を制したイングランドは、開始2分で怒濤のようにトライを奪う。ニュージーランドはアンストラクチャーやオフロードといった得意とするプレーで反撃を試みるも、イングランドの出足の早いディフェンスにことごとく封じられた。終わってみれば試合の主導権をまったく奪えない完敗だった。
選手起用にも悔いが残った。バックスの先発メンバーを見ると、ボーデン・バレット(28)以外はほとんど、25歳以下と、完璧な出来のイングランドを跳ね返すだけの経験値が足りなかった。
「準々決勝のアイルランド戦が良かったのでメンバーを変えづらかったのでしょうが、ベン・スミス(33)やライアン・クロッティ(31)といったベテランがいたら悪い流れを変えられたかもしれない。それと、大会を通じてバレットがスタンドオフとして今ひとつ信用を得られず、フルバックに回らざるを得なかったのも誤算でした」(村上氏)
そのバレットの姿を新橋のラーメン店で本誌がとらえたのは、開幕3日目のことだった。前夜、南アフリカとのいきなりの大一番に快勝したオールブラックスの主力の面々は、味噌ラーメンを啜(すす)ってご満悦だった。さすが王者の余裕と思ったものだが、今にして思えばちょっとした油断が、この時すでにあったのかもしれない。
それでもニュージーランドを中心とした勢力図は今後も変わらないと、村上氏は断言する。
「今回のオールブラックスの敗戦は強すぎるからこそ。他のチームがW杯のオールブラックス戦に焦点を絞ってくるのに対し、オールブラックスはW杯に限らずすべての試合に勝利を義務付けられています。特定の相手や試合に合わせて戦ったりしない、いわば横綱です。絶対的な力の差があるがゆえに、W杯で時々オールブラックスは足をすくわれる。それでも直近のW杯3大会を見ればニュージーランドは19勝1敗で優勝2回、3位1回。そりゃ、たまには負けますよ(笑)」
初の8強進出で日本のラグビー熱は大いに盛り上がった。しかし、世界の壁はまだまだはるか高くに聳(そび)えている。
『FRIDAY』2019年11月22日号より
- 写真:AP/アフロ