五輪マラソン札幌移転で小池都知事がIOC委員長と手を握った理由
問題決着の背景は「パリ五輪」のための実績作りか
寝耳に水の東京五輪マラソン移転問題が浮上してから2週間あまりの11月1日、札幌開催が正式決定した。
|「小池百合子都知事は激怒していました。ただ、最初からすでにIOC(国際オリンピック委員会)との折衝で蚊帳の外に置かれ、国や組織委員会などによって小池包囲網が作られていたことが分かり、その後はこれを逆手に取ったのです」
政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏はこう解説する。実際、小池知事は都民に対する説明責任を放棄し、移転費用拒否を強く打ち出した。政治的計算も働いた。
「強引な札幌移転問題の経緯や経費の問題が明らかになってくる中で、都民やマラソン関係者の間にも『IOCはひどい』『ガンバレ小池』という流れができた。前回の知事選で彼女が圧勝できたのは”巨大権力に立ち向かう女”という構図を作れたから。調整委員会の席上で実質譲歩しながらも『合意なき決定』という表現を使ったことで、巨大権力IOCに立ち向かったという実績を作ることができました。IOC側も、”知事の敵(かたき)役”を引き受けることは了解ずみだったかもしれません」(前出・鈴木氏)
何のことはない。結局小池都知事とIOC調整委員会のジョン・コーツ委員長のバトルは、机の下では手を握っていたということらしい。関係者による合同会議後、移転承認条件として「東京都は移転費用を負担しない」という合意内容が発表された。やけに気前よくIOCが決着をつけようとした原因はどこにあるのか。
「もちろん、お題目の”アスリート・ファースト”なんかじゃありません」
と言うのは、あるJOC関係者だ。
「背景にあるのは、東京の次の開催都市であるパリが、8月のマラソン実施を躊躇(ちゅうちょ)し始めたからなのです。パリは今夏40度を記録、マラソンなどとてもできるわけがない猛暑日が続きました。IOCはクーベルタン男爵が創設し、今も組織内での第一公用語がフランス語という”フランスサロン”。彼らはパリの言うことは何でも聞いてやるが、東京など何とも思っていない。開催都市でない札幌で競技しろと東京に命じてきたのは、次のパリ大会が避暑地での分散開催をしやすいように、東京で実績を作るつもりなのです」
11月5日に会見を開いた日本陸連強化委員会の瀬古利彦氏は、「IOCの力の前ではどうにもできない。東京開催を押し通したら、もう五輪でマラソンはやらなくていいと言われるのでは、という思いがあった」と涙を浮かべた。
この屈辱を晴らすために、日本陸連には、札幌でマラソン金メダルを獲得してほしいものだ。
『FRIDAY』11月22日号より
- 撮影:鬼怒川毅
- 写真:時事通信