誕生から約20年。グーグルが変えたこと、出来なかったこと | FRIDAYデジタル

誕生から約20年。グーグルが変えたこと、出来なかったこと

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Googleが誕生したのは、1998年9月7日。当時、スタンフォード大学博士課程に在籍してしていたラリー・ペイジセルゲイ・プリンという二人の学生が立ち上げた検索エンジンについての小さな研究プロジェクトが、わずか20年ほどで超巨大企業に成長した。

ご存じの通り、今や世界経済を掌握すると言われる4大企業「GAFA」の一員である。実際、私たちの生活は、Googleなしにはもはや成立しないといってもいい。知らないことがあればGoogleの検索ページを開き、どこかへ出かけようというときにはGoogle Mapを開く。仕事で利用するオフィスソフトも、Googleによって提供される無料のアプリを使う機会がぐっと増えた。そう、私たちが何か行動しようというときには、Googleのサポートに頼ることがもはや当たり前になっている。

そんな、知らず知らずのうちにGoogleによって変えられてしまったこと、同時にGoogleには出来なかったことを、ITジャーナリストの三上洋氏に聞いた。

Googleが大きく変えたのは「プライバシーの意識」

Googleによって大きく変えられたもの、それは何より「プライバシーの意識」であると三上氏は話す。

「例えば、Goggleにログインして検索したものは、全て履歴を取得されています。Google MapやGoogle ChromeなどのGoogleアプリを使っていれば、今どにいるか、どこを移動したのかという位置情報も把握されている。そしてそれらの履歴は全て、彼らの広告ビジネスにつながっている。WEB画面上に、それまでに見ていたページに関連する広告が出てくることを、私たちは気づいているけれど、もはやそこに疑問は感じていないですよね?」

例えば「天気」とGoogleで検索をすると、自分が今いる場所の天気情報が現れる。つまり私たちの居場所をGoogleは自動的に特定しているわけだが、それを便利と思う人がほとんどで、個人情報を不当に取られたと怒るユーザーは少ない。

Google Mapストリートビューに至っては、インターネット上に自分の家が晒され、丸見えになっているが、

「ストリートビューが登場した当初は、『絶対に嫌だ』という反対意見が多数ありましたが、今ではその声がなくなりました。つまりストリートビューで自分の家が誰にでも見られてしまうことが当たり前になってしまった。Googleは、この20年で私たちのプライバシーに対するハードルを大きく下げたんです」

既存のビジネスを破壊したGoogle

地図に関連するビジネスがほとんどダメになってしまったのは、GoogleがGoogle Mapで地図を無料で提供したからですよね。そもそも地図を開いて見るという作業自体を私たちはしなくなりました。住所さえ分かれば、Google Mapがナビゲートしてくれますから」 

ガイドブックを見ることもなくなった。Googleで料理店を検索すれば、『食べログ』や『ぐるなび』といったグルメサイトの評価が現れ、さらに最近では、Google Map上で検索するとGoogleが収集した口コミが表示される。

「Google Mapは、単なる地図を超えて“場所探し”や“お店探し”をするツールにもなっています」

日常生活や仕事に欠かせないメールも同じだ。 

「以前は色々なプロバイダーが提供していたメールのサービスも、今は多くの人がGmailを使っている。Gmailでやり取りされるメールの内容も、全てGoogleに筒抜けです。例えば航空券の予約メールが来ると、Googleはそれを見てスケジュールに自動入力してくれる。便利な機能ですが、Googleがメール内容を見ている証拠でもあります」

Googleは、それまで有料だったサービスを全て無料で提供する代わりに、シェアを握り、利用者の情報を取得している。

「究極はスマートフォンでしょう。日本ではスマホといえばiPhoneですが、世界的に普及しているのは圧倒的にAndroidです。これもAndroid OSをGoogleが無料で開放したことで、いろんな企業がAndroidスマホを作ることができた。スマートフォンの普及を後押ししたのはGoogleなんです。もちろん、AndroidからもGoogleは情報を取得しています」

Googleが無料で開放したAndroid搭載の最初のスマートフォンは2008年10月に発売された。写真は、発表会でのラリー・ペイジ氏(左)とセルゲイ・ブリン氏(右)
Googleが無料で開放したAndroid搭載の最初のスマートフォンは2008年10月に発売された。写真は、発表会でのラリー・ペイジ氏(左)とセルゲイ・ブリン氏(右)

Googleが苦手とするのは「コミュニケーションツール」

その一方で、今年の4月、Googleは自社のSNSサービスgoogle+を終了した。

「10個のサービスをスタートさせたとしたら、9個は失敗でもいい。 Googleに限ったことではありませんが、目が出そうなもの全部に手を出し、そのうちほんの一部が成功すればいいというのがIT企業の考え方。

その中で常にGoogleが失敗するジャンルがあって、それがSNSなんです。Google+はFacebookに対抗したサービスでしたし、その前にはGoogle BuzzというTwitterによく似たサービスがありましたが、それも2011年に終了しています。彼らは人間が介在する“ソーシャルコミュニケーション”サービスでは成功した試しがない」

Googleが撤退したサービスに共通するのは、どれも“後追い”であるということ。そして上手くいかなかったとき、成功しているサービスを“買う”のもIT企業のやり方。YouTubeを倣ってスタートさせた動画配信サービスGoogle Videoは上手くいかず、2006年に16億5000万ドル(約2000億円)でYouTubeを買収した。

そのほか、2008年に開始したLivelyは3Dの仮想空間で自分のアバターを通じてユーザー同士がコミュニケーションできるという、言わばGoogle版SecondLifeであったが、これもわずか4ヶ月で閉鎖。

「人間同士のコミュニケーションツールであるSNSは、運営側が苦労しながら育てていかなければならないサービス。地図や、ネット広告のように『あとはユーザー同士で勝手にやってください』っていうのがGoogleのビジネスのやり方です。 

検索サービスだけは、既存のサービスはあったんですが、それまでとは違う新しいものを考えた。だから成功できたんです」

Facebookに対抗し2011年6月にスタートしたGoogle+は、今年の4月に終了した
Facebookに対抗し2011年6月にスタートしたGoogle+は、今年の4月に終了した

とはいえ、その検索サービスで築いたGoogle帝国も揺らぎつつあると言う。

「Googleの検索結果がすっかり信用出来なくなってしまったからです。商品を検索するとアフィリエイト記事ばかりが出てくるし、医療関係のトピックを検索すれば真偽が怪しい記事が目立ちます。

僕自身もGoogle検索はすっかり使わなくなりました。24時間とか12時間といった短いスパンで、ニューストピックへのコメントを求められることが多いので、Googleの検索では役に立たないんです。リアルタイムで検索できるTwitterを使っています。 

今、Googleは、検索サービス一辺倒ではなく、クラウドサービスに力を入れています。彼らにとって、『検索』は事業を成功させるための“きっかけ”にしかすぎなかったんです。現在の主な収益源は、広告事業やスマホ事業、そして企業向けのクラウド事業です。『世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること』を経営理念に掲げているGoogleですが、かなり前から軸足はB to Bに向いています」

2019年10月、量子コンピュータの「量子超越性」を実証したと発表。写真は、その研究者のひとり、サンダー・ピチャイ氏
2019年10月、量子コンピュータの「量子超越性」を実証したと発表。写真は、その研究者のひとり、サンダー・ピチャイ氏

つい先日、自社のロゴを高々と掲げた渋谷ストリームに、オフィスを移したGoogle。また米本社は10月23日、英科学誌『ネイチャー』で自社開発した量子コンピュータが「量子超越」と呼ばれる技術を立証したことを発表した。これは、最先端のスーパーコンピューターが1万年かけて解く複雑な計算問題を、わずか3分20秒で解くことができる革新的なものだという。Googleの新たな挑戦に注目したい。

三上洋 ITジャーナリスト。文教大学情報学部非常勤講師。セキュリティ、ネット事件、スマートフォンが専門。現在、読売新聞に「サイバー護身術」を連載中。最新のIT情報満載の「ライブメディア情報番組 UstToday」(毎週月曜21時に配信)にも出演中。

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  • 取材・文鈴木みほ写真アフロ

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