汚泥タンクで28歳女性の遺体発見 不倫の末に起こった凄惨な殺人 | FRIDAYデジタル

汚泥タンクで28歳女性の遺体発見 不倫の末に起こった凄惨な殺人

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第33回

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2009年、滋賀県で凄惨な殺人事件が発生した。不倫相手とのトラブルで28歳の女性が殺害され、遺体が汚泥タンクの中から発見された。しかも、死因は窒息死。まだ息のある女性を汚泥タンクに投げ込んだものと思われる。ノンフィクションライターの小野一光氏が、事件の背景に迫った。

森田繁成は180㎝以上の高身長だった
森田繁成は180㎝以上の高身長だった

滋賀県米原市の汚泥タンクから、同県長浜市に住む会社員・A子さん(死亡時28)の遺体が発見された事件で、滋賀県警は2009年6月19日に、同県米原市の会社員・森田繁成(逮捕時40)を殺人容疑で逮捕した。

この逮捕の一報を受けて現場に向かった私に、在京キー局の情報番組スタッフは説明する。

「A子さんの遺体が発見されたのは6月12日の午前6時頃。各家庭の汚物を処理した際に出る汚泥を一時的に溜める、コンクリート製の排水槽が地中に埋設されているんですが、そこで汚泥のくみ取り作業をしていた作業員が排水槽内の遺体に気付き、警察に通報しています。遺体の顔には殴られたような痕があり、左後頭部には陥没骨折があったことから、金づちのような鈍器で何度も殴られたとの見立てのようです」

死因は汚泥を喉に詰まらせたことによる窒息死で、頭を殴られて瀕死の状態で排水槽に投げ込まれ、絶命したものと思われる。司法解剖による死亡推定時刻は11日午後8時頃。遺体は水色の作業着を着ており、靴は履いていなかった。

被害者のA子さんは大手特殊ガラスメーカーの請負会社に勤めており、同県高月町の工場に派遣されて液晶検査の仕事を担当していた。一方で森田は同ガラスメーカーの正社員で、彼女が働く製造ラインを含めた工程管理をし、作業を監督する立場だった。同スタッフは続ける。

「森田には妻と小学生の子供が2人いますが、捜査本部は森田とA子さんが不倫関係にあったと見ています。また、その関係については職場でも知られていて、かなり親しげな様子でいる2人の姿が目撃されています」

取材中に出会ったA子さんの知人女性も、彼らの不倫関係について証言する。

「私の友だちがA子ちゃんと仲が良く、逮捕された森田との不倫のことを、彼女本人から聞いてました。A子ちゃんは森田から暴力を受けていたことも話していたそうです。そのときには『このままじゃヤバイかもしれん』と話していたようで、なにか身の危険を感じていたようでした」

この仲の良かった友人は、6月12日に発見された遺体がA子さんのものだと判明すると、すぐに警察に出向いて森田のことを話したという。

A子さんが消息を絶ったのは6月10日の午後8時過ぎ。請負会社の営業所を、携帯電話を操作しながら出る様子が同僚に目撃されている。またこの日の午後8時43分頃に、A子さんが森田に携帯メールを送信したこともわかっている。それ以降、彼女の行方はわからなくなっていた。

遺体が発見された排水槽があるのは田園地帯で、近くにある農道からは植え込みを挟み、見えづらい場所に位置する。ただし、10日の午後10時半頃には、森田が乗る自家用車と似た車が、この場所に停められているのが目撃されていた。

女性の遺体発見場所となった汚泥タンク付近
女性の遺体発見場所となった汚泥タンク付近

また、押収された森田の車の左後輪のブレーキドラムにはA子さんの血痕が付着しており、13日にはルームミラーの壊れた車両の修理と清掃を、自動車修理業者に依頼していたこともわかっている(のちに取りやめ)。

前出のA子さんの知人女性は言う。

「A子ちゃんが家に帰らなかったので、彼女のお母さんが11日に警察に捜索願を出したんですね。それで、さっき話したのとは別の友だちのところに行って、『娘が帰って来ないんだけど、なにか知らない?』って尋ねたときに、その子がA子ちゃんの携帯に電話したら、知らない男の人が出たそうです。『これはA子ちゃんの携帯じゃないの?』って聞くと、その男の人は否定して、『いま会議中だから』と言って、電話を切られてしまったって。それ以降は、何度電話しても携帯はつながらなかったと聞いてます」

森田の勤務先に確認したところ、彼は11日の午前8時半から午後5時まで出勤していたことが判明した。森田は10日まではA子さんと頻繁に連絡を取っていたが、11日以降はほとんど連絡を取ろうとせず、会社に出勤せずに突然消息を絶ったA子さんについて、心配する様子を見せることもなかった。

自宅周辺で森田の評判について尋ねて回ったところ、聞こえてくるのは、子煩悩な父親という評判が多い。近隣住民は話す。

「この辺では小学生が集団登校しているのですが、集合場所にはいつも夫婦揃って見送りに来ていました。逮捕される前にも小学校の行事に顔を出していましたし、米原市内でやっている『ほたる祭り』にも家族全員で出かけていました」

滋賀県警担当記者は逮捕後の森田の様子について語る。

「捜査員の取り調べに対して、森田は犯行への関与について否認を繰り返し、A子さんとの交際の事実すら認めていません」

また、逮捕から2カ月後にこの事件について再取材をしたところ、7月9日に大津地検から殺人罪で起訴された森田は、依然として「まったく身に覚えがない」と否認していることがわかった。

この取材の際には、森田の勤務先の元部下から新たな証言も得られている。

「報道で近所の人には温厚そうなお父さんと言われてますが、職場での森田は怖い上司という感じでした。よく怒るし、キレて怒鳴る姿もたびたび目にしました」

10年11月から大津地裁で始まった裁判員裁判では、A子さんの腕などに殴打を防ごうとした際の防御創が多数あったことから、彼女が失神するまで逃げようとし、森田には強い確定的殺意があったとした。ただし、汚水槽に投げ込んだことについては、森田がA子さんの生死を認識していたかどうかは判然とせず、殺意に基づく行為と認める証拠はないため、悪質な事後行為とされた。

また動機面については、両者が互いの浮気を疑って責め合っていたことは、メールの内容から明らかとされたが、殺害の動機としての特定には至らなかった。とはいえ、状況証拠について、森田の弁明は極めて不自然で不合理であることから、犯行への関与は明らかであるとして、同年12月に懲役17年(求刑無期懲役)の判決を言い渡した。

この判決を不服として森田は最高裁まで争ったが、13年2月に上告を棄却され、同判決が確定している。

  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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