インフルエンザ新薬「ゾフルーザ」 重大な副作用の恐れアリ
異例の速さでスピード認可 医学界からは安全性に疑問の声
日本でのインフルエンザ流行のピークは例年1~2月だったが、今年は早くも9月の時点で感染拡大の兆候が確認されている。ラグビーW杯の影響で、罹患した旅行者から感染するケースも想定され、例年以上の警戒が必要とされている。しかしその安全性について医学界から疑問の声があがっているインフルエンザ治療薬がある。’18年3月に塩野義製薬から発売された新薬『ゾフルーザ』だ。
春先の発売とあって当初は大きな話題とならなかったが、その後、売り上げが急伸。タミフルら既存の治療薬を抑えて’18年度のインフルエンザ治療薬の年間売り上げ1位に輝いた話題の新薬である。塩野義製薬が医師たちにアピールしたのはゾフルーザの「単回経口投与(1回の服用でOK)」という利便性だ。
従来の治療薬――たとえばタミフルは一日2回、5日間の服用が求められる。イナビルやリレンザは吸入薬なので、高齢者などは服用が難しいケースもある。その点、ゾフルーザの単回経口投与という利便性は画期的だった。
ところが、神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授は「神戸大ではゾフルーザは採用していません」と言う。
「使用すべき理由がありません。一般的に新薬とはすぐに飛びついてはいけないもの。ベンチャー企業のようなものです。この先どうなるかわからないベンチャー企業に、大金を投資しませんよね?」
どういうことか。岩田教授が続ける。
「1回の服用でいいということは、従来の薬に比べて半減期が長く、薬が長く身体内にとどまるということ。副作用が出たら、副作用も長く続くのです。臨床実験でゾフルーザが示した効果はタミフルと同等。〝まともな医者〟ならあえて使わないはずです」
半減期とは、身体の中に入った薬の血中濃度が半分になるまでの時間を指す。タミフルの半減期が6~10時間なのに対して、ゾフルーザのそれは77.6~114時間である。すなわち、ゾフルーザを服用して副作用が出たら、4日前後続くのだ。
ゾフルーザを服用した患者に重大な副作用が起きていることは、あまり知られていない。今年3月には出血症状が添付文書に追加されている。ゾフルーザとの因果関係が否定できない血便、鼻出血、血尿等が報告されているという。1例だったが脳出血の報告もあった。6月にはアナフィラキシーによる呼吸困難、全身の掻痒(そうよう)感、嘔吐なども報告されている。
実はゾフルーザが発売される時点で耐性ウイルスの出現が把握されており、添付文書にも明記されている。国立感染症研究所による’18-’19年シーズンにおける「抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス(調査・監視)」でもゾフルーザ服用による耐性ウイルスの出現が認められ、12歳未満の小児には慎重に投与を検討すること、 免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しないことが提言されている。昨年12月、横浜市の小学生から見つかった耐性ウイルスは、変異していないものに比べてゾフルーザの効果が約100分の1に低下していた。
国立感染症研究所の発表では、10月11日の時点で報告されている耐性ウイルスのうち、5例はゾフルーザ未投与の患者から検出され、そのうち2例が家族内発生だった。「耐性ウイルスがヒト→ヒトに感染する」ということである。
これほどの危険をはらんでいながら、「彗星のように医薬界に現れた」と表現されるゾフルーザ。実は’15年に先駆け審査指定制度の対象品目に指定され、通常であれば1年前後かかる審査が4ヵ月という異例の速さで承認されているのだ。
’15年から始まったこの制度を利用するためには①治療薬の画期性、②対象疾患の重篤性、③対象疾患に係る極めて高い有効性、④世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思という4要件をすべて満たすことが条件となっている。
塩野義製薬広報部は「申請データおよび申請資料の軽減を容認するものではなく、(中略)定期的に試験の進捗等を報告するなど、申請前から実質的な審査が開始されており、十分に審査される」と同制度の説明をしたうえでこう答えた。
「医療用医薬品の安全性に関して、有害事象や副作用が全くない薬剤はないと考えております」
厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課はゾフルーザが先駆け審査の対象となった理由として「薬が効くシステムが従来の治療薬と異なること」と「単回経口投与という利便性」の二つを挙げ、安全性については次のような見解を示した。
「使用実績は1シーズンを過ぎたところですし、いまの時点で安全かそうじゃないかを判断するのは早いと思います。新薬は発売後、企業に製造販売後調査が課されていますので、重要な有害事象があればその都度、情報提供されます。現時点でゾフルーザが広く国民に健康被害を及ぼす薬とは認識しておりません」
薬には副作用がつきもの、現時点では問題ない――塩野義製薬と厚労省の考え方に、ある種の開き直りを感じるのは筆者だけだろうか。岩田教授が言う。
「20年近く使用実績があるタミフルなどの治療薬に比べ、ゾフルーザには十分な臨床データがありません。しかも、耐性ウイルスが出現する可能性が高いと言える。耐性ウイルスが発生した場合、何が起こるかわからない。ゾフルーザの使用によって10年後、20年後、インフルエンザウイルスにどんな影響が表れるのかもわからない。わからないことに無自覚という、極めて危険な状態だと思います」
岩田教授の指摘に対して、厚労省はもっと真剣に耳を傾けるべきだろう。
『FRIDAY』2019年11月29日号より
- 取材・文:吉澤恵理
- 写真:dpa/時事通信社(1~2枚目)
薬剤師、医療ジャーナリスト
薬剤師として26年間医療に関わった経験から医療ジャーナリスト、美容研究家としても活動。 結婚、妊娠、出産、離婚、介護と様々な経験を経て、現在4人の子供を育てるシングルマザー