IS戦闘員 トルコが本国送還「日本にテロリストが送還される」?
日本国籍を持つIS戦闘員も…イスラム法学者が詳細を明かした
「欧米各国の政府は、テロを起こす危険性のあるIS(イスラム国)戦闘員の受け入れに強く反対しています。それに対し、トルコ政府は『自分たちはテロリストのためのホテルではない』と主張し、今回、送還に踏み切りました」(国際政治アナリスト・菅原出(いずる)氏)
11月11日、トルコ内務省が、国内で拘束していた外国籍のIS戦闘員やその家族を本国へ送還し始めたと発表した。トルコからすれば、約1200人いるという外国籍のIS戦闘員とその家族を収容所で拘束し続けることは、金銭的にも安全面の観点から言っても負担が大きい。国際的に独裁政治を批判されてきたトルコが逆ギレ気味に送還を決めた形だが、テロリストを送り付けられる欧米諸国からの反発は大きい。
「IS戦闘員が本国に戻ってきた場合、欧米各国の政府は彼らの国籍を剥奪し、入国を拒否するでしょう。そもそも欧米諸国からISに加入した戦闘員の中には、欧米国内で人種差別的な扱いを受け、本国政府への不満を抱えてきたムスリムや移民が多い。それにもかかわらず、さらに国籍を剥奪されるという仕打ちを受ければ、彼らは本国への不信感をより募らせ、再びテロや過激な思想に走ってしまう可能性が高い。国籍を剥奪するという行為は、本来テロを防ぐために行っているもののはずですが、中長期的に見ると、むしろテロを助長してしまうとも言えるでしょう」(前出・菅原氏)
今後、IS戦闘員が日本にも送還されてくる可能性はあるのだろうか。同志社大学元教授でイスラム法学者の中田考氏はこう語る。
「トルコから送還されるIS戦闘員の中に日本人はいません。ただし、日本国籍を持つISの構成員としては、バングラデシュ出身で日本人女性と結婚して日本国籍を取得した、立命館大学元准教授のモハメド・サイフラ・オザキ氏がいます。彼は’16年7月にバングラデシュの首都・ダッカにあるレストランで、日本人7名を含む22名が命を落とした事件にも関わったとされており、現在はイラクのクルディスタン地域で拘束されています。また、’14年には20代のムスリムの夫婦が日本からIS支配地域に渡りました。夫はアルジェリア系フランス人ですが、妻は純粋な日本人でした」
彼らのように日本国籍を持つISの関係者が日本に戻ってきた場合、日本の治安当局も対策を迫られることになる。元警視庁警視の江藤史朗氏は、日本のテロ対策の現状についてこう語る。
「もし、オザキ氏のようなIS戦闘員が日本に送還されてきたら、日本政府はISに関する情報を探るために彼をしばらく泳がせるでしょう。一方で、彼を泳がせている間に国内でテロを起こされるようなことは防がなくてはいけない。そういった場合の具体的な対策として、警視庁内では10個隊ある機動隊の中から500人ほどの隊員がいつでもテロに対応できるよう訓練されており、万全の態勢が整えられています。また、現実的に一番脅威になるのはサウジアラビアで武器として使用されたこともあるドローンによるテロですが、これを防ぐために撃退用のドローンを使ったり、妨害電波を出したりする作戦もとられています」
戦闘員が拘束されている地域から送還されるパターンだけでなく、戦闘員が日本に潜入しに来るケースに関しても、当局は対策を取っているという。前出の江藤氏が続ける。
「警察庁は警視庁と連携し、さらに海外の情報機関とテロリストの情報を共有しています。そのため、仮にテロリストが日本行きの飛行機に乗った場合も、海外の情報機関からすぐに連絡が入り、出入国在留管理庁が水際で彼らの入国を食い止めることができるのです」
とはいえ、世界のテロリストはこれまで常に捜査当局の裏をかき続けてきた。不慮の事態に備えるためにも、さらなる対策が必要だろう。





『FRIDAY』2019年11月29日号より
撮影:會田園(中田氏)写真:アフロ(2枚目) 時事通信社